68.飛んで火に入る

 ベルトリウスが気を取り戻した時、見慣れた赤い空は谷底にいた頃よりも近くに見えていた。


「キミ、ホンマしぶといなぁ。頭だけで生きとるとか、どうなっとんの?」


 締まりのない声が聞こえる方へと首を傾けると、手頃な大きさの岩に腰掛けていたオイパーゴスはこちらをじっと見つめていた。


「あの……大ムカデは……」

「キミが倒したんやないか! どうやって仕留めたんかワシが聞きたいくらいやで!」

「俺が……?」


 ベルトリウスは整理が追いつかないまま寝ていた体を起こし、自身の後頭部や腹を撫でた。肉も皮も元通り……あの発狂も許されない痛みの連鎖が悪い夢であったかのように、不快感だけが体に染み付いていた。

 深い溜息を吐いて両手で顔を覆う。額には先程の戦闘で出た脂汗が、未だ薄っすらと残っていた。


「……今度こそ俺の勝ちってことでいいな。あんたに戦う意志があるなら別だが……」

「キョッ! そんなつもりナイて分かっとるくせに、イジワルな子やねぇ」

「あんただって仲間に食われずに済んで安心しただろ? 感謝しろよ、俺に」

「感謝ァ〜〜!? キョホッ!! キミィ……ワシが死から逃れようとしとる風に見えたんかァ?」


 オイパーゴスはまた仮面の下の目を強く点滅させると、嫌味ったらしく我道がどうを説いた。


「ワシはなぁ、別に死ぬんは恐ろしないんや。死はいつかは訪れる必然やからな。ワシが重視するんは”楽しむこと”や。充実した過程を送れれば、結末なんてどうでもエエんやからな。誰の生き死にだろうと、それはただの香味でしかないっちゅーこと……」

「ハッ、大層なことだ。なら、お望み通り今ここで殺してやろうか? あんたの暇潰しに付き合わされて酷ぇ目に遭ったことにゃ変わりないからな。滅茶苦茶痛い思いをして……正直ムカついてんだ。俺はやられっぱなしは嫌いでね」

「エエで、オスキなようにドーゾ。世の中っちゅうんは弱肉強食やからな。特にこの地獄は……こんな静かな場所で穏やかな死を迎えられるんなら、ワシは恵まれた方やで。”中央”みたいにドンパチやっとる場所で誰にも気付かれずに死ぬワケでもナシ……贅沢モンやで」

「……”中央”? どこだそれは?」

「フゥム……まぁ、死ぬ前の餞別や。ちょっと聞いてき」


 オイパーゴスは自身が腰掛ける岩場の隣部分を四つ股の鉤状の手でポンポンと叩き、共に座るよう促した。その好々爺こうこうやのような振る舞いにベルトリウスは何だか毒気を抜かれ、苛立っていた自分をなだめるように肩をすくめると、進められた通り丸い影の隣に座った。


「ここはなぁ、地獄の中でもかなり戦いの少ない土地や。ワシ、これでもダイーブ昔から魔物として生を受けとってな。戦闘向きの能力も持ってないし、長いこと各地を飛び回って遊び呆けとったんや。おかしな話やろ? キミ、管理者はその土地に縛られるって話を知っとるか?」

「いや、知らねぇ」

「管理者いうんはなぁ、生まれた瞬間から”こっからここはジブンの領土や!”っちゅー謎にこびりついた意識があんねん。領地外に出ると強迫観念が襲ってきてな、”とにかくあすこに戻らな!”って焦りで頭がいっぱいになんねん。ワシも初めはそうやった。空間に見えない線があって、そっから先は行けても長居はできんかった。けどいつ頃だったか、領地を離れても何も感じんくなったんや。この辺は昔っから温泉以外ナーンもない土地でなァ。獄徒の一匹もおらんかった当時のワシは、暇過ぎたんで嬉々として旅に出た。あてもなくフラフラと風任せ、運任せ……したらドンドンと争いの激しい場所に向かってってしもてな。さっきキミが戦っとったワシの仲良しグループはそン時に出おうたんや。皆も面白そうや言うて一緒に奥を覗きに行ったんやが……そうこうして最終的に辿り着いた場所こそ、地獄で最も血肉にまみれたいただき。神々との紛争地帯である、”中央”やった」


 ”まっ、中央ってのはワシが勝手に名付けて呼んどるだけなんやがな!”と、オイパーゴスはキョキョッ! と口を鳴らした。

 オイパーゴスは先立った友らと並んで見た景色……その追憶にふけった。




 ―― 山は絶えず笑い声を響かせながら噴火し、周囲の者を飲み込んだ。同時に、上空に漂う黒雲は酸の雨を降らせ、共に眼下の生物を溶かし尽くす。地表や空では神の雄叫びと、狂乱と愉悦に満ちた魔物の叫び声が飛び交っていた。

 魔物というのはどうしようもない生き物だ。熱くなってしまうと、視界に入ったのが同じ管理者を支持する身内であろうと刃を向ける。神は同族に手を出さないが、魔物は見境なく嬲り合い、殺し合い、そうして戦場を血の赤と無の黒に染め上げていった…… ――




「これはワシの予想でしかないが、あすこは地獄でいっちゃん強い管理者の領地やったんやないかなぁ。やから神々が冥界からはるばる乗り込んできとったんや。地獄の王の誕生を阻止しにな……」


 しみじみと……どこか懐かしむように語られるオイパーゴスの昔話に、ベルトリウスは少し面食らっていた。


「神様って、本当にいんのか?」

「おるで。アイツらは全身金ピカに輝くバケモンや。全身金ピカな上にさらにビカビカな光を放ってきてなぁ、それに触れた瞬間、魔物は一瞬で灰になるエゲツない技やったで。弱っチョい魔物はそン光で消滅すんやけども、余裕で耐える魔物もまァ〜〜〜〜おってな。ワシも見学中に何度か食らいかけてビビリ散らしたもんやが……ホンマ、あすこに立っとるんはバケモンばっかやったね」

「へぇ、それって聖魔術ってやつか? あの野郎、やっぱとんでもねぇのを食らわせてくれたんじゃねぇか……」


 魔物を絶やす光と聞き、ベルトリウスはまずケランダットを思い浮かべた。よもや神々が使用する術が自分にも向けられていたとは……げんなりした表情のベルトリウスを見て、オイパーゴスは首を傾げた。


「キミ、神と戦ったことあるん?」

「ねぇけど……多分その神様が使う光ってのは、俺の知り合いが使う魔術と同じなんだよ。一度受けたことはあるが、ありゃ本当に酷ぇ」

「……ン”ン”? そりゃおかしいで。ワシの言うとる技を食らったんならキミ、こうやって生きとるはずがないもん。ワシはナマで見てきたから分かるんや。あれは優れた管理者か、同程度の強力な魔物でないと即死するはずや。ワシのオトモダチぐらいでヒーヒー言っとったキミが無事でいられる代物ちゃうで?」

「うん、だから、死んでまた生き返ったんだよ。俺が仕えるご主人様は死んだ獄徒を復活させることができるから」

「……ハァッ!!?? なんやソレ無理やろそんなコトッ!!?? ンナッ……無理やろそんなコトッ!!??」


 オイパーゴスは突然声を荒げ、瞳を強く点滅させて迫ってきた。驚いたベルトリウスは腰掛けていた岩場からずり落ちて尻もちをついてしまったが、オイパーゴスはお構いなしに興奮気味に疑問符を飛ばしながら、手先を忙しなく動かしてブツブツと独り言を始めた。


「……そんなに驚くことかよ? あんただって俺のことを生き返らせてくれただろ?」

「ちゃうわ!! ワシは魂の記憶を元に肉体を再構築させとるだけで、死んでまったモンをどうこうはできんッ!! そもそも魔物は死んだら魂も消滅するはずやろッ!? 蘇生なんてことができてしもうたら、今頃地獄中が魔物だらけになってしまうやろがッ!!」

「はぁ……そうなのか……?」


 ベルトリウスは熱く語るオイパーゴスに引き気味に答えながら、ふともう一つ気になった点を上げた。


「じゃあ魂を消費して獄徒を強化するってのはどうだ? これも珍しい能力か?」

「強ッ……!? デッ、デきてしまったら地獄の勢力がそいつの一強になってしまうやろがッ!? エエかッ、ワシの言った”中央”の魔物共は元からメチャ強い個体として存在しとるんやッ!! 逆に弱い個体は他者の吐息で死んでしまうほどド弱いッ!!魔物っちゅーんは備わった能力が成長することはナイから、誕生した瞬間から格差が生まれんねん!! その常識をくつがえしてまう能力なんてッ……珍しいどころやナイッ、超超超希少種やッ!! もしもキミのゴシュジンサマがそんな能力を持っとるならッ、無闇に言い触らさん方がエエで!! こんな話をヨソの管理者に聞かれでもしたら、もし”中央”まで話が飛ぼうもんなら……オォッ、恐ろシッ!! とにかく、いつ刺客が送られてもおかしないンやからッ、これからは気軽に口にせんときや!?」

「……おう」


 ベルトリウスは生返事をし、親切心を見せてきたオイパーゴスに”こいつじゃダメだな”、と諦めの目を向けた。


 オイパーゴスは暇潰しのために命を弄ぶ残虐さがありながら、一方で、温厚で知性的な一面も兼ね備えている。その見聞を惜しみなく披露してくれる上に、内容は恐らくエカノダさえも知らないような有力な情報ばかりだ。


 使える者ではあるが、仕えたい者ではない。


 ベルトリウスは初め、オイパーゴスがエカノダより強力な管理者であった場合にくら替えを考えていた。だから大勢での蹴落とし合いが始まる前に、”勝ったら一つ言うことを聞いてもらう”と約束を取り付けておいたのだが、話の流れから推測するにオイパーゴスは治癒以外の能力がないみたいだし、見事に当てが外れた。

 ベルトリウスにとって関係性とか今まで積み上げてきたものとかは、取るに足らないことだった。組織に対する愛着もないし、エカノダ始め、イヴリーチやクリーパーなどの他の獄徒も切り捨てることに躊躇はない。

 自分を慕っているケランダットについては、魔物に効く魔術を使えるという利点で勧誘してやってもいいと思っていたが、邪魔になるようなら不意をついて早々に処分しようとも考えていた。


 皆、酷い男だと評するだろう。でも、誰だって自分が一番可愛いはずだ。より強い者になびいて渡る……それが優位に生きる上で重要なことなのだ。オイパーゴスは強者ではなかった。そして改めてエカノダの有用性に気が付いたベルトリウスは、彼女に上手く誘導し、思いのままに動かして安住の地位についてみせようと心に決めた。


 ベルトリウスは予定を変更し、オイパーゴスを自軍へ引き込む方向にかじを切り替えた。


「なぁ、あんた俺のご主人様に仕えてみないか? 実は俺ご主人様と喧嘩して領地を追い出されちゃってるからさぁ、手土産もなしに帰ったらまた機嫌を損ねそうなんだよ。あんたが降伏すれば、もしかしたらあんたの領地はウチのものになるんじゃないか? そしたらご主人様も手柄を取ってきた俺を許さずにはいられないだろ? あんたも俺のご主人様に興味が湧いてるみたいだし……どうだ、悪い話じゃないだろ?」

「ムムゥ……!! まぁ、確かにキミのゴシュジンサマは気になるし、管理者が別の管理者を生かしたまま領地を乗っ取る例もナくはナイけんど……ウムムッ………………ま、エエか。これも何かの縁や、ワシもキミのゴシュジンサマの獄徒に成り下がったろーやないの!!」

「ははっ、決まりだな! なら早速……って言いたいところだが、どうやって帰りゃあいいかなぁ……」


 上手く話をつけたベルトリウスだったが、問題はその帰還方法だった。オイパーゴスの領地に捨てられるまでの移動中はクリーパーの腹の中にいたので、城へ帰る道が全く分からなかった。

 一応ダメ元で、オイパーゴスに顔見知りでないかと聞いてみる。


「俺のご主人様……エカノダ様っつーんだけど知ってる? 見た目は普通の人間の女みたいな奴なんだけど」

「知らんなぁ……この辺では虫型の魔物しか見掛けんから、もっと遠くの地域の子やないか? っちゅーかキミ、ゴシュジンサマも人型なんか? すんごい珍しいことやでソレ」

「そうなの?」

「そうやで! やって、地上に一体どれだけの生物が存在しとると思っとるの? ジブン今まで見てきた景色を思い出してみ? 水中や陸には砂粒みたいに細こい生物がウヨウヨしとるやろ? んでさらに、目にも見えんくらい小さな生物ちゃん達もいてるワケやから……人間なんてメチャンコ数の少ない生き物やて分かるやろ? んだから霊界に上がってくんのも一回に何十、何百と命を産み出す虫や水中生物の魂が大半を占めとるんや。人間なんて新しい命が育つのに時間は掛かるわ、一度に一匹二匹しか産めんわで効率最悪やからな」

「言われてみれば、まぁ……」


 そこそこの説得力にベルトリウスは低く唸った。

 しかし……一体何故、オイパーゴスはこんなにも物を知っているのだろうか? 人間の言葉を話す点についてもそうだが、考え方や行動が他の虫型の魔物達と違っているような気がして、ベルトリウスは違和感を覚えていた。


「あんた、何でそんな色々詳しいわけ? 俺の言葉が通じるし、虫とも普通に会話してたし……何? どっちかは勉強して喋れるようになったってこと?」

「ベンキョウ……? いやいや、キミやって何種族分かの記憶はあるやろ?」

「……しゅぞく……?」

「……アレェ? ウーン……例えばやねぇ、ワシは虫と人間と海の生きモンだった頃の記憶を持っとる。それぞれ別の個体で、記憶っちゅーても、どれもハッキリと思い出せない曖昧なものやケドね。これはワシが長年の調査で導き出した考えなんやが、魔物っちゅーんは基本的に主格となる生物の生態に寄ってくんや。虫が元になっとるなら地上の虫と同じような生き方を好むし、人間が元になっとるなら人間と同じような生き方を好む。ワシは虫と人間の要素が強くて、どっちも半々くらいに主格を占めとるから、それぞれの言語を理解できるし、それぞれの文化に精通しとるってワケ。エエかいな?」

「う〜ん……そんな、もんなのかぁ……?」


 だいぶ砕かれた説明ではあったが、ベルトリウスはいまいちな反応を返した。


「キミにはないんか? 例えば、水気を感じると体のどこかが震えたりとか、人間なら食べんはずのモンを好んで食すとか……そういうのが他種族の名残っちゅーか、元になった魂に寄ってっとるっちゅー証拠や」

「んー……俺ぁは死んだ後、エカノダ様に直接魔物にされたからなぁ。混ざり? とか、ないんじゃねぇの?」

「……チョクセツ? ……ンン〜〜〜〜?? キミィ……というか、キミのゴシュジンサマってホンマ謎やなぁ……? 早よ調べたいわぁ、早よ会って話したいわぁ。そもそも人型ばかりの集団って、土地柄のせいなんか? そりゃ各地で虫型魚型鳥型が密集する場所もあれば、人型の魔物がよう出現する場所もあるのやろうけど……ウゥゥッ、気になって体がムズムズしてきたァ……ワシは答えが出ない間のこのムズ痒さがメチャ嫌いなんやァ”ミ”ィ”ィ”ーーーーヒヒッ”ッ”!!」

「……」


 オイパーゴスが興奮すると、口元の触手が大きくうねった。各脚が豪快に揺れる度にビュッ!ビュッ!と謎の透明の粘着汁を飛ばされる。恐らく唾液なのだろうが、思いっきり上体に掛かったベルトリウスは付着した汁に顔をしかめ、取れるだけ手で拭い取ると、本人の羽に丁寧にのじってお返しした。

 しかしながら、お陰様で冷静になれた。この会話を始める前に、試しにクリーパーを呼んでみればよかったなと思えるほどに……。


 ベルトリウスは一人で自問自答を繰り返すオイパーゴスの隣で、何の説明もなしに突然叫び出した。




「ッックリィィィィーーーーパァァァァァァァァァァーーーーーーッッ!!!!」




「オ”ヒャッ!? 突然なんやのッ!?」

「……これでしばらく待ってみて、迎えが来なかったら打つ手なしだ」

「???」

「俺の仲間、いつもこうして叫んで呼ぶんだよ。今試してみただけ」

「それやる前に言うてくれん???」


 唾液のお返しだと言わんばかりにほくそ笑むと、オイパーゴスはそれ以上気を損ねるでもなく、”迎えこんかったら抱えて飛んでったろか?”と言うだけだった。おおらかな態度に、ベルトリウスはつまらない反応だと小さく溜息を吐いた。


 その後、ベルトリウスはオイパーゴスが展開する様々な持論を聞き流しながら、来るかも分からないクリーパーの登場を待った。

 オイパーゴスの話は興味深いものもあれば、ベルトリウスには少し難しいものもあった。こちらが内容を理解してもしていなくても、オイパーゴスは言葉を紡ぐのを止めない。学者の講義を聞いているような気分……というよりは、飲み屋で隣の席の酔っ払いに絡まれたような気分だった。


「そもそも何で魔物なんて生き物が生まれるんや? 魔物が地上の亡者の成り代わり言うんなら、地上で暮らす生物を創造したっちゅー神は何で己が生み子である魔物ワシらを目のかたきにして滅ぼそうとするんや? 命を奪うことが罪と定めるなら、魔物を殺す神やって罪を犯しとるはずじゃあないンか? それ以前に、他者を食らって生きるように設計した神側に落ち度があるやろうに、いやそもそものそもそも、命の境界ってーのは何をもってして――」

「あー……そうなんだぁ……」


 頼むから早く到着してくれと願った。

 話を無視すると、”聞いとる?” っと肩を揺さぶって相槌を求めるてくるのが何より面倒くさい。今までこの手の話をする者がいなくて舞い上がっているのか、単にお喋りが好きなのか……なんとなく後者な気がするが、とにかく面倒くさいことに変わりはなかった。


 もう迎えを待つのは諦めて、適当に歩き出してしまおうかと考えた時だった。

 不意に、地面が少しぐらついた気がした。それは次第に確かな揺れへと変わると、ベルトリウスは腰掛けていた岩場から待ってましたと謂わんばかりに立ち上がり、拳を握り締めて浮かれ叫んだ。


「ヨッシャ来たぁぁぁぁ!!!! っんだよ、俺のこと捨て切れてねぇじゃねぇか!! 馬鹿な女っ!! ぐはっ!! っははっはっはははははーーーーぁ!!!!」

「うぉォォッ、さっきのホンマにお迎え呼んどったんやなァァァッ」


 後ろで少し遅れて立ち上がったオイパーゴスは、腹の肉をプルプルと揺らしながら感嘆の声を上げた。そして……。


「ビッギャアアアアゥイッ―― !!!!」


 クリーパーは地表で口を開いた瞬間、あまり聞かせないその高めの声でベルトリウスを歓迎した。迎えに来たということは、”彼女”も帰って来いと言っているのだ。


 ベルトリウスはオイパーゴスと共にクリーパーの中へと飛び込んだ。

 あれほど手厳しく言い詰めてやったというのに、結局己のような男であろうと情が湧いてしまえば捨てきれないとは……女主人の愚かしいほどの甘っちょろさが、今はたまらなくいじらしく笑えた。

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