5話 私の気持ち
「フリューゲルさん」
「アムネシアちゃん。どうしたのかい?」
「話があります」
「気持ち、決まったんだね」
「はい」
「サクラバも呼ぶからちょっと待ってね」
「いえ。自分で呼びにいってもいいですか」
「もちろんだよ」
私は家に行き、サクラバさんを呼んだ。
「そっか。気持ち決まったんだね」
「はい」
「行くよ」
私はサクラバさんと一緒に、孤児院へ戻った。
道中、緊張して震えていた私の手をサクラバさんが握ってくれたことは忘れない。
「話、してくれるかい?」
「はい」
私は一言、一言に重みを込めて話し始めた。
「私は。私、アムネシアは記憶を取り戻したいです」
「そうか」
「はい。記憶が戻って、一度いるかは分かりませんが両親に会いに行きたいです」
「会いに行ったあとはどうするの?」
「ここに戻ってきます」
「え?」
「私は大きな町。自分が元いた所にいるよりここで大きく成長する方がいいと思いました。だから、帰ってきます」
「そっか」
「これで、これでいいのでしょうか」
今更、不安になってきた。
もし、両親の所に戻って帰ってこれなくなったどうしよう。
それに、両親のもとから本当に戻ってきていいのか。
もし、断られたらどうしよう。
「これでいいの! アムネシアが決めたことよ? 皆、賛成するわ」
「アムネシアちゃん。自分で決めたことに責任と重みを感じるんだ」
「責任と重み……」
「そうだよ。自分で言ったことを最後までやり通す責任、ね」
「分かりました。必ず、記憶を取り戻します」
「私から町長にもっと深い所まで探してもらえるように頼んでみるね!」
「ワシも、友好関係のある孤児院に聞いてみよう」
「ありがとうございます。お二人には感謝してもしきれません……」
「アムネシア」
「はい」
「これだけは約束してほしいの」
「何ですか?」
「名前」
「名前、ですか」
「本当の名前を思い出しても私やおじいさん、クルミやユズの前じゃ“アムネシア”でいてほしいの」
「っ」
「ここにいた思い出はその名前に沢山詰まってる。だから、約束してほしいの」
「必ず! 必ず約束します」
私は記憶を取り戻しても、“アムネシア”という素敵な名前を捨てない。
付けてくれたサクラバさんや、この町の皆さんとの思い出が詰まってるから。
この名前には、アムネシアとして生きた証にもなるから。
だから、必ず。
本当の名前を思い出しても、捨てないことを約束します。
「ありがとう」
凄く泣きそうな顔をしていた。
家族のいないサクラバさんからすれば私は妹のような、娘のような存在。“家族”のような存在だっただろう。
この決断は、サクラバさんからすればあまり良い物ではなかもしれない。
でも、サクラバさんならきっと尊重してくれるだろう。
私は、考えに考えたことを知っているから。
きっと、きっと。帰ってくると知っていても、見送ってくれるだろう。
サクラバさんの魅力である、その包容力と。
とても素敵な笑顔で。
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