*

 *


あつい。頭がぼーっとする。

目がじわじわして、耳も変な感じ。

だるい体をなんとか起こして布団から出ると、母が忙しそうに動き回っていた。


「あんた、起きたの?なら突っ立ってないでさっさと布団片付けなさい。ほらそこ邪魔」

「あのね、体がだるくて……。今日は寝てちゃだめ?」

「熱?この忙しい時に。昨日はなんともなかったじゃない。これから仕事だってのに面倒見てらんないわよ。ほら、お金やるからあとは自分で何とかして」


そう言って手渡されたのは一枚の五百円玉。

もうこちらには見向きもしない。

仕方がないので着替えを済ませ、お金をポケットに入れると外へ出た。


昨日の夜から何も食べていなかったから、お腹がすいていた。

コンビニでおにぎりとジュース、いつもは買ってもらえないアイスを買って、近くの公園のベンチに座って食べた。

アイスが冷たくておいしかった。

お腹が満たされたら今度は眠くなってきて、そのままそこで眠る事にした。




なんだか騒がしい音がして目が覚めた。

何台もの消防車がどこかへ向かっている。

家がある方向だ。

妙な胸騒ぎがして、急いで戻った。


「え……」


二階建ての小さなアパート。

その二階の端の部屋、さっきまでいた場所からものすごい煙が出ている。

お母さんは?どこにいるの?

辺りを見回して探すと、少し離れた人垣の中にその姿を見付けた。


「お母さんっ!」


呼びかけた声にこちらを向いた。

てっきりそのまま来てくれると思っていたのに。


「なんで……」


こっちを向いてくれたのに。

ちゃんと目が合ったのに。

見慣れた背中が離れていく。

すぐに走って追いかけようとしたけれど、人が多くてなかなか前に進めない。

やっと人の波から出たと思った時にはもう、母の姿はどこにもいなくなっていた。


 *

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