6
――翌朝。
目蓋越しでも感じるほどの強烈な眩しさから逃れるように身を捩る事数回。
「いだっ」
布団をはみ出し固い床に頭をぶつけた事で、晴は目を覚ました。
眩しさの原因は言わずもがな、昨夜開けっ放しにしたまま寝てしまったロフト頭上の天窓だ。
贅沢なプラネタリウム感覚でいたが、わざわざスライド式の扉が付いていたのはなるほどこういう理由からだったらしい。
のろのろとロフトを降りて、着替えのためにクローゼットを探す。
一見してそれらしいものはなかったが、出入り口とは別に片開きのドアがある。気になって開けてみると、八畳ほどもあるウォークインクローゼットになっていた。
季節ごと、種類ごとに分けて、Tシャツやワンピースなどが壁の両側にずらりと並べられている。
「この部屋のものは自由に使っていいって言ってたよね」
どれも自分好みで、何を着ようか迷ってしまう。
ドア裏に付いている鏡の前で一通り合わせてみた後、最終的にシンプルな白いシャツと裾の刺繍が可愛らしい緑のスカートに決めた。
膝下丈で肌触りも良く、柔らかい素材なので動くと裾がふわりと揺れた。サイズもちょうど良さそうだ。
この頃にはすっかり目も覚めていて、すっきりした気持ちで廊下に出ると、どこかから微かに音が聴こえた。
しなやかに、かと思えば軽快に、何かの旋律を紡いでいるようだ。
導かれるように音を辿って階段を上った先、屋上へ続くドアがあった。
重なり合ういくつもの音色はこの先から聴こえている。
ドアノブを捻ってゆっくりと押し開けた途端、音の波が風になって体を吹き抜けた。
真っ直ぐなトランペットの音が主旋律を高らかに鳴らし、ギターが心地好い和音を紡ぐ。
ドラムが新たなリズムを刻めば、それにアルトサックスが遊ぶように寄り添い、篠笛の軽やかな音色が余白へ絶妙に絡む。
一見してばらばらになってしまいそうな音たちを、コントラバスの重厚な響きが包むように支えている。
朝の光の
晴は暫し惹き付けられるまま立ち尽くして、夢中になって聴いていた。
やがて音が止み、暫しの静寂の後、紫音が振り向き声を掛ける。
「おはようございます晴さん。昨日はよく眠れましたか?」
先程、力強いトランペットの演奏をしていたのとはまるで別人の物腰の柔らかさだ。
「あ、晴ちゃんだ!おはよー!早いね」
黄汰がドラムスティックを握ったまま手を振る。
肩からギターを掛けて隣に立っていた朱羽も、控え目に手を上げた。
ここまでは昨夜会って見覚えのある三人だ。
そして他に三人、初めて見る顔があった。
「……誰?」
滑らかにアルトサックスを吹いていた、柔らかな水色の髪をした青年が首を傾ける。
だぼっとした服装、垂れ気味の目と左目の下のほくろが相俟って、全体的にどこかおっとりとした雰囲気が感じられる。
「お客さん、ですか?」
はっきりとした青色のストレートの髪、睫毛が長く大きな瞳が印象的な小柄な青年は、先程の彼とは対照的にきっちりとした服装に身を包んでいた。コントラバスを支えながら、眼鏡のレンズ越しに真っ直ぐ視線を向けてくる。
「おはようございます」
淡いオレンジの髪の男性は、すらりと伸びた手足に細身のシルエット。長い指先で包むように篠笛を握っている。にこやかに微笑みを浮かべている顔は、はっとするような美しさがあるが、全体的には柔らかな印象を受ける。
「彼女は春川晴さんです。昨夜、買い出し帰りの黄汰と朱羽が巻き込んで連れてきてしまったようなのですが、時間も遅く、原因も不明だった為にすぐ帰すわけにも行かず、急ながら泊まっていただきました。晴さん、こちらサックスを持っているのが
晴が何か言うよりも早く、紫音がそれぞれに説明をしてくれた。
この六人でここに住んでいるらしい。
ただ、六人でも充分すぎるくらいに広い事には変わりがない。
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