第11話 和彦と芳樹の楽しいショッピング(大嘘) 終
「これでいいかしら。」
そう言った若菜は服を脱ぎ捨てて下着姿になる。
「よし、そのまま俺の前まで来て土下座しろ。」
「あら、せっかくピチピチのJKが下着姿をあなたのために披露しているのになんにも反応ないのね。」
「残念だったな、俺は巨乳好きなんだよ。お前の貧乳なんて見せられても目障りなだけだ。」
(確かに高校生にしては絶壁だと思う。)
(お嬢様、申し訳ございません。こればかりは擁護のしようがありません。)
芳樹と瑠衣にバストサイズに対する哀れみを持たれている当の本人はそうとは知らず言葉を続ける。
「言ってくれるわね。それより土下座すればそこの二人を本当に解放するんでしょうね?」
「何度も言わせんな、解放するって言ってんだろ。さっさと済ませろ。モタモタしてるとこいつらブッ殺すぞ。」
人質の親子に拳銃を顔に突き付け男は若菜に対してそう言った。
「…ええ、分かったわ。」
そう言って若菜は歩きだし、男の目の前で面と向かって立ち止まる。
「…これまでの数々の非礼、大変申し訳ございませんでした。」
若菜は男に対して土下座をする。
「分かりゃあいいんだよ!ったく、世間の常識も理解できねぇガキが。親に教わんなかったのか、アァ!?あ、そうか、その親もお前と同じでまともな教育受けてなかったからか。親がバカなら子も子だな!ギャハハハハ!」
そう喚き散らしながら男は土下座をしている若菜の頭を踏みつける。
「あの下衆が…お嬢様だけでなくそのご両親に対する侮辱…八つ裂きにしてくれる!」
そう言って瑠衣は立ち上がろうとするが芳樹がその手を掴み制止する。
「芳樹殿、お離しください!お嬢様があんな目に遭っているのを黙っている訳にはいかない!」
「ダメだよ。あなたが動いたらすべてが台無しになる。今は耐えてくれ。警察の人達が駆けつけるまで。」
「!」
瑠衣は使われていない芳樹の左手に注目すると芳樹の左手は血が出るほど握りしめられていた。愛する人があんな目に遭っていることとそれを行っている男とそれを黙って見ていることしかできない自分への怒りを必死に押さえているのである。
「…約束よ。早くその二人を解放しなさい。」
「ああ、そうだったな。約束通り解放してやるよ。そ・の・後・に・す・ぐ・殺・す・け・ど・な・。・」
「なっ!?約束が違うじゃない!土下座すれば解放するって言ったはずよ!」
「ああ、解放するとは言ったが殺すとは一言も言ってないけどな。おら、まずは母親からだ。さっさと立て!」
「お母さん!やめろ!お母さんを離せ!」
今にも殺される母親を守るため子供は必死に抵抗する。
「安心しろ。お前もすぐあの世に送ってやるよ。この母親のようにな。」
「洋太!」
母親は涙を流しながら息子の名前を叫ぶ。
(私は…また救えないの?あ・の・と・き・み・た・い・に・ま・た・失・う・の・?・)
「あばよ。お前の努力もこれで水の泡だ。」
自分の非力さを痛感している若菜にそう告げた男は銃口を母親の右のこめかみに突き付け拳銃の引き金を引いた。
しかし、銃弾は発射されなかった。何度引いても結果は同じ。弾は母親のこめかみを貫くことはない。
「くそっ、こんな時に壊れやがって!」
男はそう言って持っていた銃を捨てて周囲にいた仲間の一人から銃を奪い取り再び引き金を引く。しかし、不発に終わる。その後も他の仲間から銃を奪い取り同様に試したがすべて不発であった。
「おい、どうなってんだ!お前ら銃の手入れくらいしとけよ!」
「んな訳あるか!この日のためにちゃんと念を入れて手入れしたに決まってんだろ!武器の調達に問題があったんじゃないのか?」
「馬鹿言え!俺はちゃんと確認したぞ!」
テロリストたちはあーだこーだと責任の擦り付けあいをしている。
(チャンス!よく分からないけど動くなら今しかない!)
「瑠衣!」
「はい!お嬢様!」
「なっ!?貴様勝手に動くなぐあっ!」
瑠衣は太腿に装備していたナイフを取り出しテロリストの太腿に投擲し、そのナイフは見事に命中した。
「貴様!よくも同胞を!」
「蜂の巣にしてやる!」
「死ねぇ!」
仲間がやられたことに気づいたテロリストたちはアサルトライフルを瑠衣に向けて引き金を引く。しかし、やっぱりこれも不発に終わる。
「くそっ!こいつも壊れてがはっ!?」
「畜生、お前なんて素手でもやれぐがっ!?」
「お前ら!ゴブッ!?」
敵が動揺している隙を逃さず瑠衣は素早く距離を詰め、3人を体術で一網打尽にする。
「お前らなにしてんだ!たったひとりの小娘相手にてこずってんじゃねぇ!」
「し、しかしボス。こいつ相当の手練れで全く歯が立ちまグエッ!」
「よそ見してる暇はないわよ。」
「チッ!調子に乗ってんじゃドヘッ!」
下着姿の若菜がボスの手下たちを蹴りで一蹴する。
その後も瑠衣と若菜によってテロリストたちは無力化され残すはボスとゲス野郎のみとなった。
「ひいぃ!参った!降参だ!裸で土下座でも何でもするから命だけはグギャハァ!?」
「黙れ…その汚い口を閉じていろ 。お嬢様の受けた恥辱を考えれば本来なら全身の骨をすべてへし折ってもまだ足りないくらいだが今はお前のような下等生物に構っているつもりはない。このくらいで勘弁してやる。」
腰を抜かして命乞いをするゲス野郎の玉袋を思い切り踏み潰し怒気を込めながらゲス野郎にそう言って若菜の元へ向かう。
「お嬢様!」
「瑠衣。助かったわ。」
「滅相もございません。それよりも早く衣服をお召し下さい。目のやり場にこまっておりまして。」
「そうさせてもらうわ。」
そう言って若菜は自分の服を着なおす。
「おい、お前ら!こっちを見ろ!」
若菜と瑠衣は声のするほうに注目する。するとそこにはいつのまにかナイフでお年寄りを人質にしているボスがそこにはいた。
「小娘ごときが。よくも俺の計画を台無しにしてくれたな。」
「もう諦めなさい。人質をとったところでもう勝ち目はないわ。逃げるにしたって四方を海に囲まれたこの狭い日本じゃいずれ捕まるのは明白。今ならまだ間に合うわよ。」
「うるせぇ!こうなったらこのジジイだけでも道連れにしてやグホォッ!?」
「悪いけどそうはさせないよ。」
「やるじゃない。見直したわ。」
「私も同感です。」
ボスが芳樹の手で後頭部に木製バットをお見舞され、気絶したのを最後にテロリストたちはすべて無力化されるのだった。
その後、駆けつけた警察によってテロリストは無事逮捕。人質にされていた人々は全員保護されたのだった。
芳樹、瑠衣、若菜の三人は警察の事情聴取を受けることになったがその際例の親子に感謝され嬉しい気持ちになったのは記憶に新しい。
何はともあれこれですべて一件落着。…事情聴取が長引き終わったのが夜中の10時になったことを除けばの話だが。
事情聴取が終わり、芳樹たちは3人でそれぞれの家への帰路についていた。
「はぁー、疲れた。事情聴取ってあんなに時間がかかるなんて思わなかったわ。」
「確かにね。もうこんな思いは一生に一度きりで十分だよ。それにしても和彦は運がいいよね。用事ができて早く帰ったおかげでテロに巻き込まれずにすんだんだから。」
(運がいい…本当にそうなのかしら?テロリストが攻めてくるって時にそう都合よく用事ができたりするものなの?テロリストの持っていた銃だってそう。一人だけなら手入れ不足で弾が出ない説明はつく。だけど全員が同じようにそうなったりするかしら?)
「…彼に直接聞いてみる必要があるわね。」
「え?」
「ううん、何でもない。」
暗闇の帰路のなか、小さな声で呟いた若菜の真意は芳樹と瑠衣には知るよしもなかったのだった。
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