私のうつ病日記

有間 洋

「心の風邪」じゃない

 うつ病は「心の風邪」などという表現を見るが実際にはそんなものではない。その苦しさは、体験した人にしかわからない。深い不安と、早く出口を見つけたいという焦りで、真っ暗な長いトンネルの中を手探りで進むようなそんな日々が続く。

 今は、こんな文章が書けるまでに回復したが、半年くらい前の自分を振り返ると、とにかくおっくうで、何もできないで、部屋に横たわっていた。私は一人暮らしなので、三度の食事を作ってくれる人もおらず、どうにかこうにか食事を用意して食べた。冷凍のパスタとか、レトルトカレーとか、そういうものを利用して何とかしのいでいた記憶がある。

 今は、ご飯を炊いて、おかずを並べて食べている。でも、おかずといっても、出来合いのお惣菜だったり、冷凍でチンするものだったりが多いのだが。

 とにかく気力がない。おっくう感が強くて、何もできない。状態がひどかった時は、本当に何もできなくて、主治医の先生に入院を勧められたが、どうしても入院はしたくなくて、何とか、それでも乗り切った。

 三度の食事が何とか用意できるようになって、死にたい気持ちが消えてからは、早く仕事したいという気持ちにとりつかれ、焦るようになった。だが、主治医には、仕事に就くのは、九か月後と言われ、そんなに長いのかとがっくりきた。今の自分の状態は決して万全ではなく、こんな中途半端な状態で仕事を始めたら、また、前のように、失敗して、うつ病になると、頭ではわかっていても、気持ちが先走ってしまう。

 今、私は遠方に住む実家の両親の援助となけなしの貯金で生活している。53歳にして、親のすねかじりだ。私の娘は、私に実家に戻れという。それも無理はない。一人暮らしをする経済力もないのに、この年で親の援助で暮らしている私に、彼氏と同棲して、派遣で働き、復職で、投資やいろいろな方法で、お金を稼いでいる娘から、あり得ない、甘えている、現実がわかっていない、と言われても仕方ない。今私が何を言っても、説得力がなく、言い訳にしか聞こえないだろう。両親にはとても感謝している。でも、今は、ここでバリバリ働いて経済的に自立したい気持ちもあるし、両親の元に戻る方がいいのかという気持ちもあるし、揺れている。

 そんな事情もあって、早く仕事がしたい。経済的に自立できるくらい稼ぎたい、という気持ちがどうしても沸き起こってきて、地に足がつかない状態になってしまう。

 本当は、今の現状を受け入れて、焦らず、急がず、上手に気持ちの切り替えをしながら、毎日を淡々と過ごしていくことが一番の近道だとわかっているのに、それがなかなかうまくいかない。ある程度は時間が解決することなのだろうが、それも個人差があって、半年でよくなる人もいれば、2年かかる人もいる。いや、もっとかかる人もいるだろう。

 だから、うつ病は心の風邪なんて簡単なものではない。長く暗いトンネルの中を手探りで歩いて、ようやっと出口を見つけるまでは長い時間がかかるのだ。

 今、私は、精神科のデイケアというところに週に3日通っている。そこでは、クラフト(手芸品など)を作ったり、就労のための講義を受けたり、精神疾患の人が自立するための施設だ。私のように仕事に復帰することを目的に来る人もいれば、ただ、生活リズムを整えるために来る人もいる。

 今は、ここに、週に3日通えていることだけで十分なのだが、つい「こんなことをしているより、働けたら」と思ってしまう自分がいる。それでは、せっかくのデイケアが意味がない。デイケアに週3日通えていることは、確実に、就労への第一歩になっているからだ。一見、仕事と無関係に見えて、毎週、決まった曜日に、決められた場所にいって、作業をすることは、仕事をすることに確実につながっている。

 今の私は、治りかけの段階にいるのだと思う。うつ病は、治りかけが一番つらいと聞く。私は、少し気力が戻って、働きたいという気持ちが戻ってきて、その気持ちが先走っているのだと思う。

 今は、その気持ちを抑えて「治すこと」に専念すべき時なのだと思う。まだ、私は治ってない。治る途中にいる。そのことを肝に銘じて、日々を暮らすことが大切なのだと思う。

 そう割り切るためにこの文章を書いている。

 読んでくださった方、ありがとうございました。

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