第2話 あるスマホの画面 影の舞台 前編
今まさに、全世界に配信されているライブ動画があった。動画にアクセスしたあるスマホの画面には、右側半分に真っ暗な部屋、左側半分にまぶしいほどのライトで照らされたステージの映像がうつしだされた。
画面右側の、真っ暗な明かり一つない部屋には、十代後半くらいのかわいらしい少女が倒れていた。少女は人気アイドルのモネのようだった。
画面左側のステージにも、十代後半くらいのかわいらしい少女が立っていた。彼女の顔かたち、衣装や化粧、仕草や雰囲気はモネと瓜二つだった。ふわりとなびく髪。自信たっぷりに笑う唇。つやとした白い肌に上気した頬。ぱっちりとしたきらめく瞳。白くかわいらしいワンピースも着ていた。
画面の下には『モネ』と表示されていた。『モネ』はモネがカメラに向かってするように明るく元気に、それでいてやや小さくかすれた声で話はじめた。
「こんにちは、私の名前はマネ、アイドルのモネのファンでした。私はずっとモネになりたいと思っていました。私とは違って誰もに愛されるモネに。え?名前の表示がマネじゃなくてモネになってるって?そうなんです。実はただ見ていただけの私は、ついに今日からモネになる夢を叶えるんです。見た目は完璧。性格も催眠術で完璧にトレースしました。そう、私の名前はモネ。アイドルです。今日は雑誌の撮影をします。そしてこれから元モネへ弔いの挨拶をします。新しいモネを見せつけ古いモネには死んでもらうのです」
画面右側のモネが起き上がった。モネは後頭部をさすって言った。
「いてて。ここどこ?これから撮影なのに」
『モネ』と同じ声だった。だがその語り方は『モネ』よりも明るく、はっきりとしていた。
「いてて。ここどこ?これから撮影なのに」
画面左側の『モネ』が、まったく同じ口調で言った。
『モネ』の声に、モネははっと周囲を見回した。
「誰かいるの?あたし誰かにいきなり後ろから殴られて気づいたらここにいたの」
「誰かいるの?あたし誰かにいきなり後ろから殴られて気づいたらここにいたの」
モネはあたりを見まわした。そして床に置かれた画面に気づいたように、顔をずいっと寄せた。『モネ』もまた、あたりを見まわしてからあたかも今画面に気づいたかのように顔をずいっと寄せた。
モネが眉根を寄せ画面の『モネ』へ問いかけた。『モネ』も眉根を寄せる。
「何これ?ねえ、あなた何してるの?あたしと同じ格好?」
「何これ?ねえ、あなた何してるの?あたしと同じ格好?」
モネは首をつきだし、大きな目をぱちくりさせ画面を凝視した。『モネ』も首をつきだし、大きな目をぱちくりとさせ画面を凝視した。
「……あなた、もしかしてマネ?あたしのライブとかショーとかいつも来てくれる」
「……あなた、もしかしてマネ?あたしのライブとかショーとかいつも来てくれる」
『モネ』はおうむ返しをするばかりである。モネは青ざめて怒鳴った。
「ふざけてないで答えてよ!」
『モネ』もおなじように怒鳴った。
「ふざけてないで答えてよ!」
「頭おかしいんじゃないの?」
「頭おかしいんじゃないの?」
「もういい!一人でなんとかする」
「もういい!一人でなんとか……」
モネの映像がふつりと切れた。画面にはうろたえる『モネ』だけが取り残されていた。
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