第3話 影の裏舞台 マネの話

あるマンションの一室。


 電気の消えた部屋の中心で、体育座りの少女が、床に置いたスマホを濁った瞳で凝視していた。スマホはスタンドで立てかけられていた。

 少女の名はマネといった。背を曲げ、膝をかかえた腕に青白い顔の下半分をうずめていた。

 画面の中の動画では、ふわふわとした白いワンピースを着た可憐な十代後半くらいの少女が、ライトに照らされたステージの上で手を振っていた。彼女はモネといった。最近人気の歌って踊れるアイドルだ。ふわりとなびく髪の間から、大きな瞳がきらりと輝いている。喝采に包まれたモネの頬は、幸せそうに上気していた。

 マネは毎日、真っ暗な部屋の中でモネの動画を見ながらモネになっている想像をしている。

 マネの顔立ちはモネに瓜二つではあった。だがそのいでたち、雰囲気、性格は、マネの方がずっと陰険だった。彼女の語る彼女の生い立ちもまた、どんよりと暗いものだった。

 画面の映像に青白いライトの光が映ると、マネの瞳にも青白い光がチラリと映った。その無機質な光はさらに、マネの背中の後ろへ長い長い影を作った。マネはいつも動画に夢中で気付かないのだが、マネの背中から伸びる影は日に日に長く、帯びる黒みを増し、動きが生き生きとなりだしていた。マネの後ろで、影は動画から発生する光にあわせ踊るようにくねった。

 

 ドアの外からかすかに話し声が聞こえる。おなじマンションの住人が噂話をしているようだった。

「……号室の……明かりが……いつも真っ暗……」

「怖いわ……何してる人なの?……」

「それが……」

「……えぇ!あの?」

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