2話 孤児院の子供達

「どうでした?」


 グレーベンさんは首を横に振った。


「残念だけど捜索届けは出ていないみたい。アムネシアが思い出した大きな建物がある都会の方も探してもらったけど……」


「そうですか……」


「大丈夫よ! もし見つからなくてもここにいていいからね」


「ありがとうございます」


 右も左も分からない状態の私をこんなに良くしてくれるグレーベンさん。


 とても優しい女性。


 私の“恩人”だ。


「そうだ! 孤児院に行かない?」


「孤児院?」


「アムネシアが最初に会ったことがあるおじいさんが経営してる孤児院。親がいなかったり捨てられたりしてる子供を育ててる施設なの」


「行ってみたいです」


「ほんと! ここから近いし今から行こう!」


「わっ」


 グレーベンさんに手を引かれ歩くと、少し大きな建物が見えてきた。


「ここが孤児院だよ。人数は……十人もいかないぐらいかな?」


「結構多いですね」


「まあね。ここから東にある山を越えると大きな町があるの」


「はい」


「そこに行く途中のここで捨てる人が多いんだってさ。薄情な人達だよね」


「はい」


 グレーベンさんは扉を開け、中に入った。


「ほら、アムネシアも」


「はい」


 私もグレーベンさんに続き、中に入った。



「お? サクラバとアムネシアちゃん」


「こんにちは。フリュ―ゲルさん」


「あれ? 私おじいさんにアムネシアの名前教えたっけ?」


「町長から聞いたんじゃ。良い名前をつけてもらったな」


「はい」


 おじいさんことルピナス・フリューゲルさん。


 この前、グレーベンさんから一方的に名前を教えてもらった。


「おじいちゃん、この人だれー?」


「サクラバ!! 遊ぼうぜ!!」


「わっ!!」


「こらー! アムネシアのこと驚かせないの!」


「アムネシア?」


「このお姉ちゃん、アムネシアって言うのー!?」


「そうよ。新しいお姉ちゃん」


「へ」


「やったあ! 遊ぼ! お姉ちゃん!」


「ほらほら!」


「えっと……」


「ごめんねアムネシア! この子達と遊んでやってくれない?」


「分かりました」


「わーい!!」


 私は子供達に付いて行った。



「姉ちゃん、どこから来たんだ?」


「分からないのです」


「分からない~?」


「クルミ分かるよ! きおくそうしつってやつじゃないの!!」


「そうです」


「やった! クルミあってたー!」


「クルミだけずりーぞ! 俺にも教えろよ!!」


「えっと。記憶喪失は今まで覚えていた物などを忘れてしまうことです」


「忘れる~?」


「クルミがユズのこと忘れちゃうってこと!」


「大変なことじゃんかよ! 姉ちゃん大丈夫か?」


「グレーべ……サクラバさんが良くしてくれているおかげでどうにか大丈夫ですよ」


「寂しくなったらいつでも俺達に会いに来いよ!


「もちろん、寂しくなくても来ていいからね!!」


「ありがとうございます」


 無邪気に遊び、話す子供達。


 この子達を見ていると、自分が何者で何をしていたかなんてどうでもよくなる。


 今のままで良いと自然に思えるような不思議な子達だった。




「アムネシアー?」


「ここですよ」


「クルミ、ユズ! アムネシアに遊んでもらった?」


「「うん!」」


「良かったね!! アムネシア楽しかった?」


「はい。楽しかったです」


「だって! 良かったね二人とも!」


「また来いよ!!」


「もちろんです」


 私は子供達に手を振った。


「アムネシア、笑顔になってるね」


「笑顔?」


「笑ってるよ! よっぽど楽しかったんだね」


「はい。とても、とても楽しかったです」


「それは良かった! 子供達も暇してるしいつでも行っていいからね」


「はい」


「アムネシアちゃん」


「フリューゲルさん」


「もし、アムネシアちゃんの身元が分からなかったらうちで引き取ろうと考えてるんだよ。どうかい?」


「……」


「今すぐじゃなくていいよ。アムネシアちゃんの身元が分かる可能性だって十分にあるからね」


「はい。分かりました……」


「ゆっくり考えよ!」


「そうですね」


「それじゃ、私達は帰るね」


「いつでも来なさい」


 私はおじいさんに一礼し、グレーベンさんと一緒に家に帰った。

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