五章 黒い珊瑚の島

第1話 からだのキズと こころのキズ

ノースフィールドごうに もどってからも ぼくは やくたたずで ただ ろうかで ひざをかかえて しゃがみこんでいる だけだった。



オーグ オーグ。

おねがい はやく げんきに なって。



ドアのひらく おとがして オーガストの しつむしつから ハッサンと おかしらが でてきた。ぼくは ハッサンに かけよると ハッサンの しろいふくの そでを ひっぱった。


「ハッサン ハッサン オーガストは?」

「火傷は手当てしておきました。他に外傷はありませんし、しばらくすれば良くなりますよ」


よかった。ぼくは ほっとして おおきく いきを はいた。


「ただ、火傷のせいでしょう、熱があるようです。出航はせめて彼の熱が下がってからにしましょうか」


おかしらは きゅっと くちびるを かみしめて うなずいた。


「わかった。皆にも伝えとくわ」


ぼくは はやく オーガストに あいたくて ドアに てをのばした。と そのてに おかしらのてが のせられた。


「今はそっとしといた方がいいよ。アイツ荒れると何しでかすかわかんないから」

「でも ぼく オーガストの そばに いたい」


そういうと おかしらは ぼくを じっと みつめた。


「アンタなら、……アンタになら、オーグも甘えられるかもね」


くびをかしげる ぼくのかたを おかしらは ぽん と たたいた。そうして ふっと わらって ろうかを あるいて いってしまった。


ぼくは すこしのあいだ そのせなかを みていたけど やっぱり オーガストが きになって こくんと つばをのんでから へやの ドアを あけた。




「オーガスト?」


オーガストは ベッドの うえで よこになってた。ここからじゃ かおは 見えない。ねちゃったのかな? 


ぼくが そおっと ベッドに ちかづいたら ひくく オーガストが つぶやいた。


「……見るな」


「オーガスト おきてたの?」


オーガストは こっちを むかないまま ダン!と つよく かべを たたいた。ぼくは びくっとして かたを ふるわせた。


「俺のせいで全部台無しだ。みんなで何年もかけて探し当てて、お前が命がけで手に入れた地図が、」


そこまで いって オーガストは ぐっと いきを のんだ。


「……畜生……」


しぼりだすように ひとこと。

オーグ オーグ。なんだか きょうの オーガスト こわいよ。

いつもの オーガストに もどってよ。おねがいだよ。



ぼくが なんにも いえないで つったってたら オーガストも ずっと だまったまんま だった。




しばらく そうして だんまり しあって。

それから やっと オーガストが くちを ひらいた。


「見るなっつってんだろ」

「でも ぼく オーガストの そばにいたいから だから」


ふいに ぐいっと うでを つかまれて ぼくは ベッドのうえ たおれこんだ。そのうえに オーガストが おおいかぶさる。


「オーガスト?」

「……お前、俺に食われてもいいって言ってたな」


オーガスト へんだよ。きょうの オーガスト いつもと ちがうよ。


ぼくが うなずく そのまえに オーガストは ぼくの くちびるに かみつくように キスをした。

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