第2話 もう暴言を吐かれるのは懲り懲りです

 そもそも何で俺とあやが何で付き合ったかって?

 

 話は文化祭に遡る。

 高校入って2回目の年のことだった。

 俺の学校は毎年学園祭で「ギャラリーの前で自己主張じこしゅちょうをする」というものがある。

 これは学園祭の目玉めだまイベントで、体育館の舞台ぶたいの上で自分の思い思いを言うのである。

「課題を減らしてほしい」

学食がくしょくを安くして」

「3億円欲しい」

 生徒が思い思いの主張を大きい声で言う。

 そしてこの自己主張のイベントで「告白タイム」というものがある。

 ギャラリーの前で好きな人に自分の思いをぶつけるのである。

 片思いしている人はもちろん自分の推しに対して大きい声で言うのがルール。

 あやもそれに参加して告白された俺は断れない状況になった。

 「断ったらどうなるかわかってるよね?」と前日に言われたが冗談だとおもった。

 それで「よろしくお願いします!」とギャラリーの前で返した。

 

 

 付き合い始めたのはいいが、女子と少しでも話をすれば人の見えないところで足を踏んづけてくる。

 デートはもっぱらあやの家だ。

 もちろん今日も。

 いわゆる「おうちデート」というものである。

 外でデートになるとがいつ剥がれるかわからないから。

 家ではずっとあやが一方的に喋る形である。

 相槌打たないと「何で聞いてないの!」とヒステリックに言われる。

「ったく、あのババアHRも授業も長いって! こっちは早く帰りたいのに! あんたの担任は話短いから早く帰れるからいいよね」

あやの担任の川上かわかみのことだろう。

確かに川上の授業は半分ぐらい(当社比)が授業に関係ない話である。よく本題から脱線する。

授業ではなくて「 川上の推し韓流はんりゅうスター・韓流ドラマ講座」である。

韓流ドラマ専門のチャンネルをいくつか契約してると自慢げに話していた。

皮肉にも川上の担当は世界史だ。

朝鮮王朝ちょうせんおうちょうからんでくると韓流時代劇に絡めて説明するので全く頭に入ってこない。

最早知ってる前提で話す。

 さすがに試験問題には教科書の内容をベースにしたものだけでているので問題ない。

あやの気持ちはわからんくもないが、いくらなんでも言い過ぎである。

 余談だが俺の担任の深澤は「じゃぁ、今日は特に言うことないんで終了ー」と事務事項だけ言うタイプ。


「今日私にこくってきた男、生理的に無理。工業高校の子でしょ? あの学校柄悪いことで有名だし、もDIY趣味の人なんか陰キャっぽいから嫌」

近隣の工業高校の生徒がメッセージアプリで告ってきたそうな。

DIY趣味の人嫌って、目の前でそれを趣味にしてる人に言うセリフかよ!!

「いくらなんでも人の趣味をバカにするのはないとおもうけど……DIY趣味にしてる俺の前で言う? たーにーも、りなねえも色んなもの作ってるじゃん!」

「はぁ? 別にあんたやたーにやりね姉のこと言ってんじゃないし。被害妄想じゃない? 馬鹿なの?」

ちょとまて、ちょとまて菅原さん。

ちょっとなに言ってるかわからないんですけど。

なーんて言ったら張り手が来そう。


俺がDIYに夢中になったのは、あやの兄のたーにーこと太一たいちの影響である。

小学校の時あやの兄が自作の本棚を作っている姿を見て自分も作れるようになりたいと思ったのがきっかけだ。

それ以来あやの兄とDIY一緒にしたり、ホームセンターで買った材料を俺に分けてくれたりと楽しくやっている。

 そしてりなねえというのはあやの姉のことである。

 りなねえは高校卒業後地元のメーカー企業で働いている。

 趣味で裁縫をしているのだが、よく職場のママさん社員から「子どもの通園バッグ作って!」「老人ホームにいる義母のズボンの裾なおして!」と頼まれるのである。

 しかも快く引き受けるそうな。

 実は俺、裁縫も楽しいと思っている。りなねえの影響だと思う。

 以前あやのズボンの裾がほつれた時になおしたら「男のくせに裁縫できるなんてキモイ!」と言われた。

 しかしそれ以来あやから「ブックカバー作って」「マスコット作って」と言われるようになった。しかも、それをあたかも自分が作ったように同級生に見せびらかす。

  

 あやは自分の人気取りのためなら、俺や自分の兄と姉を利用するのである。

 しかもただでやらせて気に入らなかったら暴言暴力。


 ――もう暴言を吐かれるのは懲り懲りです。



 

 

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