第6話 かいぞくの けっとう

「決闘?」


Jは えみを うかべたまま しずかに うなずいた。


「貴様が勝ったらこの鍵はくれてやる。私が勝ったら地図と、勝者へのキスをいただこうか、ジャヌアリー嬢?」

「で、俺が勝ったら誰がキスしてくれるんだ?」

「オーグ オーグ」


あわてて ぼくは オーガストの シャツを ひっぱった。ぼくが いるよ オーグ。


オーガストは ふりかえって ぼくをみると すこしだけ あかくなった。けれど つぎのしゅんかんには あたまを くしゃくしゃ かきながら くるっと しょうめんに むきなおって しまった。


「……なんか俺の分が悪ぃのは気のせいか?」


だめ? やっぱり ぼくじゃ だめだった?



◆◆◆



ふねの へさきに はばのせまい ながい いたが わたされた。

そのうえに にらみあう Jと オーガスト。

おたがい けんを たずさえ まっすぐ むかいあっている。


「ルールはわかっているな。命を落とすか、海に落ちた方の負けだ。剣を落とした場合も同様、降参とみなす」

「ゴタクはいい。とっとと始めようぜ」


けんを さゆうに なぎはらって くうきを きりながら オーガストが いう。Jは ふっと わらって むなもとに さしていた バラを しずかに ひきぬいた。


「では、この花が床についたら開始だ。準備はいいな」

「お前こそ覚悟は出来てるんだろうな」


Jが うでを たかく かかげた。

その ゆびから バラのはなが おちる。

うみどりの なきごえが そらに ひびく。

あかい はなびらが はらり こぼれて。


つぎのしゅんかん オーグは そしてJは おたがい するどく ふみこんだ。


きんぞくが ぶつかりあう たかい おとが ひびく。オーガストと Jは けんを かわしながら まるで そこが せまい いたのうえじゃなく だいちのうえで あるかのように ひらり ひらりと ステップを ふんだ。


いっぽ ふみだし いっぽ さがり おたがい すこしも ゆずらない。けんを くりだす Jの うでは するどくて かろやかな あしどりと あいまって まるで おどっているみたい だった。その きっさきを かわしながら オーガストが おうじる。


けれど オーガストの けんは Jの かたのうえを とおったり Jの くろかみを ゆらすだけで Jを きずつけることは できなかった。

と おかしらが ぼくの となりで おやゆびの つめを きりりと かんだ。


「……おかしい」

「え?」

「オーグの剣にキレがない。こんなの、アイツらしくない」


いわれて ぼくは オーガストを みた。オーガストは ひたいに あせを うかべて みけんに しわを よせている。


「そもそもオーグとJの腕は互角なのよ。なのになんだか、今はオーグが押されてる」


むねが どきんと した。どきん どきん おもくて くるしい。


あ!


「何、どうしたのモラ」


いきを のんだ ぼくを おかしらが みつめた。

オーガスト ひょっとして。


「オーガスト ゆうべの かじで もえてる はしらを うでと かたで ささえたんだ。ひょっとして」


おかしらが ばっと オーガストたちの ほうへ かおをむけた。けれど ぼくらは なにも できない。オーガストを しんじるしか できない!


「どうした、オーガスト。もう息が上がったか」

「うるせぇ、すぐにそのへらず口黙らせてやるぜ」


けれど つぎの しゅんかん キンと たかいおとと どうじに オーガストのてから けんが はじかれた。つづけて くりだされる するどい ひとつき。さけようとして オーガストは ぐらり からだを かたむけた。そうして そのまま くずれおちた。


「オーグ!!」


おおきな おとがして みずばしらが あがった。

ぼくは へさきへ かけよると オーグを おって いっきに うみへ とびこんだ。

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