吸血鬼狩り編
第39話 安心してください、生きてますよ
突然で申し訳ないが、人、物、文明、富、これらの単語の全てに共通する事柄は何なのかこの作品の読者であるそこのあなたはご存知だろうか。
先ほど例題に挙げたこれらの単語に共通する事、それはどれも限りがあるということだ。人にしろそれが長きに渡って築き上げてきた文明にしろ誰かが作りし物にはどれも必然的に終わりがやってくる。
金だって使えば減って最後は底を尽きるし、長らく流通していれば古びたり錆び付いたりする。だからこそ造幣局や印刷局が新しく発行するし製造して入れ替える。そしてまた新しく世の中に流通して社会は回っていく。
形ありし物いつかは滅び、始まりが訪れればあれば終わりも必ず訪れる。これは森羅万象天上天下において絶対の法則である。そしてそれはいついかなるときであろうと例外ではない。
人はどこぞの赤い配管工のように都合よく命を増やすことは出来ないし敵にぶつかったり穴に落ちて復活することもない。死ねばそこで終わりである。故に人は脳卒中、持病の悪化、交通事故や自然災害、あるいは老衰と、いつどこで死が訪れるかも分からない中でより長く、より幸せになれるように日々を大切に踏みしめながら生きているのである。
だがしかし、時として人にはどうすることも出来ないあらかじめ決められた定めというものが存在する。それらは人の意思、都合に関係なく全ての人類や生物に平等かつ唐突にやってくる。
そしてそれらに遭遇した時、人はそれらをこう呼ぶのだ。避けようのない運命、確実な死、地球最後の日、この世の終わり、最終戦争アルマゲドンと。
さっきから長々と何の話をしているんだ?という疑問を抱いた読者の皆様、当然のことだと思う。しかし、今回の話を語る上でこの前置きはどうしても必要なものなのだ。
さて、そろそろ本題に入るとしよう。きっかけは今朝まで遡る。いつものように目覚まし時計のやかましい音に寝床から叩き起こされた俺は直径400キロにも及ぶ巨大隕石があと三ヶ月もしない内にこの地球に衝突する予知を見たことが全ての始まりだった。
巨大隕石の衝突によりこの地球の7割を占める生命の源にして我らの母なる海は一瞬で干上がり、衝突の衝撃で世界の国々は跡形もなく崩壊。岩石蒸気は地球全体を覆い尽くし、全ての生きとし生けるもの全てが一匹残らず絶滅、命を育む青き星から一転して全てを滅ぼす死の星と化すこの世の地獄を体現したかのような恐ろしい光景が予知にはしっかりと写っていた。
アニメや漫画に度々出てくる未来予知、読者の皆様はどんなイメージを抱くだろうか。文字通り未来を視ることができる能力?主人公のラスボスや強敵が使用する能力の定番?どれも正しいと言える。
これは個人的な見解だがこの未来予知の本質はそこではなく自分に降りかかる危険や災難を回避するところにこそあると俺は思っている。
もちろん敵の攻撃を回避する上でこの能力は絶大な効果を発揮することも紛れもない事実だ。現に俺はつい最近、この能力に助けられた。テロリストからの逃亡、京都三大妖怪との死闘の時とかな。
そして今回もこの能力、もとい魔法のお世話になることとなった。その結果こうして巨大隕石の衝突という災難を事前に察知し、防ぐことができるのだからな。
え?何を馬鹿なこと言ってるんだって?早く起きすぎてまだ寝惚けているのかって?そんなわけないだろう。俺は寝惚けてもいないし、頭がどうにかなってもいない。至って正常だ。
え?世界が滅びてしまうというのになんでそんなに冷静でいられるのかって?そんなの決まっている、道端に落ちている石ころに恐怖や絶望などを抱く人間などいないのと一緒だ。むしろ俺から言わせれば石ころひとつで何をそんなに大騒ぎするのかが理解できん。
どれ、そろそろ動くとするか。いくら道端の石ころとはいえ放置しておくと幼児の怪我に繋がりかねないからな。さっさと除去するとしよう。
「火、汝の罪となるヘルフレア。」
自宅の窓を開けてリビングからベランダに出た和彦は杖を空に向けて翳しながらそう呟く。
火、汝の罪となるヘルフレア。火属性魔法のひとつにして上級魔法のひとつ。自分の指定した場所を中心に爆炎を発生させることができる。爆炎は複数発生させることが可能で、発生させるタイミングも自分で決めることができる。
魔法は火、水、風、土、光、闇の六属性に分類され、そこからさらに4つの階級に分けられる。下から順に、駆け出しの冒険者などが多く使用する初級、ベテラン冒険者や魔法学院の卒業生たち御用達の中級、それらから選りすぐりのエリート中のエリートが愛用の上級、そして大国すら滅亡に導く怪物のみが振るうことを許される究極が存在する。
しかし今回の隕石が遥か一光年先の宇宙をプカプカ浮遊していたことは本当に良かった。お陰で人目や建物を気にせず、思い切り魔法をぶつけることができたのだから。おまけに跡形もなく破壊できたことで破片の後始末も必要ない。一石二鳥とはまさにこの事だ。
万物にはいつか終わりが訪れる。それはこの地球とて決して例外ではない。だが少なくとも俺が生きている間はその時が訪れることはないだろう。
どこにそんな根拠があるのかって?仮に宇宙から宇宙人が攻めてこようとも世界が核戦争を始めることになってもそれを成し遂げられる絶対的な自信が俺にはあるからだ。
この地球を生かすのも滅ぼすのも全ては俺次第、全く面倒な役割を担うことになったものだ。
俺みたいに地球の命運を握っているやつが案外身近なところにいるかも知れないぜ?読者の皆様の住んでいるその世界にも…な。
な?だから言っただろ?俺にとっては何てことない些細な出来事だと。という事で俺はこれにて失礼させてもらうとしよう。友人との約束が控えているのでね。
そんなこんなで異世界帰りの魔導王は人知れず救った青き星の下で今日も気だるげにそそくさと支度を済ませてどこかへ出掛けていくのだった。
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