72.兄友弟恭

 ケランダットが目を覚ましてから三日が経過した。初冬を迎えたガガラには雪が舞い始め、街の人間達が寒気に嘆く一方、地獄より移り来た獄徒達は城での豊かな巣ごもり生活を堪能たんのうしていた。


 そんな日々を束の間の休息に変える、女主人からの呼び出しが入った。用があるのはベルトリウスとケランダットの二人だけらしく、エイレンとイヴリーチは引き続き城での生活を楽しめるようだった。


 いつの間にか改良され、轟音も振動もなく現れるようになったクリーパーに運ばれることしばらく……地獄に着いた二人を迎えたのは、薄い青の火の灯ったカンテラを手にした背の曲がった小人こびとのような魔物だった。


「コッ……ココッ……コッチ……コッチ……」


 慣れない様子で手招きをする小人の声には聞き覚えがあった。言葉を発する度に、目や鼻など一切のパーツが付いていないツルツルとした顔面にフッと裂け目が現れる……まさしくこの城を建築した魔物、トロータンであった。こちらもクリーパー同様に改良を受けたのだろう。脚が付き素早く動けるようになったお陰で、トロータンは軽快に暗い城内を案内してくれた。

 しかし案内といっても、行き着いたのは普段エカノダがふんぞり返っている玉座の間だった。ただ少しいつもと違うのは……主であるエカノダが、広間のど真ん中の地べたに罪人のように膝をついているというところだ。


「えぇ……なにやってんですか……?」


 ベルトリウスが引き気味に尋ねると、顔を伏せているエカノダに代わり、背後にて控えていたオイパーゴスが口を開いた。


「なんや、そっちの子を傷付けたお詫びに自分の腕も切らせたるらしいで」

「……これは、”けじめ”よ。お前も鬱憤うっぷんを晴らさなければ、またいつ爆発するか分からないでしょう。……私の腕を落としなさい。それでこの一件は完全に終わらせる」

「いやいやなに部下の目を気にしてんですかっ! この前俺が言ったことをもう忘れちまったんですか!? んな賊みたいなケジメの付け方しなくていいんですよ! 悪いって感じる必要もねぇ!」


 数日前に教えてやった”上に立つ者の態度”をまるで理解していないエカノダの行動に、ベルトリウスはつくづく呆れ果てた。指名されたケランダットはそんなベルトリウスのわきを抜けてつかつかと前へ出ると、エカノダの脳天を見下しながら鞘から剣を引き抜いた。


「言っとくが容赦はしねぇ。魔術も使わせてもらう。酷い苦しみを味わう覚悟はできてるんだろうな?」

「馬鹿っ、お前も真に受けるなっ!」

「ええ、好きなようにやりなさい」

「こっちも馬鹿だ! くそっ、どいつも聞いちゃいねぇ! オイパーゴスも止めとけよっ、エカノダ様が死んだら俺達獄徒も一緒に死ぬんだぞ!?」


 壁に取り付けられた燭台の光源に照らされ、鈍色の剣は怪しい光を反射させる。その下で、エカノダは自身が破壊した側と同様の右腕を、肩の位置まで上げて綺麗に一直線に伸ばす。

 ベルトリウスは頭痛が起こりそうなくらい悩ましい光景に矛先をオイパーゴスへと転じさせると、彼は持ち前の仮面を指でカリカリと掻いてのんきに答えた。


「面白そうやしええやないの。大事だいじになる前にワシが治したる予定や」

「だからって万が一があんだろうが!! 話の分からねぇ奴ばっかりだなここは!!」


 そういえばこの虫の魔物は己の生死に興味がなかったのだと、広間には荒げられた声が響いた。

 案内してくれたトロータンはいつの間にか消えているし、ベルトリウスは誰一人として共に静止を求める者がいないと諦め、仕方なく被害を最小限に抑える道を選んだ。


「おい、やりすぎんじゃねぇぞ」

「断る。―― ”穢れウーロー”、”絶やすンンー”、”範囲パィヌ”」

「……チッ! オイパーゴス、切られた瞬間に治せるよう準備しとけ!」

「ホイホイ」


 ケランダットに耳打ちするも、即答で一蹴いっしゅうされる。

 彼が詠唱している間に指示を出すと、次の瞬間には刃に浄化の光が纏わり付いており、高々と掲げられた剣は、そのまま勢いよくエカノダの細い腕に振り下ろされていた。



 ”ブシャッ―― !!”



 皮膚の裂け目からよこしまな肉体を焼き始めた純白の光は舞い上がった血しぶきさえも滅しにかかっているようで、ジュウッと恐ろしい音色を奏でていた。ゴトリ、と胴から切り離されて床へ落ちた腕にも絡み付き、生き物が食事をするように肉を溶かしてゆく。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーッ”ッ”!!!!」


 エカノダは声を裏返して絶叫し、その場で肩を押させてうずくまった。流れる血を燃やされながら頭をぐりぐりと床にこすり付けて悶える姿を見て、ベルトリウスは冷や汗をかきながら彼女の後ろで悠長に観察しているオイパーゴスを怒鳴りつけた。


「オイパーゴス!! 何やってるすぐに――」

「駄目だっ!! すぐ消える痛みなんてなんの反省にもならねぇ!! ケジメだと思うならしばらくこのままでいろ!!」

「チッ! おいてめぇ、いい加減に……!!」

「ぃ……イ”イ”からっ!! ごのま、まっ……イ”イ”わっ!!」


 こちらの声を掻き消さんとさらに大声を上げてエカノダに言い聞かせるケランダットに、ベルトリウスは青筋を浮かべながら睨み付けた。

 相手を長く苦しませることが目的だったケランダットは、彼女の身を蝕んでいた光だけは消してやった。だが消えたところで、腕を落とされた痛みと焼かれた痛みは依然継続している。

 ただれた断面を見つめるケランダットの息は浅く荒く、人知れず下腹部は熱くなっていた。


 二分後……ここが限界だと強く主張したベルトリウスの意見が通り、エカノダはオイパーゴスの治療を受けることとなった。

 ベルトリウスは呻きを上げるエカノダを未だに視線で追い続けるケランダットの頭を、後ろから遠慮なしに引っ叩いた。


「こんな時におっててんじゃねぇよ、ド変態野郎が」


 軽蔑のこもった目で膨らんだ部分を見下ろしてやると、ケランダットはハッとして手にしていた剣で股間を隠した。

 復活することの叶わない死……本来迫る予定のなかった我が身の危険を前に、ベルトリウスは珍しく本気で腹を立てている様子だった。今までヘラヘラと気の抜けた表情しか向けられたことのなかったケランダットは、初めて敵意に似た感情を目の当たりにして内心戸惑っていた。


「……お前は腹が立たないのか。あれだけ不当な扱いを受けておきながら、どうしてやり返したいと思わない?」

「上に立つもんは部下をどう手酷く扱ってもいいんだよ。向こうが上、こっちが下。車引きの馬が”今日は歩きたくないです”つって、馬主から休みが当たると思うか?」

「……俺達は馬じゃねぇ。なんで……お前はそうなんだ? すぐ諦めて、納得して……俺がお前の代わりに怒ってやっても、お前は感謝するどころか逆に責め立ててきやがる……どうして俺の味方をしないんだ? お前は、俺に同調しなけりゃいけないのに……」


 他者と関係が希薄だったケランダットはその発言が火に油を注ぐ行為だと気付かなかった。ベルトリウスは何度目かの舌打ちをし、右往左往する黒い瞳を睨んで言った。


「何が俺の代わりにだよ、てめぇの失態をなすり付けてくんじゃねぇよ。俺がよそへ飛ばされる時、仇を取ってくれとでも言い残していったか? どうせ一人で勝手にキレてエカノダ様につっかかったくせに、自分で面倒事を起こしといて相手が悪い、ナンデナンデドウシテって……お前は本当に後先を考えられないガキだな? 見た目だけ年を食って中身はまるで成長してねぇみたいだ。今まで誰もお前に手を差し伸べなかったわけだよ。こんな問題ばかり起こす間抜け、そばに置いときたいはずがねぇからな」


 己の全てを否定された気がしたケランダットは、弾けるようにベルトリウスに掴み掛かって床に押し倒した。馬乗りになって拳で顔面を殴打し、前髪を掴んで後頭部を床に叩き付け……ガガラの夜街で暴れた時のように、憤りをぶつけた。


 離れた所にいたエカノダは仲裁に入ってやろうとしたが、己の体に走る痛みにそれどころではなかった。はなから興味のないオイパーゴスは治療に専念しているし、暴走するケランダットを止められる者はここにはいなかった。



「おっ、俺ぐらいなんだぞお前みたいなクソッタレを心配してやるのはっ!? なのに俺の好意を無下にしてっ、この恩知らずの低賊がっ!! お前だって人のこと言えねぇくせにっ!! お前だって死んでも誰にも悲しまれないくせにっ!! 思い上がりやがってっ、だから生まれの悪い奴は嫌なんだっ!! 人の気持ちを掃き捨ててっ、お前なんて帰ってこなけりゃよかったのにっ!! どっかで野垂れ死ねばよかったっ!! どうして帰ってきやがった!? 誰にも望まれねぇ奴がっ……死ねっ!! 今死ねよっ!! お前なんて誰からも嫌われてるくせにっ――」



 ボロボロと涙をこぼしながら長髪を宙に舞わせて狂乱する大柄の男の姿は、ある意味で地獄的な光景だった。

 ケランダットは暴力以上の解決策を知らなかった。家を出た時からずっと、揉め事はこれで終わらせてきた。他者との交流方法……それが良くないものだと分かっていても、考えるより先に手が出てしまうのだ。

 でも仕方ないと思っていた。

 共にカイキョウへ乗り込んでくれたベルトリウスなら理解してくれると、すでに何度もこのような展開を笑って流してくれた彼なら、また呆れ顔でこの悪癖を許してくれると思っていた。


 だが、ふと気が付くと、血溜まりの隙間から覗く紫眼はこちらを見つめていなかった。殴られていることも意に介さず、どこかそっぽを向いていた。繰り返される浅い呼吸が、まるで”相手をする価値もない”と溜息を吐いているように見えた……。



 ケランダットは絶望した。最早いないものとして扱われるのが一番こたえたのだ。



 馬乗りのまま、散々痛め付けていた頭部を慌てて撫でて血をぬぐってやるも、ベルトリウスが視線を合わせてくれることはなかった。我に返って心の中で今ほどの自身の発言を復唱してみると……それは酷いなんてものではない。友人と思っている者に対して口にするべきではなかったと、激しい後悔の念に飲まれた。



「ちっ……ちがうんだっ、いまのはおれの本心じゃないっ!! おおっ、おれは本当にお前を心配してただけで……っ、おれはっ、お前に助けてもらったから助け返してやりたかっただけなんだっ!! おっ、お前が俺を頼ってくれたらと思っただけで……おれはっ……いっつもこうなんだっ!! 昔っから他人と上手くできた試しがなくてっ……!! ぐッ……わ、分かってくれっ……!! お、おれのしたことっ、ゆるしてくれるのはお前だけなんだよぉっ!! お前がいなくなったら俺は支えがなくなるのにっ……でも死ぬのが怖くてっ……それなのにもう生きたくなくなっちまうっ……!! どうにもできないのにっ、く、ゥ”ッ……おっ、お前が生かしたくせにっ、責任を放棄するなっ!! ……いや、う”ぅ”っ……ちがうまたっ……ぐ、ゥ”ゥ”ッ……お、おれの言いたいこと、伝わってないよなっ……? もうあ、あたまんなかがグチャグチャでっ……ここっ、こういうのっ、なおしたいのに……っ、ここんところ自分でも嫌になるくらい、なにもかもに苛立っちまうんだ……!!」



 言い終わる頃にはベルトリウスの胸に額をついて泣き崩れていた。

 ラトミスが危険だと言われる所以ゆえん、その強い依存性の恐怖が今ならよく分かる。こんな状態に耐えられる者など、いるわけがない。鍋の中のスープのように思考がグルグルと掻き混ぜられ続ける。不安感、不快感、焦燥感が常に心を乱し、幻聴や幻覚、時には夢の中にまで入り込んで気を蝕んでくる。当然荒れた中毒者の周囲からは人が絶え、やがて皆、孤独な死を迎えるしかないのだ。


 いつしかいきり立つモノも完全に萎えきっていた。上下する胸に顔を伏せたままでいると、頭上からは今度こそ本物の溜息が聞こえた。


「……お前のせいじゃない。そうなるのは薬の後遺症だ。とりあえず、俺の気持ちを勝手に推測して行動するのはやめろ。何か嫌な目に遭ったら俺に当たって怒りを鎮めとけ。その場に俺がいなけりゃ一旦溜め込んで、後で合流した時にこうして殴るなり蹴るなりしてぶつけろ。エカノダ様とか他のメンツに行くと尻ぬぐいが面倒くせぇからな。なだめてやっから、少しの間こらえる努力をするんだ」


 淡々と発せられた声にケランダットはすぐさま体を起こして、眼下へと移動した顔を見下ろした。いびつに曲がった鼻をポキポキと指で曲げ直して整えるその面倒くさそうな表情には、一片の怒りも混じっていなかった。

 ケランダットはまだ言いようのない不安に駆られていたが、少なくとも視線を合わせてくれるようになったベルトリウスに緊張の糸が緩んだ。


「おっ……おれのこと……ゆるしてくれるのか……? すごくひどいこと……たくさんしちまったのに……」

「ああ、許すよ。こっちこそごめんな? 俺のために腕折られたのに悪く言っちまってさ。お前の言った通り、俺は他人に心配されるような男じゃないからさ。どうもひねくれた見方をしちまうんだ。……そうだな……お前くらいだよ。俺みたいな悪党を家族みたいに想ってくれるのは」


 ニッと笑った顔を見て、ケランダットはようやく心の奥底で安堵の花が咲いた。そしてベルトリウスが口にした”家族”という言葉は混乱した脳内で独り歩きし、”ベルトリウスが自分を家族扱いしてくれている”という若干飛躍した考えに行き着いた。勿論ベルトリウスにとっては心にもない上辺だけの台詞であったが、ケランダットは目の前の男にとって自分だけは特別なんだと、ありもしない情味を見出していた。


 ケランダットは常々思っていた。ベルトリウスが己の兄であればいいのにと。

 実兄であるラスダニアは辛い時に助けてくれない、頼りにならないという負の象徴であった。その点ベルトリウスは復讐に手を貸してくれたし、彼の利害のためとはいえ薬物という悩みの根本を解決しようとしてくれる辺り理想的な兄の器に見えた。

 何より、最終的にのが大きい。


 向こうの気持ちもお構いなしに……ケランダットは横たわるベルトリウスの肩を強く掴み上げて体勢を起こさせると、掴んだままの手の内にさらに力を込めて声を張り上げた。


「おっ、おれっ……! おれはっ、おまえこそっ、おれの”兄”になるべきだったと前々から思ってたんだっ……!! ほっ、本当は大切にしたいのにっ、なのにっ……ごめんっ!! たくさん殴っちまった!! 頭もいっぱい打ったしっ……ほんと、こんなことしたいわけじゃないのに……ときどき別人になっちまうみてぇなんだ……」

「あに……? まぁ……気にすんなって。ウジウジすんのはもうしまいにしようぜ? 気分を切り替えるために地上の村でも襲って回ろう。食って寝て殺して、本能のままに過ごせば余計なことを考えずに済む。そうだろ?」

「ああっ……ああっ……! おれっ、本当に悪かったっ……! どこでもついてくからっ……ゆるしてくれっ……!」

「へいへい、もう大丈夫だって。ほら、エカノダ様も回復したみたいだぜ」


 促されるまま後ろ振り返ると、確かに腕の戻ったエカノダが眉をひそめて二人を見つめていた。

 ベルトリウスはいつまでも覆い被さって離れないケランダットの体をやんわり押して目の前から退かすと、上着の襟口でしたたる血を拭きながら、立ち上がってエカノダに向かい合った。


「しばらくは適当に飛んだ国で人を襲ってきます。クリーパーはしょっちゅう呼ばせてもらうと思いますけど。また他に仕事ができたら連絡ください」

「ええ、分かった。……けどお前、色々と……大丈夫なの? そっちの……ケランダットも」

「ははっ、ちょっと遊んでただけですよ。な?」

「ぁ……ああ……」

「……まぁ、問題ないのならいいのだけれど……」


 隣に並んだケランダットの首後ろを捕らえてわざとらしく腕を回し、無理矢理に肩を組んで騒動が収まった様子を見せつけるベルトリウスに、エカノダは男兄弟の喧嘩後を心配する母親のような面持ちでいた。




◇◇◇




 ベルトリウスとケランダットが消えた広間で、オイパーゴスは興奮覚めやらぬ様子でエカノダに告げた。


「嬢ちゃん、やっぱりあれはホンマモンや! あの光は神と同じ技やで! 絶対に強化を受けさせるんや!」


 ―― このケジメには、ケランダットの浄化の光を間近で見たいというオイパーゴスたっての願いが含まれていた。要望通り叶ったオイパーゴスは、懐かしくも恐ろしい天敵の幻影に体中の触手をざわつかせた。あれは確かに同じ性質のものだった。魔を滅ぼす聖なる光だ。


 ガガラから二人がやってくる前。事前にエカノダから自領地内の情報を与えられていたオイパーゴスは、誰よりもまずケランダットに強化を試すべきだと語っていた。神の如き力を磨き続ければ、いつかは神をも超越する力になるだろうと。

 だが、エカノダは首をすんなり縦には振らなかった。


「何度も言っているでしょう。私のは魔物に施す力よ。恐らく人間は耐えられない」

「ナーーニが”オソラク”やっ、甘々チャンなコト言うとるんやないで!? ダメそうなら止めたればエエ話やん! 体がおかしなってもワシが治したるんやから、受けさせればエエやろぉッ!?」

「体は治っても、精神は治らないでしょう。魔術師は気が狂うと使い物にならないのよ。……お前はただ己の好奇心を満たしたいがために私に提言しているようにしか見えない。そんな簡単に仲間を実験体扱いするのはやめなさい」


 ”キョァァーーーーッ!!”と、独特の鳴き声を上げて悔しがるオイパーゴスは、ただでさえ薄気味悪く発光する目を尚更強く点滅させて、口元の触手から透明な液体を噴射した。

 少々して落ち着くと、オイパーゴスは腕を組んで下から見上げているエカノダの露出した胸の谷間に、自身の四つ股の指の一本を突き立ててトントンと軽く小突いた。


「まぁ、今は考えを頭ン隅に置いといてもらう程度でエエわ。でもキミ、少しくらいあのベルなんちゃらって子のあくどさを見習った方がイイで。本気で王の座を狙うっちゅーんなら、ナマハンカな気持ちではいられんからなァ。争いに犠牲は付きモノ。結局は切り捨てられるモンが勝ち進んでくってことを肝に銘じときや」

「……変なところに指を置くじゃないわよ」


 そう言ってオイパーゴスの手を払うと、エカノダは”フンッ”と鼻を鳴らして巨体から顔をそらした。

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