第1話 もう足踏んづけられるのは懲り懲りです

 あやとは学校の行き帰りは一緒でなければならない。

 彼女が一方的に決めてきたルールだ。

 たまには他の男子と一緒に帰りたいと思うだろ?

 そうはいかないのがあやである。

 一緒に帰ろうものなら、なんとしてでもついてくる。

 それでもって他の男子もあやが入ると嬉しそうに話しかけてくるので、自然と俺が空気になってしまう。

 あや曰く「もしかしたら女子が一緒にいるかもしれないから見張る。あんたが他の女子と話されるのが気に入らない」

 実際他の女子と話しているところを見られて後で足を踏んづけられたことがある。


 いつだったか放課後、日直にっちょくノートを女子に渡すために事務的なやり取りをしていただけなのに。

 その姿をたまたまあやに見られた。

「あれ、今日てっちゃんと日直?」

「うん、そう。渋谷しぶやくんと」

「あれ? 鞄につけてるマスコットは手作り?」

 あやが指さしたのはニコちゃんマークのマスコットである。

 自分で作ったのか誰かが作ったのだろう。

「うん、後輩からもらったの」

 と目を輝かせて話す女子。

「それはよかったね。素敵な後輩ね」

「うん」

「じゃぁ、私はこれで」

 確かに日直の仕事は面倒だ。

 日直は男女ペアで協力して行う。

 朝はいつもの登校時間より10分ほど早く来て、職員室から教室の鍵と日直ノートを取りに行くのと、学年主任の連絡事項を聞きに行く。

 授業が終わる度に黒板を綺麗にするのも日直の仕事だ。

 組む相手が苦手な人だとその日一日が憂鬱になる。

 ちなみに俺が日直の日は、日直の相手を見るためにあやもわざわ一緒に早く登校する。

 

 あやは女子と話終わった後、ちょっと来て! と手を握って体育館の道具入れの方へそのまま向かった。


「あの子、バレー部の田原たはらだっけ? あんな芋臭いもくさい女に気安く哲平てっぺいに話しかけないでっつーの。あれ見た? 彼女の鞄。へったな手作りマスコットつけちゃって」

 田原の悪口を言いながら俺のローファーの右足側を何度も力強く踏んづけた。

「いったっ! 何踏むんだよ!」

 すかさず言い返したら「あんたが芋臭い女と話するのが悪いんでしょ」

 さっきまであんなに褒めてたのに、急に相手を悪く言い出した。

 もはや八つ当たりだ。

 

 というかこのローファー一週間前に新しく変えたばっかなんだけど!

 あのー、これ汚れひどかったら弁償してくれるんですかね・・・・・・。

「さっきから踏んづけてさ、痛いんだけど!」

「男のくせにこんなぐらいの痛みも耐えれないの? この貧弱が!」

 仁王立ちで嫌味が返ってきた。



 あやは俺とふたりっきりになると一事いちじ万事ばんじこんな調子だ。

 しかも人の見えないところでこういうことをするから、他の人は彼女の外面の良さを知らない。

 だから「彼女が嫉妬で俺のローファーを踏んづけていた」なんて言ったら周りは多分信じないだろう。

 「何ノロケちゃってんの?」「あやがそんなことする訳がない」「渋谷が誤解させるようなことをするから悪い」で終わるだろう。

 なんというか、恥ずかしさが出てきてどう相談すればいいか分からない。

 

――正直言ってもうあやのことが苦手だ。


 これ以上あやのことが原因で精神がむしばんでいくような気がしてならないんだ。


 







  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る