八章 リドワーンの冠

第1話 くろいサンゴの カギ

「意識はありませんが、息はしています。大きな怪我もなさそうです」


ハッサンの ことばに ぼくは ほーっと いきを はいた。


うみから ひきあげた Jは まっさおな かおをして ぐったり きを うしなっていた。けど ハッサンが「大丈夫」と いったから きっと だいじょうぶなんだと おもう。


「さっきの嵐でやられたのね。他にも浮かんでるのがいないか確認して!」


おかしらの ごうれいに みんな いっせいに たちあがった。それから ぼくらは いっしょけんめい うみを そうさく したけれど ばらばらになった きぎれのほかには なにも みつけることが できなかった。




ひが しずみかけたころ ゆうごはんの じゅんびを てつだってたら ハッサンが やってきた。


「モラ、ちょっといいですか」

「なあに?」


かけよると ハッサンは ちらりと オーガストを みてから こえを おとして ぼくに つげた。


「Jが目を覚ましたのですが、モラに話があるそうです」


Jが? ぼくに?


「うん わかった。ぼく いってくる」

「……俺も行く」


そういって オーガストまで たちあがったら おどろいて ハッサンが それを とどめた。


「Jが呼んでいるのはモラですよ」

「俺が同席したら何かマズいのか?」


とたんに ハッサンが くちごもると オーガストは かちほこったように ニッと わらった。


「昔からお前は顔に出やすいんだよ。Jの奴、俺には内緒でとかなんとか言いやがったな?」


ずぼしだったみたい。ハッサンは ぐっと ことばをのんで ちょっと ほっぺたを あかくした。


こまった かおの ハッサンをおいて オーガストが おおまたで あるきだしたから ぼくも こばしりで そのあとを ついていった。




いむしつの ドアを あけると ベッドのうえ Jが おきあがっていた。Jは オーガストを みると たんせいな かおを しぶらせた。


「貴様を呼んだ覚えはないが」

「小生意気な口は元気になったらしいな」


オーガストは ずかずかと すすむと ベッドわきの イスに どっかりと こしをおとした。そうして ばさりと うわぎを ひるがえして うでぐみをした。


「で? 俺には言えない用件ってのは何だ?」

「貴様に断りを入れる必要があるのか?」

「生憎コイツの後見人は俺なもんでね」


オーガストが おやゆびで ぼくを しめすと Jは ふぅと ためいきを ついた。


「身持ちの悪い貴様が他人の世話か。一体どういう風の吹き回しだ?」

「さぁな」


オーガストが わざとらしく かたを すくめてみせると Jも それいじょうは きかなかった。しろい ほほに くろかみが さらりと ゆれて Jが ぼくに かおを むける。ぼくは Jの そばまでいくと ドキドキしながら ズボンを ぎゅうって にぎりしめた。


「お前が、私を見つけてくれたそうだな」


ぼくが こくんと うなずくと Jは くびすじの ほそい くさりを ひきあげた。ペンダントの さきっぽに ゆれる くろいカギ。


「借りを作るつもりはない。これを」


そういって Jが ぼくの てに カギを のせると オーガストが いきを のんだ。


「お前、それは黒珊瑚の鍵……!」

「そう、これが無いと『リドワーンの冠』は手に入らない」


リドワーンの かんむり。それって。


「ひとつだけ望みが叶うという伝説の冠……それを諦めるというのか?」


オーガストの ことばに Jは しろい かおのまま ふっと わらった。


ぼくは Jと オーグの かおを こうごに みてから てのひらの うえの カギを みた。よぞらより くろく かがやく ちいさな ちいさな ひみつの カギ。


ぼくは ちょっと かんがえてから カギを にぎりしめた てを Jに つきだした。


「おねがいごとは Jが いって いいよ」


Jが きれながの めを みひらいて ぼくを みた。


「何……!?」

「ぼく オーガストの そばに いたいって おもったんだ。けど それは もう かなったから おねがいごとは Jに あげる」

「……どんな望みでも叶えられるのだぞ?」

「ぼくの おねがいごとは ひとつだけだよ」


Jは しばらく あっけに とられていたけど そのうち くっくっと おさえた わらいごえを あげて かたを ゆらした。


「『後見人』、か。素直に『恋人』と名乗ってはどうか、オーガスト?」


オーガストは それには こたえないで そっぽを むいて したうちした だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る