第2話

新生野球部は翌日から朝練を始めようということになった。

時刻は六時半。

淳哉の中学での野球部では朝練はそのぐらいの時間帯にやっていたため、それと同じ時間帯に淳哉は学校の第二グラウンドにやってきた。

自分が朝練に一番乗りだと思って、やってきた淳哉であったが、既に他の三人は朝練を始めていた。

「お前ら一体何時から来てるんだ?」

淳哉はみんなに訊ねると。

「五時」と良平、「五時半」とゆきまる、「六時」と四街道が答えた。

みんなのやる気に圧倒される淳哉であった。

朝練では四街道と良平がキャッチボールをしながら正しいホームでのボールの投げ方を指導し、ゆきまるはその隣でバットを振っていた。

淳哉は肩慣らしをするためにカバンからグローブを取り出し、ゆきまるにキャッチボールの相手を頼んだ。

淳哉は硬式ボールでキャッチボールをするのは初めてというわけではなく、小学生のときに遊びで買って友達とキャッチボールをすることはよくあった。

本来、軟式野球をやるものは肩の故障に繋がるため、硬式ボールと軟式ボールのどちらかに統一した方が良く、中学野球でもそういう指導をされていた。

硬式ボールを握るのは初めてではないにせよ、硬式ボールを使った本格的な練習は初めてである。

ゆきまるはソフトボール経験者でもあるため、ボールのキャッチや投げ方も基本をこなせている感じがある。

淳哉が肩ならしのキャッチボールを終えると、四人は打撃練習を始めることにした。

バッティングピッチャーはゆきまる。守備は良平と淳哉が適当な場所の守備につき、バッターは四街道である。

一球目。インコースの嚴しいコースに容赦なく投げ込むゆきまる。

球速は一二〇キロ近く出ている。女の子が投げるにしてはかなり速めのボールだ。

そのボールをいとも簡単に打ち返し、フェンスに直撃させる四街道。

「さすがに、日本代表はやるなー」

淳哉はつぶやきながらボールを拾う。

四街道が一〇球打込むと、次は淳哉が打つ番である。

ゆきまるは四街道に投げたボールよりもやや緩めのボールを放った。

昨日のバッティングセンターで実力を見ているためか、手加減をしているのだろうか。

淳哉は一〇球中、三球空振り、六球ボテボテのゴロ、一球外野フライを打ち返した。

次は良平の番である。

ゆきまるは淳哉のときよりも緩めのボールを良平に投げ込む。

良平は一〇球中、二球空振り、六球内野ゴロ、二球外野フライを打ち返した。

そして次はゆきまるの番である。

バッティング投手は四街道が務めた。

「手加減せずに実戦みたいに投げてきて」

ゆきまるは自信たっぷりで言った。

「おい、いいのかよ。本気で投げるぞ」

「バッチコーイ!」

「いや、俺バッターじゃねーし」

四街道はゆきまるに言われた通り、本格的に投げ込んだ。

ゆきまるはそのボールに全く手が出なかった。一四〇キロ後半は出ていて、コースもインコースギリギリの際どいところだ。

ゆきまるの打撃結果は一〇球中全て見逃しと空振りだった。

地面に手を突き泣き出しそうに崩れるゆきまるだが、「いや、本気で投げろって言ったのお前だろ」と四街道。

バッティング練習を終えると、時刻は八時前になったため、最後にリレー形式でベースランニングをして終わりにしようという話になった。

ベースはないため、グラウンドの土に疑似ベースを足で描き、チームは能力のバランスを見て、四街道とゆきまる、良平と淳哉に分かれ、四街道とゆきまるはホームベースからのスタート。良平と淳哉はセカンドベースからのスタートをすることになった。

トップランナーは淳哉とゆきまるだ。

「じゃあ位置についてよーい……スタート!!」

良平がスタートの合図をかけ、リレー形式のベースランニングが始まった。

淳哉は走力に自信があるわけではないが、女の子に負けることは本望ではないため、本気で走った。

しかし、淳哉が半周のホームベースを回ったときにはゆきまるはややリードをし、負けてたまるかと淳哉も必死で走った。

一周回ったら日本一足の速い男が待っている。きっと逆転できるはずだと淳哉は思って、セカンドベースに生還。良平に交代し、息切れをしながら次の走者の走りを眺める。

良平は確かに足が速いが、ベースの回り方にぎこちなさを感じた。

一方、四街道は全体で円を描くかのようなキレイなベースの回り方だ。

結局、勝ったのはゆきまる・四街道チームであった。

良平が遅かったのはベースを直角に回ろうとしたため、スピードが一時的に落ちるところにある。そのことに気が付いたのは良平以外のみんなであった。

その日の朝練の最後は適切なベースを踏む足の位置などを良平にアドバイスをした。

授業が始まるので、ジャージから着替え、シャワー室で軽く汗を流し、制服に着替え、教室に行った。

昼休憩になると、良平と淳哉の教室に四街道とゆきまるがやってきて、四人で昼食を食べながら今後の方針を話し合った。

今後は六人以上集めてクラブチームとして登録し、公式戦に出ようということになった。

集めるメンバーは学校の中や商店街地域の草野球をやっているおじさん連中なんかにゆきまるが声をかけるそうだ。

一番近い時期にある大会は「都市対抗野球大会」の一次予選のようで、企業チームは一次予選を免除され、クラブチームのみのトーナメントになっているそうだ。

大会のエントリー受付は4月の末までとなっており、登録はゆきまるが「任せておけ!」と胸を叩くが、若干心配である。

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