第7話 和彦と芳樹の楽しいショッピング(大嘘) 1
日曜日。忙しい現代人に与えられた数少ない楽しみの一つ。学生、社会人、はては老若男女問わずこの日を自分達への労いとして利用する。
好きな映画やライブを見に行ったり、自身の身体を鍛えたり、好きな女子または男子とのデートに使ったりと数えだしたらきりがない。
そしてここにも1人、この休みを自分のために利用する男がいた。
「あー、暇だ。」
自室でそう呟き貴重な1日をベッドでスマホをいじりながら自堕落に過ごす和彦。 ここまで情けなくダラダラしている人間は日本中探してもこいつくらいであろう。
「あー、暇だ。前々から思うんだが休みの日に限ってなんで早起きしちまうんだろうな。今朝なんか起きたの4時だったし。平日なんかは二度寝しちまうほどめちゃくちゃ眠いのに。誰かこの謎解明してくんねぇかな。…チラリ。」
和彦は自室の時計を確認する。時刻は午前8時を指している。
(芳樹との待ち合わせの時間までまだ3時間ある。さて、どうしたものか。魔法の練習…は前回家壊したばかりだった。やめたやめた、テレビでも見るか。)
和彦はリモコンを手に取り、テレビを付ける。すると、旅行代理店のCMが流れだす。
「雲一つない青空、照りつける太陽、珊瑚礁が肉眼で見れるほど透き通った海、そして、旅行者を手厚くお出迎えする宿泊施設。この冬はぜひご家族で海外旅行にウルトラガードリーフ島を訪れ下さい。最高の思い出をあなたに。」
テレビに映った景色のVTRと共にナレーターが淡々と現地の魅力を語る。
ウルトラガードリーフ島…確か、オーストラリアに位置する世界でも有数の観光地…だったか。人が死ぬまでにいってみたい場所トップ20に入っているほどだとか。
(どこもかしこも見渡せば人ばかり。世界ってのは案外狭いもんだ。)
「どっかに無いもんかね。周囲に建物や障害物がなくてかつ人が存在しない広大な面積を持つ土地。ってそんな都合良すぎる物件、あるわけな…いや、待て。」
そう言って和彦はテレビを消すと自分のパソコンを使って何かを調べだした。
「俺の記憶が正しければ…ビンゴ。そうと決まればやることは一つだ。」
和彦は机の引き出しを開けて腕時計取り出し手首にはめて厚着をすると下に降りて靴を用意しトイレに入る。
「じゃあ行きますか。」
和彦は指をパチンと鳴らす。すると和彦は明らかに自宅のトイレではない別の場所へと立っていた。
時空間魔法。彼はそう呼ぶ。その名の通り時と空間を操作する魔法。和彦が先ほど使ったのはそのうちの一つ、次元超えネットサーフィン。
これの長所は地球上ならどこへでも一瞬で行けることである。ただし、使用する際は行き先の鮮明なイメージが必要であり、自分が知らない場所には転移できない。また、転移できるのは自分のみ。
余談だがこの魔法は和彦オリジナルであり、彼の師匠アークリアを含めほかの人間には使えず、使い方も和彦本人しか知らない。
(スマホで調べた通りだな。ここなら人や障害物に邪魔されず思う存分魔法の練習ができる。)
和彦は周囲を見渡しながらそんなことを心に抱く。
ドボソ島…北アメリカに位置する世界最大の無人島。
切り立った断崖絶壁に周囲を取り囲む荒れ狂う大波、気温マイナス40度の過酷な環境が特徴だが、和彦がこんな極寒の地にテレポートしたのには理由があった。
それは現在和彦が立っている場所である直径60キロメートルもの巨大なクレーターだ。元々この辺りは樹木が生い茂るただの平地だったが1000万年前に巨大隕石が衝突し現在のなにもない状態になったという訳である。
「土よ、力を貸せゴーレムハーツ」
和彦は再び杖をどこからか取り出し、呪文を唱える。すると更地と化した地面から土でできた人型の兵隊が和彦を中心として取り囲むように姿を現した。その数、15万体。
魔法…自分の体内にある魔力を消費して発動することができ、持ち主の魔力が多ければ多いほどその威力は大きくなる。
魔法は火、水、風、土、光、闇の六属性に分けられ、これらを総称して元素魔法と呼ぶ。 火、水、風、土の魔法は鍛練次第で同時に発動できるようになるが光と闇は相反しあうため、同時に発動することはできない。
「からの水よ、地を覆い尽くせアイスフィールド」
そう唱えた瞬間、和彦の足元から大地が凍りだし、直径60キロにも及ぶクレーター全体が呼び出した兵隊もろとも一瞬のうちに氷で覆い尽くされた。
(水よ、地を覆い尽くせアイスフィールド。自分を中心にして周囲の全てを一瞬で凍てつかせることができる水属性初級魔法のひとつ。)
「我ながら恐ろしいもんだ。こんなもん都会のど真ん中で発動したらと思うとゾッとする。魔・法・が・全・く・使・え・な・か・っ・た・時・は・こうなることなんて夢にも思わなかったし。」
銀世界と化した大地で和彦はそう呟く。その後も和彦は引き続きいろいろな魔法を試すのであった。
どんな魔法を使ったのかって?それはこの先の話で追々ということで。まぁ、作者あのバカが途中で投げ出さないこと前提だが。
2時間後
「さて、魔法も一通り試したし、帰るとするか。それにしても虚しいもんだな。全盛期なら太陽すら消滅させられたって言うのに今じゃ土星ひとつ壊すのがやっとなレベルまで弱体化しちまったんだから。」
和彦は再び指を鳴らし自宅のトイレへと戻る。そして、自室に入りベッドの上に寝転がり休憩をする。時計の針は10時を少し過ぎたところである。
(あー、久々に魔法使いまくったから疲れた。このまま一眠りしたいが芳樹との約束があるし。…いや待てよ、家から待ち合わせのデパートまで10分弱かかるから約束の20分前に家を出れば充分間に合う。)
「つまり、それまでは眠れるということだ。ってことで寝るか。…念のため目覚まし時計はセットしとくか。これで寝坊して食パンくわえてダッシュするなんて漫画みたいな真似しなくてすむ。」
その後目覚まし時計が壊れて鳴らなくなっていたことをすっかり忘れていた和彦は食パンをくわえて大慌てでデパートに向かうのであった。
都内にある四階建てのショッピングモール。その入り口の前で和彦の友人、鈴鹿芳樹はスマホを操作しながら待っていた。
「ゼェ、ゼェ、悪い芳樹。待たせちまって。」
「ううん、僕もついさっき来たところだよ。それより息切れしてるけど大丈夫?少し休む?」
「滅相もない!自分から友人を誘っておいて待たせるこんな不届き者の心配など一切無用でございます!」
「あはは、いつもの和彦だ。じゃあ行こうか。」
「おう。」
そうして芳樹と和彦はデパートの中へ入っていった。
このあと、和彦は今日という日を選んでしまったことをいやというほど後悔することになるが尺の都合上、それは別の話で語ることにする。
決して面倒臭いからという訳ではない。書くことがなにもないから文字数を稼いでいるという訳では決してないのである。
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