第40話 ルールは守るもの、記録は破るもの、素性は隠すもの

この作品を読んでくれている全ての読者の皆様、こんにちは、広川和彦です。今日は俺こと広川和彦のモーニングルーティンでも紹介しようかと思う。


とはいえ、むさ苦しい男のモーニングルーティンなんて誰も見たくないと思うが温かい目で見ていただけるとありがたい。


もしも好評なら若菜や瑠衣、芳樹のも紹介していこうかと考えているが…まぁ、モーニングルーティンなんて読者からすれば自分語り以外のなんでもない苦痛でしかないのでこれで打ち切りが確定するだろうが。何はともあれ、どうぞお楽しみ下さい。


「ふぁー、眠い。あと100年くらい寝ていたい。」


午前7時、目覚まし時計の音が鳴り響くのと同時に欠伸をしながらベッドから目覚める時刻。


「あー、学校マジで怠い。また休校になったりしねぇかな。今度は狼なんて落ちてこないで合法的に休みたい。」


と起きてすぐにぶつぶつと独り言を垂れながら慣れた手付きで制服に着替えていく和彦。


そこから彼は一階のリビングに移動。朝食を済ませて歯を磨き、鞄を片手にレッツラゴー。この時の時刻、午前8時。そこから30分かけて学校へ向かうのが俺の日課だ。


とまぁ、そんなこんなで普段から通い慣れた通学路を歩いていた訳だがこの日ばかりの俺はもっと早く家を出るべきだったと後々思い知らされることになることをまだ知らない。


「あーん、遅刻しちゃうよー!」


ふと、自分の背後からそんな声が聞こえてくる。俺が知る限り、こういう場合に起こりうる展開はひとつしか思い付かない。


そうこうしているうちに女子高生がひとり大慌てでトーストを咥えながら和彦の後ろを通りすぎていくのだった。


やっぱりな、思った通りだ。女子高生が「遅刻だー」と叫びながらトースト咥えて学校へ走っていくこの光景、皆さんは漫画とかでたまに目にしたことはないだろうか? そうして見通しの悪い曲がり角で同じ高校の男子生徒とうっかりぶつかってそのまま恋に発展していく…ラブコメなんかによくある王道の展開だ。


ていうかあんな絵に描いたような女子高生って本当に実在していいたんだな。都市伝説かフィクションの中だけの話かと思っていた。 まぁ、フィクションの中の住人である俺が言えたことではないのだが。


「うわー、遅刻だー!早くしないと…クチャクチャ…先生に…クチャクチャ…怒られるー!」


おいおい、またかよ。ってか遅刻するやつ多すぎだろ…。なにこれ?え?これが最近の流行りなの?わざと遅刻ギリギリまで寝過ごしてトースト咥えながら学校行くのが女子高生達の間で流行ってんの?それとせめて食うか喋るかのどちらかに集中しろよ。見た目は汚いし咀嚼音もうるさいしストレス貯まってイライラするし見てられなくなるわ。


おっと、これではいかんな、視線がつい釘付けになってしまった。このままこんなところで立ち止まっていたらあの遅刻娘たちと同じように俺までトーストを咥えながら学校に登校することになってしまう。少し歩くペースを上げるとしよう。


え?瞬間移動を使えばいいんじゃないかだって?そうすればいちいち通学路なんか歩かずにすぐ学校へ着くし、今みたいに遅刻娘たちに遭遇しなくて済むのではないかだって?


それができたらどれほど楽だったことだろう。しかし残念ながら現実とはそう簡単には上手くいくものではない。


壁に耳あり障子に目あり、という言葉を読者の皆様は聞いたことがないだろうか?誰かが自分のことを自分の知らないどこかで見ているぞという意味の慣用句だ。


分かりやすく言い換えると自分の秘密はどこから漏れてしまうか分からないということでもある。


業務用の冷蔵庫にふざけて入ったことで多額の賠償金を請求されたり、ネットに上げた自分の写真から住所を特定されたりとSNSや動画投稿サイトなどが目まぐるしい発展を遂げたこの現代社会において下手な行動は自分で自分の首を絞めるどころかねじ切りかねないことすらあり得るのだ。


仮に俺が誰にも見られないように人気のない路地裏なんかで瞬間移動を使用したとしよう。そして俺の知らないところで誰かがその様子を目撃して動画や写真に収めてネットの海へばらまいてしまえば俺の平穏な人生は即終了することだろう。


その日の内にSNSはバズり出し、超能力か魔法か!?私は見た!!その瞬間を!!という見出しで明日の新聞やトレンドニュースの一面は俺の話題で持ちきりとなり、それを聞き付けた訳の分からない実験ばかり繰り返しているイカれた化学者どもが毎日のように家へ押し掛けてくるか危険すぎると判断されて国の役人たちに最悪殺されるか監視されながら一生を過ごすことになるのは未来を予知しなくても分かる火を見るより明らかなことだ。


以上の理由から余程のことがない限り俺は基本的に魔法を使用しないように気を付けてひっそりと生活している。それは登校中の今においてもこれから先も死ぬ間際の時も決して変わることはない強大な力を持つ者の宿命なのだろう。どこかの誰かが言っていた。大きな力にはそれ相応の大きな責任が伴う、と。


ひとつ選択を誤ればそこらの野良犬以下の末路を辿ることもありうるやり直しがきかない一度きりの人生、悔いの残らぬように生きたいものだ。まぁ、異世界帰りであることが他の人間にバレた時から既に後悔まみれになってしまっているのだが。


何はともあれ、後半に出てきた女子高生のくだりや途中から全く関係のない話になってモーニングルーティン関係なかったのでは?と思った人もいるかも知れないがこれで俺こと広川和彦のモーニングルーティンは一通り終了だ。最後まで読んでくれてありがとうございました。


さて、俺も急がないと遅刻してしまうな。では読者の皆様、またの機会にどこかでお会いしましょう。

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