第5話 あるスマホの画面 影の舞台 後編
左側に真っ暗な画面が、右側にうろたえている『モネ』の映像がうつっていた。
携帯のバイブ音がなった。『モネ』はゆっくりとどこからか取りだしたスマホを手にして画面を見た。『小坂』と書かれていた。『モネ』は電話を受けた。
「モネ、何してんだ?早くこい。撮影始まるぞ」
『モネ』は焦ったような小坂の言葉を、まったく同じ調子で繰り返した。モネよりも小さく、覇気のない声で。
「ふざけてるのか?」
『モネ』はやはりまったく同じ言葉を返した。モネとは違った声で。
「あんた誰?あんたモネじゃねえろ!」
『モネ』は小坂の声をそっくり返した。
彼女の瞳から光がうすれていく。あたかも彼女の心の中では『モネじゃない』じゃないという言葉が、うつろに反響しているようだった。
「モネをどこにやった、警察に電話するぞ」
『モネ』が同じ言葉を返しきる前に、小坂は電話を切った。
『モネ』は小刻みに震え、画面に向かって問いかける。
「私は誰?私はモネ?ええ私はモネ。でも私はマネ?いいえ私はモネ」
動画の中、ステージの遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえた。動画を見た誰かが通報したのかもしれない。『モネ』のいるステージはよくモネがイベントで使う場所だ。特定は容易だろう。
『モネ』は画面に飛びつき、そして誰かに問いかけるように早口で繰り返した。
「私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はモネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私はマネ。私はモネ。私は……」
サイレンの音が大きくなった。映像が切れ、スマホには真っ暗な画面だけが残された。
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