第36話 襲来、百鬼夜行 終
「まさか、力で圧倒的に劣る格下相手にここまで追い詰められることになろうとは。魔導王と呼ばれていた男も堕ちるところまで堕ちぶれてしまったものだ。こんな棒きれなんか使わずに魔法を発動できていたあの頃が恋しくなってくるが、それは置いて置くとしよう。それよりも、これから死ぬ前にひとつ気になることがあるんだが聞いてもいいか?」
「なんじゃ?ここに来て見苦しく命乞いかの?」
「なぜ一思いに殺さない?寸止めなんかせず、ご自慢のそのドスで俺の心臓なり脳なりさっさと貫けばいいだろう。」
「…ただの気まぐれじゃ。最後に遺言でも聞いてやろうと思っての。このまま独りであの世へ旅立つのも心苦しかろう。」
「へっ、敵に情けを掛けられるとは我ながら無様なものだ。そうだな、遺言…は必要ないな。代わりと言っちゃ難だが、さっき断った夜伽の相手をしてくれないか?どうせ死ぬなら最後に女でも抱いてから死にたくてな。お前みたいな極上の美姫が相手なら言うこと無しの悔い無しだ。」
「なはは、死の間際だというのにつくづく面白い男じゃ。気に入った、正直者のお主に免じて思う存分相手をしてやろう。気持ち良くなりすぎて失神しても知らんぞ。」
「そっちこそ、ガンガン突きまくって二度と忘れられなくなるくらいになるまで足腰ガクガクにして昇天させてやるから覚悟しておけよ。その言葉、そっくりそのまま返してやる。」
「ふん、儂の締め付けを侮るでないわ。お主から一滴残らず搾り尽くしてやる。どこまで突いてこられるか楽しみじゃわい。」
「上等だ、なんて言うか、ばーか。本気で信じてんじゃねーよタコ。お前なんかに犯されるくらいなら死んだ方が1000倍マシだ。くたばれ、アバズレ女。」
「言いたいことはそれだけかの?ならとっとと死ぬがよい。独り寂しく誰にも看取られずにな。」
「やれるもんならやってみろ、出来るもんならな。」
(世界停止ワールドストップ)
「っ!?消えた?」
(あやつ、一体どこへ…ま、まさか、儂の背後に!)
「今さら気付いてももう遅い、目は口ほどに石を生むメドサスイビラ。」
(しまった!わ、儂の身体が…石化す…る。これが…死…ふっ…存外悪くない…ものじゃ…な…。)
目は口ほどに石を生むメドサスイビラ。闇属性に分類され、目視した対象を限定として物体及び生物全てを石化させる魔法。弱点としては目を開けてないと発動できないことである。名前の由来はギリシャ神話に出てくる怪物メドゥーサ。
どれだけ攻撃してもすぐに再生されるのなら石にして再生できなくさせてしまえばいいだけの話だ。と聞こえはいいが正直かなり焦った。
まず世界停止で時を止め、やつの背後に移動。勝ちを確信していたやつは突然消えた俺に動揺する。その一瞬の隙を突いて背後から魔法の詠唱。その間、僅か1秒。
身体強化と魔法の詠唱は両立が出来ない。そのため魔法の詠唱中は身体強化が強制的に解除されるので完全に無防備となる。もしも詠唱が終わるより前にやつが斬りかかって来ていたらどうなっていたかを想像するだけで今も手から汗が滲み出る。
身体強化を施していない俺なんてボクシング経験が少し豊富なただの人間だ。そんなモヤシが妖怪の王になんか挑めば確実に1秒と持たなかっただろう。
一度きりの大博打、本当に成功して良かった。失敗=死だからな。全く、こういうのは心臓に悪すぎるから二度とやりたくないものだ。
「さようなら、百鬼夜行の総大将さん。ってもう聴こえてないか。」
変な奴だ、戦いに負けたって言うのに笑ってやがる。よく漫画やアニメや映画などで持てる力を全て出し切って負けた、悔いはないという場面が存在するが一体何が楽しいのか俺にはさっぱり分からん。
そもそも俺は全力というものを出したことがないからな。魔王もしかり、や・つ・と戦った時もしかり。とうとう最後まで俺に敵う相手、自分にとっての好敵手がいなかった。故に分からないのだ。ありったけの全力を…ありのままの自分を相手に思う存分にぶつけられることの喜びが。まぁ、そんなもの、これから先、生きていく上で必要ないものだがな。
俺の魔法だってそうだ。あの日、勇者たちの異世界召喚に巻き込まれなければ…元の世界に帰れないと宣告されなければ…ここまで強くなることなど絶対になかっただろう。あったかも知れない可能性の話である。
そんな思考を頭の中で繰り広げながら握っていた仕込み杖を鞘に収め終えた和彦は石化したぬらりひょんを指で軽く突き、石像が音を立てて粉々に壊れる様を見届けてから次元超えネットサーフィンで煙のようにどこかへ消え去るのだった。
「音が…止んだ…?」
(あいつが戦い始めてからかれこれ2時間。あいつ、まさか…ぬらりひょんに…)
「まだ死んでもいないし殺されてもないし幽霊でもないぞ。」
「うわぁっ!?だから突然現れないでってば!それよりもぬらりひょんは?」
「今ごろ黄泉の国で思う存分に男共の相手でもしてることだろうよ。」
「そう…京都三大妖怪の一角をいとも容易く葬ることができる異世界帰りのクラスメイト…驚きの連続でもう何にも言えないわ。」
「て言うかお前、毒は大丈夫なのか?」
「ええ、問題ないわ。どうやら牛鬼を討伐した時に消えたみたい。そっちこそ、ぬらりひょんから受けた傷とかは大丈夫なの?」
「馬鹿にするな、あんな雑魚ごときにこの俺が怪我なんて負わされる訳がないだろう。ってことで俺は帰る。炬燵とココアが家で待ってるんでな。」
「あ、ちょっ…全く、相変わらずマイペースなんだから。」
「……。」
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