【番外編】 side ミスト

「オーガスト スキ。オーガスト スキ」


 リリが部屋の中を飛び回りながら嬉しげに声を上げるもんだから、俺は思わずオーグの顔を盗み見た。けどオーグはしれっとしたもんで、涼しい顔でワインを飲んでた。


 まぁ、そうかもな。モラの「オーグ すき」は毎日繰り返されてる台詞だもんな、今更照れたりはしないか。


 とは思ったものの、なんとなくイタズラ心がくすぐられて、俺は通りがかったモラのバンダナをぎゅっと捕まえた。


「ひゃっ! なあに ミスト」


 丸い目をぱちくりさせるモラに、俺はオーグに聞こえよがしに尋ねてみた。


「モラ、オーグの事好き?」

「うん すき」


 ぱあっと笑顔になってモラが答える。はいはい、知ってますよ。

 俺は横目でオーグの顔色を確認しながら、今度は質問を変えてみた。


「じゃあさ、お頭の事は?」

「すき」


 オーグの眉毛がぴくっと上がった。


「俺の事は?」

「すき」


 モラは相変わらずほっぺをピンク色にしてほにゃほにゃ笑ってる。


「テルモは?」

「すき」


 オーグが苛立たしげにワインのボトルを握り締めた。


「ハッサンは?」

「すき」

「ジュンは?」

「すき」

「鯛は?」

「だいすき!」


 満面の笑みのモラに、俺は笑いが止まらなくなっていた。

 お腹を抱える俺を、モラは状況が飲み込めないらしく、ただただきょとんと見上げていた。

 涙のうっすら浮かんだ目尻をこすって、ちらっとオーグの方を見たら、オーグは両手で頭を抱えてテーブルに突っ伏していた。

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