2/3
ある朝。女性は来なかった。
次の日は来た。
その次の日も来た。
でも次の日は来なかった。
そんなことが幾度続いたか。
でも、何故かは聞けなかった。
話したくも無さそうだった。
いつからか。
もう暫く会えていない。
二本早い電車に乗った。
三本、四本、五本。
繰り返したが、仕方がないので一本に戻った。
まるでそういう人種なんだというように、一本前の電車に乗って、ホームのベンチから数分ただ空を見るのが日常になった。
あのひともそうだったのだろうか。
あーあ。こういう映画があったら、その役はオレしかできないだろうな。
何のジャンルになるだろう。
ファンタジーか?恋愛か?ドキュメンタリーか?
誰か知らないヤツによく分からない意見を付けられて、このオレの名の無い感情を分かった気になられるのかな。まあそれも良いか。教えてくれるのなら。
次の日も一本前に乗った。
乾いたベンチも、曇りの癖にやたら照る空も、自分のためにあるような気がして、不快だった。
「どうも」
感情よりも先に。
「どうして」
言葉が動いた。
「……。忘れ物をしていたので。」
言われずとも告げられていた。
訊かずとも聞いていた。
それは、これが本当の最後であるという合図だと思った。
だから、
「何……でしょうか。」
つまらないことを言った。
「飲み物。奢って差し上げたかったって言いましたよね。」
その手には小さな缶の炭酸飲料が握られていた。
「どうぞ」
伏し目がちに差し伸べられた手を、ゆっくり立ち上がって取りに行く。
この手が、もう消えないように。
もう、視界から消さないように。じっと見つめて。
立ち上がって、缶に手を伸ばすと、ふいと缶が宙へ上がる。
「ふふ」
といつもと同じ女性の声を聞くと、昨日も会っていたような気分になる。でも、それで良いや。会えなかった日々は、時間が止まっていたようなものだったし。
ホームで一本の缶ジュース片手に戯れている大人は、側からどう見えるかな。
三歩、女性の元へ駆け寄って。
四歩目で缶を掴むと、後ろ歩きの女性に足を刈られた。
ついでにぽんと背中を押されて、そのままホームから踏み外す。
案外、こういう時は電車の警笛音って聞こえないんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます