第5話「オーク退治?」その1
翌朝、城の裏門から私達は出発することにした。城門から王達に見送られて出発となると、大げさなことになるので嫌だとフィンディが言ったためだ。私も目立つのは望むところではないので、喜んで承諾した。
そんなわけで、裏門には私とフィンディ、国王リッティと大臣エティス、近衛の護衛騎士が数名といった具合に集まっている。
「何も国王自ら見送りに来なくても良いと思うのですが」
「とんでもありません。本来ならばもっと盛大に送り出さなければいけないところです」
リッティは大げさな挙動で私の言葉を否定した。王様本人としては盛大に送り出したいらしい。フィンディも気に入られたものだ。
「前にワシが魔物退治に向かった時に大分派手に送り出されてのう。恥ずかしいからやめるよう言ったのじゃ」
目立つのが好きではないフィンディはさぞ嫌だったろう。それに、人間から見て大変な魔物退治でも彼女からすれば散歩のようなものなのだから尚更だ。
「正直、地味な出発にしてくれて助かりました。予算的に」
「色々と大変ですね……」
「バーツ様もフィンディ様もこちらの事情を察してくださって助かっています」
エティスは大分お疲れの様子だ。原因は予算のことではなく、私達の出発の段取りで休息時間を削られたからだろう。申し訳なく思うが、非常に助かる。
「フィンディ、バーツ殿。身分証だ」
王が自ら、私たちに身分証を手渡してくれた。
身分証は金属製のカードだった。軽く観察すると魔力を感じ、それなりに複雑な魔術陣が刻まれている。
何でも、これを然るべきところでかざせば、入出国の履歴などが参照できるらしい。かなりの優れもので、グランク王国発祥の魔術具だと言う。
話には聞いていたが、こういう品物を見ると、グランク王国への興味が増してくる。
「世話になるのう」
「手間をかけさせてしまって申し訳ありません」
「気にしないでくれ。働いたのはエティスだ」
「身分証の発行は難しくはありませんから、気になさらずに。それよりもバーツ様」
「なんでしょう?」
意外にも私に声をかけてきたエティス。その手に手紙を持っていた。封筒が厚く膨らんでいることから、それなりの分量のようだ
「これを。王城を出てから読んでください」
なんだかわからないが、とりあえず受け取ることにする。この大臣は無用なことをするタイプではない。
「む。なんじゃ、恋文か?」
「違います」
「じゃあ、なんじゃ。ワシじゃダメなのか?」
「バーツ様なら読んだ後に内容を教えて下さいますよ。まあ、久しぶりに人里に降りてきた魔族の方へのアドバイスのようなものです」
「エティスは親切だからね」
リッティが自慢の家臣だと付け足すと、エティスが赤面した。なるほど、王城ではこんな光景を頻繁に目に出来るのだろう、フィンディがからかいたくなるわけだ。
「むう。そういうことなら良いが……。バーツ、あとでちゃんとワシにも内容を教えるんじゃぞ」
「わかっている。お二人共、重ね重ね、感謝致します」
「いえ、厄介事を押し付けたのはこちらですから。お気をつけて」
「仕事の報告に一度戻ってきてくださいね。その時にフィンディとバーツ殿のための宴を御用意致します」
「宴は好きではないと言っておろうに。ともあれ、吉報を持ってくるように努力しよう!」
「私も頑張ります。……あ、騒がしいのは私も苦手なので遠慮を……」
私とフィンディが揃って宴を拒否すると、リッティとエティスは苦笑した。想定済みの回答だったのかもしれない。
話を終えると、私達は少数だが身分の高い人々に見送られて出発した。
さあ、旅の始まりの前の、一仕事だ。
○○○
私達の向かう先は王都オアシスから徒歩で一日ほどの距離にあるバーナスという町だ。
大森林の国カラルドにおいて3番目の規模を誇る都市であり、すぐ近くに鉱山を含む山々を背負っている。
徒歩なら一日、馬車なら半日の距離だが、私達にそんな無駄な時間をかけている暇はない。
行方不明になったオーク討伐隊とグランク王国の使者が気がかりだ。
私達は移動手段として飛行の魔術を選んだ。
飛行の魔術はその名の通り、空を飛ぶ魔術である。周囲を結界で囲み、風の魔術を展開して高速移動する。人間たちが翼を持った魔族を解析して組上げた高等魔術である。
同時に二つの魔術を使用するため、非常に消耗が大きいため、人間の魔力だと移動に適した魔術とは言い難く、緊急時の短距離移動が主な用途である。
だが、無尽蔵とも言える魔力を持つ私達なら話は別だ。ひたすら高速で空を飛んでも、私とフィンディの魔力量には影響がない。
フィンディと私は王城を出るなり魔術を展開。徒歩なら一日かかる距離を30分ほどで移動し、町が見えた辺りで近くの平原に着地した。
直接町に着地すると騒ぎになるだろうし、その前に貰った手紙を読みたいと思ったからだ。
街道からちょっと離れた所の木陰を見つけて、手紙を開く。横でフィンディがかなり気にしているが、これは私に宛てられたものだ。先に読む権利は私にある。
エティスからの手紙には、今回の仕事とこれから会う人物や、個人的な意見など、口頭で説明しきれなかったことが几帳面な筆跡で書かれていた。昨日の打ち合わせで伝えきれなかった分の情報ということのようだ。
「ほう、これは親切だ。これから会う人物や詳しい状況について詳しく書かれている」
「どれ、見せてみよ……ほうほう。リッティのサインも入っておるな。二人の共通認識ということじゃろう」
オーク退治に向かったのはバーナスの町の領主一族を中心とした騎士団らしい。王国きっての精鋭部隊なのでオークの群れ如きに後れを取るとは思えないと書かれている。
考えられるのは、何らかの陰謀に巻き込まれたか、オーク以上の魔物が出現した可能性だそうだ。大臣の推測としては前者ではないかとのことだ。
事態が陰謀なら、グランク王国の使者が無事である可能性は高いため。最悪の場合、何か事が起きる前に、使者だけでも見つけて連れて来てくれば良いらしい。
また、バーナスの町の冒険者協会で人を待たせておく手筈を整えてあるが、そちらも領主一族の人員だという。リッティとエティスが信用できる人材を選んだから安心して欲しいとのことだった。
「ふむ。陰謀の可能性が高いか。たしかに精鋭ならばオークなどに後れを取る可能性は低いな」
「わからぬぞ、強力なオークが出現したのかもしれん。オーク王とか」
オークは豚と人間を足して2で割った外見の種族である。繁殖力旺盛で、強欲。小規模な群れで行動するのが基本だが、極稀に王とも呼べる存在を頂いて大軍勢を作り上げることがある。
オークを統べることの出来るオーク王は個体としての能力も高く、下手な魔族よりも強力だ。
「オーク王は500年前の戦争で勇者に真っ先に討伐された。それ以来、オークは統率されることなく自然繁殖だ」
「……そうじゃったのう。じゃあ、オーク王となりうる強い個体がこの地域で生まれて、オークが爆発的に繁殖した可能性はどうじゃ?」
「ゼロではないが、その可能性は少ないな。それほどの個体ならば、すでに町が滅んでいるはずだ。オークに限らず、強力な魔物とはそういうものだ」
「なるほどのう。では、強力な魔物の可能性は低いようじゃの」
精鋭の騎士団が全滅する程の強力な魔物が存在するなら、付近にあるバーナスの町も無事では済まない。やはりエティスの言う通り、今回の件は人間同士の諍いが絡んでいる可能性が高いだろう。
「人間同士の陰謀か。我々の苦手なところだな。使者とやらの救出を優先するべきだろう」
「うむ。基本的に力づくが得意じゃからな、ワシら」
情けないが、私もフィンディも陰謀を解き明かして丸く収めるような技能に持ち合わせがない。
ここは最低限の成功条件である、使者の救出を優先して行動すべきだろう。
一緒にいるか、気の毒なことになっているか不明な精鋭騎士団の皆様については運良く見つければ可能な限り助ける方針で行こうと思う。
「これ以上、私達が話しても仕方ないな、これは」
「そうじゃな。とっとと町へ行くとしよう」
そう結論した私達は、街道に戻って徒歩で町に入った。
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