第4話 ふなのりの うた

きもちが ふわふわ なんだか あしも ふわふわ。


おひさま まぶしい。しおかぜ いいにおい。むねが どきどき オーガストに きこえないかな? 


ちょっとだけ オーガストの よこがおを みたら すぐに きづかれて めが あった。オーガスト わらってる。うれしい。うれしい!



いちばには たくさんの ひと。

のきさきには いろんな しょうひん。

くだものも そうしょくひんも かやくも じゅうたんも さとうがしも それから ようふく! 


ぼくたちは ようふくが いっぱい ならんでいる テントの まえで たちどまった。


「ここでいいか。お前、どんな服が欲しい?」

「かいぞくっぽいの!」


ぼくが そう こたえると オーガストは くっくっと わらって「わかった、わかった」と また ぼくの あたまを なでた。それから いろんな ふくを かきわけて なんちゃくか えらぶと ぼくの まえに かざして あごに てをあてて ちいさく うなった。


「お前にゃどんなの似合うかなぁ。そうだな……試着してみっか。ちょっとソレ脱いでみろ」


いわれて ぼくは あわてて ふくを ぬぎだした。あわてすぎて ボタンが うまく はずれない。


と オーガストは 「ったく」と いいながら ぼくの むねの ボタンに てをかけた。ひとつ ひとつ ボタンが はずされて そうして ぼくは はんぶん はだかに されてしまった。


「なまっちろい体してやがんなぁ。……ま、そのうち嫌でも筋肉ついてくるぜ」


まじまじと みられて ぼくは どうしていいか わかんなくて ぎゅっと てのひらを にぎった。なんだか はずかしいよ オーガスト。


「お前みたいな奴は下手にボタンついてない服の方が良さそうだな。脱がす時面倒だ」

「ぬがすとき?」

「あ、いや、」


オーガストは それいじょうは いわないで えらんだ ふくを ぼくに おしつけるようにして てわたした。


「よし、これ着てみろ。その上にこれな」


いわれるままに ぼくは あたふたと ふくを きこみだした。ほっぺたが ぽかぽか どうしよう はずかしくて オーガストのかお みられないよ! 


「こい」って ふしぎだ。どきどきしたり わくわくしたり あいての かおを もっと みていたいのに みることが できなかったり。こいって うれしい だけじゃなくて たのしいんだ。


なんとか ふくをきて オーガストを みあげると オーガストは ニッと わらって「上出来だ」と いった。


しろい そでのないシャツに はいいろのズボン それから ゆうやけいろのベスト それから それから しろとあかの しましまの こしぬの! 

うれしくって ぼくは かがみを なんども なんども のぞきこんだ。



ほかにも ようふくを なんちゃくか かってもらった。

きれいな いしの ついた くびかざりも かってもらった。

リリに きのみも かってもらった。あまい おちゃも のんだ。

オーガストは くろくて かっこいい うわぎを しんちょう していた。


「りくって すごいね オーガスト! ぼく りくも だいすきだ」


そういうと オーガストも わらった。むねが ふわふわ なんだか うたたね しているときと にている。ねぇ オーガスト ぼく いま おきてる?


みなとどおりに もどってきたら おおきな ゆうひが うみに おちてた。あかい そらを せにして ふねの かげが くろく うきたつ。どのふねにも ひるがえる くろい はた。ドクロや すなどけいや つるぎが かいてある。バラの もようの はたもある。


「かっこいいね」


ぼくが そういったら オーガストは すっと めを するどく ほそめた。それから ぼそりと つぶやいた。


「……アイツも来てるのか」


なんだろう なんだか ちょっと こわい。

ぼくが オーガストの うわぎを ぎゅっと つかむと オーガストは ふっと いつもの やさしいかおに もどった。



◆◆◆



さかばに つくと もう みんな あつまっていた。おかしらを ちゅうしんにして みんなで テーブルに ついている。


「やっと来たわね。なになにモラ、いいカッコしてるじゃない! すっかり海賊っぽくなっちゃってー」


おかしらに いわれて ぼくは とたんに てれくさくなった。かいぞく なんだ。ぼく もう かいぞくなんだね。


「て言うかオーグ、なんでアンタまで新品のフロックコート着てんのよ。また買ったの?」

「ああ、似合うだろ?」


うわぎを ひらりと みせびらかす オーガストに せをむけると おかしらは はずんだこえで せんげんした。


「さてと、ナルシストはおいといて。今回の報酬を配分するよ!」


みんなから どっと かんせいが あがる。おかしらは テーブルの うえに きんかを つみあげて みんなの かおを ぐるりと みわたした。


「配分はいつもどおり。 船長2、医者と大工と砲手が1.5、他が1。文句はないね?」

「アイアイ、キャプテン!」


いせいのいい へんじをきいて おかしらは にんまり わらった。



みんな なまえを よぱれたじゅんに きんかのやまを うけとっていった。ぼくにも みんなと おんなじだけ きんかが わたされた。ぴかぴかしてて ゆうひみたい。


「きらきら きれいだね」

「感想はそれだけかよ!」


テルモが びっくりしたみたいに そういった。と ジュンが カップをりょうてに ちかづいてきた。


「テルモ、モラ、はいラム酒。今日はとことん飲むでしょ?」

「って、おいジュン、ソイツに酒飲ますな!」


オーガストが あわてたこえを だしたら ミルが わらいながら ちいさな カップを さしだした。


「それじゃあモラ、僕と一緒にマンゴーのジュース飲もう?」


うなずいて ぼくは カップをうけとった。

たくさんの かんぱいの こえと わらいごえ テーブルのすみでは サイコロの ころがるおと。みんな ようきになって だれもが わらってた。


「モラ、歌ってよ!」


みれば オルガンのまえに おかしらが すわっている。

おかしらが ペダルをふみながら けんばんを はじくと ボワボワ ちょっと なつかしい おとが ひろがった。


「でも ぼく うたはひとつしか しらない」

「だってさ、オーグ。教えてあげてよ!」


おかしらに いわれて オーガストは めんどくさそうに けれど たちあがって ぼくの となりに きた。


「いいか、モラ。俺のあとについて歌えよ。まずは、こうだ」


すうっと いきを すって。

それから こえが ながれて。



う わぁ。



オーガストの うたごえ かっこいい。

いつもより たかくて りんと ひびいて。

しらなかった。

オーガストって こんなこえも だせるんだ!



ぼくは むねが どきどきして かってもらったばかりの ふくの すそを ぎゅうって にぎりしめた。どうしよう もっと もっと オーガストが すきに なっちゃった!


と オーガストが うたうのを やめて ぼくをみた。ぼくは しんぞうが とびでちゃうかと おもって あわてて くちを とじた。


「どうだ、歌えそうか?」

「うん!」


おかしらが オルガンを ひきはじめた。ようきで たのしくて うきうきする きょく。


「これも オーガストが つくったの?」


そう たずねたら オーガストは「まぁな」といって まえがみを かきあげた。

すごい すごい。オーガストの なかには どれだけの おんがくが おどって いるんだろう。




  ヨーホー ヤホイ おれたち かいぞく

  ヨーホー ヤホイ かくごは いいか


  こどものころにゃ おれたちだって

  ねむるまえには おいのりしてた

  いまでは かみなど なまえも よばぬ

  しんじるものは ふたつだけ

  きょうだいたちと じぶんの ゆうき

  きょうだいたちと じぶんの ゆうき


  ヨーホー ヤホイ おれたち かいぞく

  ヨーホー ヤホイ おそれは しない


  みなとにもどりゃ かわいいあのこ

  きんののべぼう たらふくラムしゅ

  じごくと ひきかえ てにした たから

  うらやむまえに みせてみろ

  おおうなばらへ とびだす ゆうき

  おおうなばらへ とびだす ゆうき




オルガンに あわせて オーガストが いっしょうせつ うたう。

そのあとを おっかけて ぼくも いっしょうせつ うたう。


それを くりかえして みんなの てびょうしが くわわって。

きがつけば さかばの なかは おんがくで いっぱいに なっていた。

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