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 ある朝。女性は来なかった。

 次の日は来た。

 その次の日も来た。

 でも次の日は来なかった。


 そんなことが幾度続いたか。

 でも、何故かは聞けなかった。

 話したくも無さそうだった。



 いつからか。

 もう暫く会えていない。


 二本早い電車に乗った。

 三本、四本、五本。

 繰り返したが、仕方がないので一本に戻った。


 まるでそういう人種なんだというように、一本前の電車に乗って、ホームのベンチから数分ただ空を見るのが日常になった。


 あのひともそうだったのだろうか。


 あーあ。こういう映画があったら、その役はオレしかできないだろうな。

 何のジャンルになるだろう。

 ファンタジーか?恋愛か?ドキュメンタリーか?

 誰か知らないヤツによく分からない意見を付けられて、このオレの名の無い感情を分かった気になられるのかな。まあそれも良いか。教えてくれるのなら。



 次の日も一本前に乗った。

 乾いたベンチも、曇りの癖にやたら照る空も、自分のためにあるような気がして、不快だった。



「どうも」

 感情よりも先に。

「どうして」

 言葉が動いた。

「……。忘れ物をしていたので。」

 言われずとも告げられていた。

 訊かずとも聞いていた。

 それは、これが本当の最後であるという合図だと思った。

 だから、

「何……でしょうか。」

 つまらないことを言った。

「飲み物。奢って差し上げたかったって言いましたよね。」

 その手には小さな缶の炭酸飲料が握られていた。

「どうぞ」

 伏し目がちに差し伸べられた手を、ゆっくり立ち上がって取りに行く。

 この手が、もう消えないように。

 もう、視界から消さないように。じっと見つめて。

 立ち上がって、缶に手を伸ばすと、ふいと缶が宙へ上がる。

「ふふ」

 といつもと同じ女性の声を聞くと、昨日も会っていたような気分になる。でも、それで良いや。会えなかった日々は、時間が止まっていたようなものだったし。

 ホームで一本の缶ジュース片手に戯れている大人は、側からどう見えるかな。

 三歩、女性の元へ駆け寄って。

 四歩目で缶を掴むと、後ろ歩きの女性に足を刈られた。

 ついでにぽんと背中を押されて、そのままホームから踏み外す。

 案外、こういう時は電車の警笛音って聞こえないんだな。

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