第2話 かなえたい のぞみ

おつきさまが たかく のぼってから ぼくは ミルと みはりとうばんを こうたいした。へさきに いって ゆらめく くろい なみを ながめる。


よるの うみって すきだ。おだやかで やさしくて。


と いたの きしむ おとがして だれかが かんぱんに でてきた。ふりむくと かたに うわぎを かけた オーガストだった。


「オーガスト」

「ああ、今日の当直はお前か」


いいながら オーガストは ぼくの そばまで あるいてきて かたから うわぎを はずすと それを ぼくの かたに かけた。そのまま うしろから うわぎごと ふんわり だきしめられる。


「あったかい」

「ん? 俺もだ」


そういって オーガストは ぼくの おでこに キスをした。


なみの おとも ふねがゆらぐ きしみも なんだか つつまれるように やさしくて ぼくは そおっと めをとじた。


「……なぁ、モラ」

「なあに?」

「お前の願い事だけどな、アレ、」

「お邪魔だったかな」


そのこえに ふりむくと かんぱんに Jが たっていた。


「邪魔だ。とっとと船室帰れ」


ぼくを ぎゅうって だきしめながら オーガストが めんどくさそうに いうと Jは ふっと はなで わらった。


「何しに来た」

「……せめて黙祷をと」


そのことばに オーガストも ぼくから うでを はなした。

そうだ。

Jは あの あらしで ふねの なかまたちを みんな なくしたんだった。


Jが へさきに たって みじかい いのりの ことばを つぶやいて めをとじると オーガストも ぼくも めを とじた。



しばらく そうしてから ゆっくり めをあけると Jの しずかな よこがおが めに はいった。かすかに かぜが ふいて Jの くろかみを ゆらす。


「黒曜島へ行く事は私達の夢だった。けれど夢は、見る者がいなくては紡げない」


そういうと Jは くびから ほそいくさりを はずして ぼくの くびに かけた。くろい サンゴの カギが ゆれる。


「やはりこれはお前が持っていてくれ」


ぼくは こくんと うなずくと カギを ぎゅうって にぎりしめた。



たくさんの ひとの たくさんの おもいが ここに つまってる。

だいじに しなくちゃ。

ぼくらは たいせつなものを Jの ふねから うけついだんだもの。



「ねえ Jの おねがいごとって なんだったの?」


ぼくが くびを かしげて たずねると Jは ふっと わらって ぼくをみた。


「私は、自分の正体を知りたかった」

「正体?」


オーガストが といかえすと Jは おもいくちを ゆっくりと ひらいた。


「……私には過去が無い。名前もない。海賊船に拾われる以前の記憶が一切無いのだ」

「『J』って なまえじゃ ないの?」

「この痣の形から付けられた通り名だ」


そういって Jは ひだりてを そっと さすった。いつも はめていた きぬの てぶくろは もう ない。その ての こうに ぼくと オーガストの めは くぎづけに なった。



みかづきにも よくにた 『J』の かたちの くろい アザ!



「くろい ひとみ」

「黒い髪に、」

「しろい はだ」

「生きていたら十七歳……ってオイ、コイツ俺より九つも下だったのかよ!」


オーガストが すっとんきょうな こえをあげた。


「J……Joshua……お前だったのか、ヨシュア」


オーガストの つぶやきに Jの まぶたが ぴくりと ゆれた。オーガストは ニッと わらうと Jの かたに うでを のせた。


「お前の願い事なら俺達が叶えてやるぜ。なぁ、ヨシュア坊ちゃん」

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