Ⅲ-19

「これはなんなんだ」


 私が尋ねると、ナズカは呼吸一つの間、言葉を探すように目を伏せた。


「傾禍の影響だよ。もしかして外にもあった?」

「ああ」

「そうなんだ」


 声がわずかに沈んで聞こえた。


 近くの比較的整理された席で休むことにした。椅子に手をかけるなり笑いが起きる。


「そこは僕の席だよ。大丈夫、使って」


 背もたれに身を沈めて私は息を吐いた。長旅に加え、魔法を使った疲れが思ったよりも出ているようだった。


「外はどんな感じ? 復旧は進んでる?」


 ナズカは手を伸ばし、私の目の前からノートを一冊取った。


「そうかもしれない――見た限りは」


 瞼の裏に《狩りに向かう貴紳の肖像》の変わり果てた姿が浮かぶ。


「へえ。もう一週間ぐらいになる? 時間が経つほど戻りづらくなったりするのかな」


 ナズカの声が遠くなった。相槌を打ったかも分からなくなる。


「一枚でも多く助けたかった」


 眠りに落ちる前に、ぽつりとそう聞こえた気がした。






→ 26へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054914833066/episodes/1177354054917644793

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