Ⅰ-2
私が近づくと、髭面の馭者は暇そうに頭を掻く手を止めた。
「絵画館まで」
「絵画館? や、あそこは――」
「かまわない」
私はクッションのつぶれた座席に腰を下ろした。
「はあ、さようですか。しかし回り道をせにゃならんですよ。通れないところが多いもんで」
記憶が正しければ、駅から絵画館までは複雑な道のりではない。しかし馭者の言ったとおり、辻馬車は方角を見失いそうなほど頻繁に曲がる。原因は枯れ木だった。人の背丈ほどの木々が所構わず生え、いや、どこかから引き抜かれたのが置いておかれたような格好で、根を下ろせずに朽ちていた。馬車はそれを避けるために道の端を通り、あるいは路地へと迂回する。
「あの木はなんだ」
私は背後の戸口の向こうへ声を張り上げた。
「人ですよ、旦那」
辻馬車が通りを逸れる。
「人が変わっちまったんですよ」
→ 3へ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054914833066/episodes/1177354054917642380
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます