第2話 俺、能力を失った
痛覚が身体を巡り、慌てて目を覚ます。
全身が筋肉痛のように痛いが、何とか生きているらしい。
痛む身体を無理やり起こし、ここが何処なのかを把握するため、辺りをを見渡す。
「暗いな」
何も見えないほど真っ暗闇に手を伸ばし、壁らしき何かに触れる。
そのまま新太は、手で触れているのが壁だと信じてなんとか立ち上がった。
(洞窟か?)
右も左もわからないが、取り敢えず壁伝いに進んでみる事にした。
明かりも見えずただ暗い場所を進んでいると何か嫌な臭いがして、その場で一旦止まる。
(なんだこの臭い……?)
鼻を摘まんでも臭ってくる異臭に吐き気を覚えながらも、転けない程度に急いで進んだ。
そして、ようやく薄い明かりが新太の姿を映す。
「明かりがあるのに、壁が邪魔だな」
出口に近付いたというのに、目の前にある壁が遮って外へ出る事が出来ない。
どうにかしてこの壁を破壊しなければならないが、新太にはまだ魔法がある。
「
壁に手を当てて魔法を唱えるが、何も起こらない。
それもそのはず、能力は全て新しい勇者を呼び出すために失った事を思い出し、大きく嘆息を吐き出す。
「そうだった…俺は、何もかも失ったんだ」
能力も魔法も失い、ただの高校生に戻ったのだ。
落ち込んで座り込んだ新太に突然ある思考が舞い降りる。
逆に考えれば、ようやくただの高校生に戻れたのだ。
それならば、元の世界に戻ってこれた可能性が高い。
「なら、こんな壁なんざとっとと壊してやる!!」
壁の隙間に手を入れて思いっきり引っ張る。
「ぐにににににっ!」
何とも間抜けな声を出しながらも、目一杯力を込めているが、指が滑ってその場に尻餅を着いて転んでしまう。
(くそっ! やっぱり無理か)
人の手では限界がある事を思い知らされた。
だがしかし、尻餅を着いた側に奇跡的にバールのような何かがあったのだ。
「ラッキーぃ!」
嬉しさで思わず声が高くなってしまったが、恥ずかしさを気にする事よりも先にバールのようなものをさっきまで必死に手を入れて引っ張っていた場所に突き刺し、テコの原理を使ってこじ開ける。
「ぬぉぉぉぉ!」
ミシミシと壁にヒビが走り、ようやく壁を崩す事が出来た。
明かりは、月の光が射し込んでおり、久しぶりに外の空気を息を吸い込んで身体に取り入れる。
そして、周りの風景を視界に入れ、どうして異臭がしたのか理解した。
「墓地……だと?」
この場所は、無くなった人々が埋葬される墓場だった。
すぐに先ほどまで居た場所を振り返る。
「死神の区域……なら、ここは!?」
「そう。ここは、死神の区域。死すらも関係のない場所」
新太が理解したのと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
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