【番外編】 side オーガスト

「オーグ……」


 鼻に掛かる甘い声。少し諌めるようなその呼び掛けを無視して、俺はスノウの首筋に舌を這わせた。


「だめよ、オーグ……まだ昼間じゃない」

「お前が良く見えて丁度良い」

「もう、オーガストってば!」


 くすくす笑い合いながら、俺達はベッドになだれ込んだ。あー、女の胸だ。船の上じゃこの柔らかさは味わえねぇからなぁ。久しぶりにたっぷり楽しませてもらうとするか。


 そうさ、楽しまなきゃ。俺達海賊はいつ命を落としても不思議じゃないんだ。楽しめる時に楽しんでおかないと損だぜ。どうせ皆も今頃お楽しみだろうよ。


 テルモ達は酒飲んでるだろうし、ミストは賭博場でサイコロやってるだろうし、ジャヌアリーだってここぞとばかりに買い物してるだろう。ナナイは船の上だろうな、アイツの仕事好きにも困ったもんだ。あとは……。


「? どうしたの、オーグ」

「いや、別に」


 笑って見せて俺は、再びスノウの豊満な胸に顔を埋めた。

 何だ何だ、モラの顔が浮かんだくらいで何を気が逸れてるんだ。集中集中。あー、いい匂い。


 ……けどよ、モラの奴……初めての陸で、まーたもたもたおろおろしてるんじゃねぇだろうなぁ。いや、してるな、確実に。まぁ、面倒見のいいジュン辺りがなんとかしてくれてるとは思うけど。


 けど、ここ、ルートルードだからなぁ。「世界の掃き溜め」の名前は伊達じゃない。変な男に絡まれたりとか。


「オーグ?」


 暗がりに連れてかれたりとか。


「ちょっと、どうしたのよオーグ」


 あの細っこい腰を荒くれどもにいいように……。


「オーガスト!」


 俺ははっとして体を起こした。スノウが不機嫌な声を上げる。


「もうっ、どうしちゃったのよ今日は。変よ? 貴方」

「……悪い、続きはまた今度な」


 驚いて高い声を出したスノウに構わず、俺は脱ぎかけたシャツを再び着込んだ。それからコートを引っ掴んで部屋を後にする。


「ちょ……っ、オーグ! このロクデナシ!」

「ははは、愛してるぜ、子猫ちゃん」


 言ってはみたものの、しばらくはご機嫌直してもらえないだろうなぁ。ったく、俺らしくもない。


 ふと空を仰ぐ。海鳥たちが喚いている。

 と、その群れの脇を見慣れた白いオウムがゆうゆうと飛んで行くのが見えた。


「あそこか」


 呟いて俺は、靴を鳴らして通りへ飛び出した。

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