思い出したこと
それからは雪の『角を様々な方向から見たり触ったりしたい』という願いを受け、カナは直立してそれを受け入れていた。その間に空いた口で角が生えたことによって起きた弊害や、生えた原因に心当たりがないかなどを聞いている。
触っているのは角なので、許容範囲といえば許容範囲だろう。
「や! 雪ちゃんったら、くすぐったいよー」
「なるほど、感覚は共有してるのか」
……ぶっちゃけるとめちゃくちゃに妬けてしまうのだが、ここでうだうだ言っていても先に進まない。先に進まなければカナの角問題は解決しないので、ここは黙っているのが正解なのだ。
「待って、今日人にそんな近付いて見られるような顔してないよ」
「気にしてないから大丈夫だ」
あんなに近づく必要だって、解決するためにはあるんだろう。そうに違いない。
気が付けば、スナック菓子を1人でたいらげていた。カナが俺たちと食べるためにと用意してくれたものなので、少し申し訳ない。明日にでも、同じスナック菓子を持って来よう。
口の中が塩辛いので、お茶で潤そうとする。それなのに、全然口の中に水分が入ってこない。コップを見ると、お茶も飲み干していた。
「はぁ……」
ため息が出てしまうのも無理はない。どんな気持ちで俺が2人の様子を見続けていたのかがよく分かる。俺は嫉妬深いほうなのだと自覚しながら、カナが持って来てくれたピッチャーで、自らのコップに注ぐ。お茶は、少しぬるくなっていた。
やがて一通り調べ終わったらしい雪が、お代わりしていたお茶を飲む。その顔には、ひどく困惑の色が浮かんでいた。
「これはめちゃくちゃ厄介だな……」
「それはまぁ、そうだよねー」
うーんと唸りながら、彼は首を傾げる。
「最初に湊から話を聞いてから、ずっと心当たりは思い浮かんでるんだけどなー。全然思い出せない」
「心当たり?」
「そう。なんか、こういう現象を取り扱っている人。いや……集団、みたいな? そんな感じ。香奈ちゃんの角を見てるうちに思い出すかなーって思ったけど、全然ダメだった」
彼は『この辺まで出てきてんだけどなー』と、喉の辺りを示す。思い浮かびそうで思い浮かばない、モヤモヤと悶えるところだ。彼もまた悶えているのだろう、手をわなわなと震わせている。
「でも、こういう現象って?」
「……」
問い返したが、返ってくるのは無言だけ。不思議に思い雪のほうを振り返ると、彼は腕を組んで何かを考えていた。
「人に角が生えるっていう現象は、一体どういう括りになるんだろうな? ……俺の言いたいこと、分かるか?」
問われ、俺とカナは自然と目線を合わせた。彼女の瞳にも分からないという感情が滲んでいて安心する。
俺とカナは、首を横に振った。
「いまいち分かんない」
「うん、分からない」
「だよな」
あーと嘆息を溢しつつ頭をかく彼は、悩みながらも言葉を選んで続けた。
「例えば人が突然いなくなる現象には、神隠しって名前がついてるだろ?」
「うんうん」
「今回の件に近い名前の付いた現象って、なんだと思う?」
雪は自らも悩みながらこちらへ問いかけてくる。
名前の付いた、現象。
……確かに、これは一体どういう括りになるんだろうか。
「そんなことまで考えてなかったね」
「うん。生えたっていうことに気を取られて、それがどういうことかっていうのまでは考えてなかった」
なんだろうと、改めて角を見ながら考えてみる。
カナの頭に生えた、2本の黒い角。触るとあたたかく重量があり、確かにそこに存在しているのだと実感させられる、それ。
「日本で角っていったら、鬼がいるけど」
「鬼……ってなると、妖怪かな?」
「それはそうなんだけど、鬼っぽい角にはどうしても見えないんだよなー」
「私思ってたんだけど、これって禍々しさが悪魔っぽくない? いや、鬼も鬼で禍々しいんだろうけど、その種類が悪魔っぽいっていうかさ!」
「言われてみれば確かに。じゃあ、悪魔払いでなくなるのかな?」
「悪魔払い……エクソシスト……? あっ」
雪は忘れていたなにかを思い出したらしい。その勢いに乗って立ち上がり、そして叫んだ。
「思い出した! オカ研だ!」
「お、オカ研……?」
「オカルト研究会だよ! 知らないのか?」
「し、知らないよ!」
なんだそれ!? 聞いたことないぞ!!?
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