第3話 俺、魔王救ってた

 声のする方へ視線を会わせると、月明かりに照らされてこの墓場には決して似合う事のない女性が墓の上に立っていた。


「我を忘れたとは言うまいな?」


 自信満々な口調で言ってくるが、新太は分からないらしく小首を傾げる。


「……誰だ?」


「待て、我だぞ! 魔を統べた王だ!」


「いや、俺はまだ魔王にすら会ってないし、戦ってもいないぞ?」


「嘘を付くな! 会っているだろう?」


 思い出そうと記憶を辿るが、全く記憶にない。


「いつ?」


「あの時だ! 人間に襲われていた時の子供……」


「あーっ! あの小さな少女!?」


 突然思い出し、思わず大声を上げてしまう。


「やっと思い出したか。そうだ、あの時救われた子供が我だ」


「なるほど。それで、その魔王が勇者じゃない俺に何の用で?」


「それはだな、我が救われた恩を返すためにわざわざ貴様を死なさずに助けてやったんだ。これで貸し借りは無しにしたいと思っているのだが?」


「それは、貸し借り無しにしよう。それじゃあ、俺はこの辺で」


 会話を終わらせて去ろうとする新太に魔王が呼び止める。


「待て! 貴様、貸し借りが無しになったのだ。これで思う存分我は貴様を殺せる」


「何でそうなる? 確かに魔王の配下である者達は、大方倒した。だが、それは勇者として俺の力があったからだろう?」


「だからといって、我が貴様を殺さない理由などない!」


 魔力を集中させているらしく、周囲の地面が軽く揺れ始めた。


「わかったわかった。つまり、お前は、仲間を返して欲しいわけだ?」


「何を言っている?」


 魔王の疑問に新太は、懐からとある物を取り出す。


「さて、種も仕掛けもございません。では、この鍵を何もない場所に扉を開けましょう」


 何もない空間に鍵を差し込む動作をし、捻ると突然扉が現れた。


「なっ!?」


「俺ってさ、結構人を信じてしまう性格なんだよね」


 そう言って新太は、開いた扉の中へ手を入れてその辺に何かを投げ捨てる。


「馬鹿な! これは、四天王の一人の失われた筈の武器!?」


「だから、俺は大切になりそうなものは何でも保管する癖を付けているんだ。もしもの時のために、ね?」


 打ち出すであろう魔力を集中するのを止める。


「貴様、その鍵はいったい?」


「俺の能力と魔力の半分を使って作り出した。その名も保管鍵ゲートだ」


保管鍵ゲート?」


「ああ。さて、魔王。今度はこっちが話す番だ」


 何やら穏やかな事を考えているようには見えない不適な笑みを浮かべた新太が再び保管鍵を使って扉を開けた。




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