百物語その第四十七話

 これは、ついこの前、僕とそこに居る勇治が、廃墟に行った時の話だ。そう・・・なんというか、くだらない若気の至りってヤツで、肝試しをしようということになったんだ。ああ、もちろんこれは百物語だから、作り話と思ってもらっても構わない。僕らにとっては本当の出来事っていうだけのことだ。

 さて、場所は・・・まあここでは内緒ということにしておこう。こういう話で場所を明かすと、また僕らのようにくだらない、若気の至りってヤツを発揮する奴らがいないとも限らない。これはなのだから、実行したら大変なことになりかねない。これは百物語、お話を楽しむことが大切なんだからね。仮に、某廃墟とでもしておこう。よくある廃業したホテルの跡地だ。買い手がいつまでもつかないから、建物がそのままになっている。こういう場所の管理は杜撰になりがちだ。なにせ廃業の跡地なんだからね。敷地は金網で仕切られているけれども、そのうちの一か所、だれかが金切りばさみで人が入り込めるくらいの穴を開けている。立ち入りは禁止されているけれど、守っている人なんか全然居なかった。近所の不良が縄張りかのようにして落書きだらけだ。中には口にするのも憚られるような猥雑な内容の落書きもある。なんとなく場所のイメージは湧いただろうか?詳しい場所や情景なんかは、この話をする上ではそんなに重要じゃないから、それぞれの心の中にある廃墟を何となく思い浮かべてくれたらそれでいいだろう。

 とにかくそういうわけで、僕と勇治は何人かの友人と一緒に某有名心霊スポットと噂の廃墟にやってきた。その噂は・・・確か・・・どんな噂だったか、まあ、そこは重要じゃないから省略しよう。確か、僕らを含めて全員で5人・・・だったかな。男3人と女2人・・・だったと思う。うん・・・そうだ、そうに違いない。

 とにかくそれで、肝試しがスタートしたんだ。コースとルール、ゴールは事前に勇治と僕が用意した。廃墟の一番奥にある部屋に、赤い蝋燭を立てた祭壇を用意した。祭壇は勇治に任せて・・・もちろん、これは雰囲気を出すための偽物だ。ルールは単純で、蝋燭の明かりを頼りに祭壇を探し、祭壇にある赤い蝋燭に灯りを移して持って帰る。たったそれだけの単純なルールだ。僕も肝試しを楽しみたかったから、下見は勇治だけが行った。

 最初に男女1組が廃墟に入っていった。男女1組・・・確かそうだ。確か・・・クラスの女子を誘って・・・そういうデートだったんだ・・・。それぞれに好きな女の子がいて・・・そんな気がしたな・・・。


「話を進めよう」


はっとした。ぼうっとする僕に、勇治が言ってきた。そうだ、話を進めなければ。とにかくそれで、最初の1組は20分くらいで帰ってきた。なんだかいい雰囲気になっていて、ちょっと悔しかったな。その後、僕ら3人組・・・3人組が廃墟に入った・・・入ったんだ・・・勇治と僕と・・・女の子・・・で・・・。

 廃墟に入った。廃墟・・・誰もいない・・・廃れた・・・散乱したごみ・・・ほかにも誰かが入った跡がたくさんある・・・。落書きや、割れた硝子・・・机や椅子が雑然と散らばっている・・・。歩を進める度、床板がギシッ・・・ギギッ・・・と軋む。事前にここに入ったのは勇治だけだが、なんだ、よくある普通の廃墟じゃないか、と思ったと思う・・・。女の子は僕の腕にぴったりとくっついて離れない。ドキドキする。この子は僕が狙っていた子だ。狙っていた・・・そう、狙っていたんだ。廃墟の中で、女の子が口を開いた。”ここってどんな心霊スポットなの?”傍を歩く勇治がすぐ口を開く。”入った人間が行方不明になってしまうんだよ”と。”コワ~い”とな反応が返ってくる。少し湿っぽいような、生暖かい腕の感触が、高揚感を高めてくる。あの時の勇治はよくやってくれたな。でも、この廃墟、そんな噂あったか・・・?そんな噂だったかな・・・。


「うわさ は、重要じゃないんだろ?」


 また勇治が話かけてきた。そうだ、ここは話をする上では、重要じゃない。とにかく、話を進めよう。それで、一番奥の部屋にたどり着くと仰々しい祭壇が置かれていた。なんだか話に聞いていた感じ違うような気もするが、火のついていない赤い蝋燭が立ててある。これだ。僕たちは持ってきた蝋燭で火を移して、赤い蝋燭を持った。また勇治が口を開く。”途中で消さないようにな。途中で消えたらそのまま連れていかれる。消さずに戻ればそのまま帰れる。そういうルールだ。最後、風が吹く。風が吹いたときに消えなければ、お前たちは全員無事だ”

 ・・・雰囲気出すぎじゃないか?迫真・・・の演技・・・に少し気圧される。別になんてことはない。消えづらい蝋燭にしたし、こんなルール事前には聞いてなかった気がするけど、祭壇は勇治が用意・・・用意したものなんだから、何も怖いことは無いよ・・・無い・・・。

 3人が戻るまで、蝋燭は消えなかった。戻った時には2人はもうどこかへ行っていた。先に帰ったか、デートにでも行ったんだろう。薄情な奴らめ。その日は僕らもなんだか興ざめして、そのまま帰ったんだ。

 ・・・オチが無いって?取り留めも無い話でも実際にあった話のほうが怖いかと思ってさ。幽霊が出たり、化け物が出る話なんかは嘘があって興ざめだろ?そう言ったとき、勇治が口を開いた。


「さっきから、何言ってんだよ。この前は俺とおまえ、2人だけで廃墟に行って2人だけで帰ってきたんだろ?」

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