第8話 和彦と芳樹の楽しいショッピング(大嘘) 2
「んでさ〜そいつが面白かった訳なんだよね。」
「あはは、確かにそれはおもしろい。」
ショッピングモールの中に入った和彦と芳樹は談笑をしながら内部を散策していた。
「それにしてもこのデパートって結構広いよな。」
「こんなに広いと掃除とか大変そうだよね。」
「確かにな。それに警備の人間も大変で胃に穴でも空くだろうな。店舗の見回りや客同士のトラブル解決で。」
「あー、それは問題ないと思うよ。」
「どういうことだ?」
「ここ前に開店初日ってことでテレビで取り上げられたんだけどその時にここの社長さんがキュリティの自動化を自慢してたんだ。」
「あー、道理でまだ建物が新しいわけだ。…つまりどういうこと?」
和彦は目を点にして訪ねる。
「要するに監視カメラの操作からシャッターの開閉まですべてコンピューターで行っているってこと。だから警備員の人たちは客同士のトラブル解決だけに集中できるんだ。しかも、店内に不審な物(ナイフや拳銃など)を持ち込もうとしてもセンサーが感知するから持ち込めないし、お客さんが万引きしようとしてお金を払わず店を出ようとしても感知するんだ。」
「ふーん、なんか知らんがすごいんだな。」
「みたいだね。わが社の自慢だとか言っていたみたいだし。それよりも僕このデパートで行きたいところがあるんだ。付き合ってよ。」
「どこ行くんだ?」
「洋服売り場。津守さんとのデートで着る洋服を買いたくて。」
このデパートは1階から4階まであり、1階はフードコートや食品売り場、2階は玩具売り場やゲームセンターで芳樹はこの3階にある洋服売り場に行きたいらしい。ちなみに4階は映画館となっている。
「お前まだあいつに話しかけたことすらないのに気が早すぎないか?服なんていつでも買えるだろ?」
「恋を実らせる準備は念を入れるに越したことはないよ。それに和彦の着る服も見たいし。」
「…俺のは別にいらなくないか?」
「そうはいかないよ。その格好は友人として見てられないからね。」
芳樹がそう言うのも無理はない。それほど和彦の服装はダサすぎるのである。
ベージュのズボンを身に付け、白のシャツの上からグレーのカーディガンを羽織った秋らしい爽やかな服装である芳樹に対し、当の和彦は上下とも使い古したクタクタ黒色ジャージ。
現に散策している間にすれ違いざまで笑われた芳樹はそれが我慢できなかったのである。
「じゃあ行こうか。」
「おう。」
一連のやり取りをしたあと、和彦と芳樹は3階にある洋服売り場へエスカレーターを乗り継ぎながら向かうのだった。
「わぁー、いろんな洋服が売っている。」
「まぁ、洋服売り場だからな。」
和彦と芳樹は洋服売り場の前で率直な感想を述べる。
「じゃあ入るか。」
「うん。」
「あら、珍しいこともあるのね。」
二人は中へ入ろうとした瞬間右側から声をかけられ立ち止まる。
振り返ると私服姿の津守若菜とその付人の加山瑠衣がそこにはいた。
「つ、津守さん!?き、き、奇遇だね、こ、こんなところで会うなんて。」
突然現れた片思いの異性に芳樹は顔を赤らめ、動揺を隠せられない。
「ええ、奇遇ね。えーと、芳樹くんと…和良くんだっけ?」
「お嬢様、和彦です。せめてクラスメイトの名前は間違えないようにして下さい。使用人として目が当てられません。」
平然と名前を間違えた若菜に瑠衣がツッコミを入れる。
「あはは、私としたことが。ごめんなさいね。ところで芳樹くんたちも服を買いにきたの?」
「うん、彼が着る服を買いに来たんだ。」
「何言ってんだ、本当はあんたとのデー」
「それより津守さんたちも買いに来たの?」
危うく口走りそうになる和彦の口を抑えながら芳樹は若菜に訪ねる。
「そうよ。といっても私じゃなくて瑠衣が着るものだけど。」
「そうなんだ。」
「………」
「………」
(ヤバい、会話が続かない…せっかく津守さんとの距離を縮めるチャンスなのに…)
芳樹は心の中で自分のコミュニケーション力のなさを痛感する。
「あ、そういえば今度お袋の誕生日だったわ。プレゼントに服でも贈りたいんだけど俺も芳樹も女物の服なんて選んだことないからよく分かんないんだよなー。あー誰か選んでくれないかなー。」
一部始終を見ていた和彦は無機質な目をしながらそんなセリフを棒読みで呟く。
「それなら私達が一緒に選んであげようかしら?どうせこの後暇だし。」
「マジで?いやー、助かるわー。せっかく姉貴にプレゼントする物だから真剣に選びたくてさ。」
(和彦、ナイスフォロー!)
(あとで昼飯おごれよ)
お互いに手話で意志疎通をかわす和彦と芳樹。
その後4人で色々な服を選んだり試着したり芳樹に女物の服を着せて大笑いしたり何気ない会話などをしたりして過ごしたのだった。
1時間後
「芳樹の女装姿めっちゃ良かったよな。」
「もう和彦、その話はもういいって。」
「確かに悪くなかったわ。もう一回、今度はメイド服なんていいかもね。」
「津守さんまで…」
服を買い終えた4人は1階のフードコートにあるハンバーガーショップで4人用の席で昼食をとりながら談笑していた。
「それにしても芳樹くんのファッションセンスなかなかよかったわよ。」
「私も同感です。おかげでいい買い物ができました。ありがとうございます。」
「そんな…僕はただ選んだだけだからそこまでお礼を言われるようなことはしてないよ。」
いや、服に関して素人の俺から見ても芳樹のファッションセンスは中々のものだと思う。こいつは昔からそうだった。俺とどこかに遊びに行く時、決まって洒落た格好で来ていたっけか。本人は適当に選んだとか抜かしているが絶対に嘘だろと突っ込んだ記憶がある。確か中学2年生の初めあたりだったな。
「それにしても最近物騒だよね。なんか都内で過激派がテロを企てて逮捕されたって昨日のニュースでやってた。なんでもその過激派の団員には赤いトカゲの刺青が入ってるんだって。」
「そうなのか?俺あんまテレビ見ねぇからそういうのに疎いんだよな。」
「一昨日は学校の近くで落雷があったし。」
「落雷?ここ最近の天気は快晴続きだったから雷なんて起こるはずはないと思うんだけど?」
俺も同感だ。ここ最近は雲一つ見たことはない。ましてや学校の近くでそんなことあったら雷の音が聞こえるはず。少なくとも俺はそんな音、聞いたことはない。
「あれー?おかしいな。確かに僕は見たんだ。放課後の部活中に雷が堕ちるのを。あれは確か…偶鱈公園の方向だったと思う。」
ん?一昨日?公園?あ…それ俺のせいだ。あのクソ犬ブッ殺した時に使った魔法が芳樹に見られていたってことか。
一応周囲に人がいないことを確認してから魔法を発動したんだがな。…仕方ない、誤魔化すとするか。
「そういえば和彦の家って公園の近くだったよね?和彦は見てないの?」
「あぁ、俺が公園の前を通ったときはそんなもの見なかったぜ。見間違えたんじゃね?」
内心の焦りを顔に出さないように平常心で反論する。
どっからどう見ても嘘をついているようには見えない完璧な演技力。自分でいうのもあれだがアカデミー賞主演男優賞狙えるんじゃね?
「まぁ普通に考えて晴れの日に雷なんて落ちるわけないよね。僕だって体育館の中から遠目で見ただけだったし。」
「そうそう、人間誰にだって見間違いはあるもんだ。…俺ちょっとトイレ行ってくる。腹の調子が悪くてさ。」
そう言って和彦はそそくさとトイレに向かって行くのだった。
「…………」
若菜と瑠衣に疑惑の目で見られているとは知らずに。
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