第10話 和彦と芳樹の楽しいショッピング(大嘘) 4
場面は変わり30分前のデパートまで遡る。
「結局和彦の急用ってなんだったんだろう?」
「さぁ?私に聞かれてもさっぱりだわ。」
「私もお嬢様と同じです。」
和彦と別れた芳樹、若菜、瑠衣は会話をしながらデパート内を散策していた。
「そういえば洋服屋で芳樹くんが和彦と同じ中学校出身って聞いたんだけど彼とはどういう関係なの?」
「ああ、それくらいなら話してもいいかな。僕と和彦は偶鱈中学で3年間同じクラスだったんだ。まぁ、当時の和彦は目付きの悪くてなんというか関わりづらい印象があったんだ。実際今でもそうだけど。」
「確かにあいつがあなた以外と会話をしているところなんて私の知る限り全くないわね。いわゆるボッチってところかしら。」
「言い方は悪いけどそういうことになるね。あれは中1の夏ごろだったかな。僕は家に帰宅している途中、クラスの男子生徒がカツアゲされていたから助けないとって思って。それでひとりで不良3人に立ち向かったんだ。でも全く歯が立たくてボコボコにされてもうダメだってなったときに和彦がその3人をやっつけてくれてさ。そこから僕たちは今の関係に至ったんだ。」
「そんなことがあったのね。でも以外だわ。和彦ってどちらかというといじめる側みたいな見た目してるのに。」
「あはは、確かに。和彦は目付きが悪いけど本当は友達想いないいやつだよ。不器用だから周りから誤解されやすいけどね。」
「ふーん、あいつが人助け…か。」
「それより次はどこ行く?」
「そうね。どこにしようかしら。」
「あの、僭越ながら申し上げさせていただきますが映画観賞などよろしいかと思われます。」
「映画…いいわね、行ってみましょう。」
「映画館は確か…4階だったっけ。」
そんな会話の後に3人が映画館へ向かおうとしたそのときだった。
突如としてデパート館内にけたたましいサイレン音が鳴り響き全ての出入口が分厚いシャッターによって遮られ芳樹たちデパートに来ていた人々は閉じ込められる。
「いったいどういうことかしら?」
「私も何がなんだか困惑しています。」
「たぶんだけどデパートの防災システムがなにかの拍子で作動したんだと思う。」
「おい、何がどうなってんだ?」
「システムの誤作動?」
「どうでもいいからさっさとここから出せよ!」
ダーン
(ッ!?銃声!?)
「お嬢様!芳樹さん!私の後ろに!」
「え!?何!?」
突然の出来事に芳樹たちや周囲の人々は動揺を隠せない。中には外に出るためになりふりかまわずシャッターを壊そうとしている者さえいた。
しかし、その者たちの手は上に向けた拳銃から放たれた一発の銃弾によってピタリと止まるのだった。
「ここにいるすべての人間に告ぐ。今すぐ一ヶ所に集まっておとなしくしてろ。抵抗すれば命はないと思え。」
銃声のした方向を見ると男はそう周りに言い聞かせ右手に持っていた拳銃を下ろす。その後、アサルトライフルで武装した男の仲間がぞろぞろ姿を現した。男やその仲間たちには赤いトカゲの刺青が彫られている。
(くっ…この数の敵から人質を守りながら戦うのは…仕方ない、ここは大人しくこいつらに従ったほうがよさそうだわ。)
(あわわ…一体僕たちどうなっちゃうんだろう…)
人々はなすすべなく男の言った通り一ヶ所に集められた。無論芳樹たちもである。
「人質はこれで全員か?」
「はい、間違いありません。」
「次は日本政府への犯行声明だ。撮影機材を準備しろ。」
リーダー格の男が出した指示をてきぱきとこなす仲間たち。数分もしないうちにビデオカメラが男の目の前に設置された。
「準備完了です。本番3秒前、2、1」
「無能な日本政府どもに告ぐ。我々は赤蜥蜴。このデパートは人質と共に我々が占拠した。我々の要求は2つ。ひとつは収監されている同胞の解放、もうひとつは身代金として15億を要求する。猶予は2時間、それを過ぎれば5分ごとに人質を1人殺す。女子供関係なくだ。人質のためにも正しい判断を期待しているぞ。」
2時間後
「そろそろ約束の時間だな。日本政府からの返事はどうだ?」
「依然、要求には応じないの一点張りです。」
「そうか、なら思い知らせてやらないとな。俺達を怒らせるとどうなるかってことを。」
(まずいわね。このままじゃ犠牲者が出るのは時間の問題。こいつらを無力化するのは私と瑠衣なら問題ない。問題は奴らの持っている銃をどうするか。なにか方法はないの?)
若菜は内心焦りながら現状を打破する方法を模索する。
しかし、現実は非情なものでその時はついに訪れてしまう。
「まずはお前からだ。早く立て。」
「ひいっ、た、助けて…。」
男は人質の一人に拳銃を突き立てる。
突き立てられた子連れの主婦はガクガク震えて今にも泣き出しそうである。そばにいる子供も母親の服を掴みながら同じように震えている。
「ゴチャゴチャうるせぇな。俺は気が短いんだ。おい、ガキを母親から引き剥がせ。」
「はい。おいガキ、さっさと離れろ。」
「………」
「聞こえねぇのか?離れろって言ってんだよ!!」
男の部下は怒号を飛ばし母親にしがみついていた子供を突き飛ばす。
「……」
「あ?なんだその目は?文句あんのか?」
「…お母さんからはなれろ。」
「あ?」
子供は問いかけに対し沈黙を貫きながら男の部下を睨み続けそう言った。
「おまえらなんて怖くないもん。おまえらみたいな悪いやつは正義の味方に成敗されるのが怖いんだ。だからこうやって銃で脅して卑怯なことでしか勝つことかできない。負けるのが分かっているから。おまえらなんか正義の味方にボコボコにされちゃえ!」
「…そうかよ。そんなに死にたいならお望み通りお前からブッ殺してやるよ。」
「洋太!お願い!やめて!」
母親は涙ながらに訴えるが男の部下は無情に銃の引き金を引こうとする。
「待ちなさい!」
しかし、それは人質の中にいた一人の少女…津守若菜の制止の声によって止められるのだった。
「お嬢様!?」
「津守さん!」
突然の出来事に動揺を隠せない芳樹と瑠衣。
「みっともないわね。大の大人が子供相手に逆上して。」
「あ?言ってくれんじゃねぇか。決めた、ガキは後回しでまずお前から殺してやるよ。…と言いたいところだがお前の言うとおり俺も大人げなかったな。お詫びといっちゃ何だがにチャンスをやるよ。その場で服脱いで土下座しな。そしたらガキと母親解放してやる。」
「なっ!?貴様ふざけるのも大概に…」
「…本当に解放するんでしょうね?」
「ああ、俺は正直者だからな。」
「お嬢様!こんな下劣な男のことなど信頼してはいけません!」
「…瑠衣、私はもうあの時みたいに目の前で命が奪われるのを黙って見ていることなんてできない。」
「ッ…!」
若菜の言葉を聞いた瑠衣は絶句するのだった。
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