第238話   実験

 コルネリアの魔道具完成報告を受けた江梨香は、再重要項目の確認をする。これを確認しないことには始まらない。


 「そっ、それで、ダイヤモンド、ディアマンテルは無事なの」


 コルネリアはディアマンテルを装着した杖を掲げて見せる。


 「この通り、傷一つありはしない」


 秋の日差しを浴び一際は燦然と輝くアリオンの雫がそこにあった。


 「よっ、よかった」


 お腹の中から緊張感が減衰していくのを感じる。


 「儀式をして分かったが、やはりこの石は特別です。私程度の魔力量ではびくともしない。自身の力不足を痛感した」

 「コルネリアで力不足って・・・とんでもない石ね」

 「流石はアリオンの雫と言ったところでしょうか、このような貴重な宝石を使えるとは、エリカとマリエンヌ嬢に感謝します」

 「お礼を言われるほどの事じゃないから、それに、マリエンヌはファルディナに改名したから、これからはファルディナって呼んであげて」

 「ファルディナ・・・なるほど、不死の鳳、ファルディールからの命名ですか。良い名だ」

 「ありがとう。彼女にもそう言ってあげて」

 「分かりました。それで、試してみますか。新しき魔道具を」

 

 コルネリアが金細工が施された緑の宝石を差し出した。


 「やったー。で、どう使うの」

 

 受け取った宝石を日の光に透かして見る。

 表面の金細工と宝石の間で、魔力が高速で伝導しているのが分かった。


 「石に魔力を流し込みます。あっ、軽くです。軽くですよ」

 「うん」


 言われた通り、軽く魔力を流し込んでみた。

 江梨香の強力な魔力を受けた魔道具は、眩しい光と熱を放った。


 「熱っ」

 

 思わず魔道具でお手玉をしてしまった。


 「だから、軽くと言ったでしょう」

 「えっ、結構力抜いたんだけど」

 「それで力を抜いているのか」


 コルネリアは半ば呆れたような声を出す。


 「全くエリカの魔力は底なしですね。貴方であればこのディアマンテルを叩き割ることも出来るでしょう」

 「嬉しくない」


 そこから使用方法の説明を受ける。

 この魔道具は団長の宝石と、ペタルダさんから借りている水晶球とのセットで動く代物だった。

 電話の要領で、魔道具を右の耳に当ててしばらく待っていると、頭の中でノイズが走ったような感覚と共に、声が聞こえてきた。


 『エリカー。聞こえる? 聞こえたら手を振って』


 納屋の前でレイラが両手を振っている。


 「聞こえる。聞こえるわよ」


 嬉しくなって全力で手を振った。

 凄い。完全に電話機、もしくは無線機と言ったところね。無線機って地球ではいつ頃の発明だっけ。蒸気機関車と同じぐらいだったような。それが今目の前にある。蒸気機関車はないってのに。これでコルネリアの名前は未来の教科書に載るわね。歴史的な瞬間に立ち会っているのね。私。

 一時はどうなるかと思ったけど、この投資案件は完全勝利やわ。



 それから入れ代わり立ち代わり、みんなで魔道具の能力を確認する。

 一番驚いていたのはエリックだった。

 どうやら想像していた魔道具とは全然違う物だったみたい。エリックは大きな声が出る魔道具と思っていたみたいね。

 物凄く興奮して質問をする。


 「コルネリア。これはどれぐらい離れた場所からでも使えるのでしょうか」

 「確かめてみよう。試しに村はずれまで行ってくれぬか。エリック」

 「喜んで」


 魔道具を受け取ったエリックは、馬小屋からいそいそと馬を引き出すと、鞭を立てて走り去ってしまった。


 「兄さま行っちゃった。コルネリアさま。これって、どれぐらい遠くまで聞こえるのかな」


 レイラが江梨香の真似をして、右耳に魔道具を押し当てながら訪ねた。


 「私にも分らぬ。話せる距離に関しては、この水晶球の力次第と言ったところか。500フェルメ(約600メートル)は、確実だとは思うのだが・・・」

 「へー。兄さまー。聞こえるー? 」

 

 レイラは魔道具を耳に押し当てたまま話しかける。


 「どうです」

 「なんか、ハァハァ言ってる」

 「なんですかそれは」

 「だって、そうだもん。はい」


 レイラから石を受け取ったコルネリアは魔力を同期させる。


 「・・・確かに息遣いが聞こえる。これは馬の息遣いか? いや、エリックの息遣いか・・・分からぬな」 

 

 しばらくすると、エリックからの応答があった。


 「聞こえる。聞こえるよ。兄さまー」

 

 レイラがその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。


 『凄いな。本当に聞こえる。レイラの声だってのも分かるぞ』

 「レイラ。どれほどの距離か、訊ねなさい」

 「うん。兄さま。どれぐらい離れたか聞けって」

 『ビーンの畑の場所だから1500~1600(約二キロ)フェルメぐらいの距離だな。本当に凄い魔道具だ』


 エリックは村はずれと言うか、村の境界付近まで行ってた。


 「1500フェルメだって」

 「1500・・・素晴らしい・・・」


 コルネリアは感無量と言った感じで立ち尽くした。


 「おめでとう。偉大な発明家になったね」


 江梨香がお祝いを述べると、コルネリアは何度も頷くのだった。

 喜びに打ち震えてると言った様子だ。



 この通信型魔道具の最終的な通話距離は、驚異の2200フェルメ(2600メートル)に達し、実験は大成功に終わった。 

 ただ一つ、江梨香は魔道具に違和感を覚えた。それは良いものではない。

 

 なんだろう。エリックとの距離が離れれば離れるほど、妙なノイズが増える。

 気持ちの悪いノイズだ。何と言えばいいのか、外部からよからぬ電波が混信していると言えばいいのか、人を不安にさせるよな波動を水晶球から感じた。

 レイラやコルネリアには感じ取れないらしく、距離による魔力の減衰ってことに話は落ち着くのだが、やや、納得できない気持ちの悪さ。

 左腕を見ると銀の腕輪が光っている。腕輪が光るってことはクラゲさんが働いているって事。やはり何かあるみたい。


 「ごめん。ちょっと、力込めるわね」

 「エリカ。なにを? 」


 コルネリアの疑問に答えることなく、江梨香は水晶球に左手を添えると魔力を注ぎ込んだ。

 水晶球が瞬き、頭の中でバチンと音がした。


 「ふう」


 魔力を流し込んでやると、水晶球から発せられていた嫌な感じの波動は消え去っていた。

 直感的な行動だったけど、結果オーライだったみたい。

 うーん。何だったんだろう。あれは。



              続く

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