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「初めまして、春川晴です。今の演奏すごかったです!もしかして皆さん、プロのミュージシャンの方たちなんですか?」

「いえ、私たちはそんな大層なものではありません。ですが、技術があるように聞こえたのでしたら、恐らく年の功かと思います」

「年の功……。確かに、早い人だと三才くらいから楽器を習ったりしますもんね。皆さんも小さい頃から楽器に触れられてきたんですか?」

「そうですね、キャリアだけで言うのであれば、ここにいる全員、現在活躍されているプロの方々よりは長いかと」


現在活躍中のプロのミュージシャンたちがどのくらいいるのかはわからないけれど、ここの面々が仮に三才から楽器を始めていたとして、年下に見える水夙と蒼は長くとも十五年と言ったところか。年長に見える紫音と橙也だって、二十年そこそこに思える。

彼らよりもっと年上のミュージシャンも数多くいる気はするけれど、いずれにしても長く楽器と触れてきただろう事は確かなので、先ほどの言葉は紫音のちょっとした冗談だと思う事にした。


「今朝の演奏は、何かのイベントに向けた練習だったりするんですか?もし皆さんが出演されるなら観に行きたいです」

「ご期待に添えなくて申し訳ないのですが、これはイベントや演奏会のための練習ではありません。強いて言うのなら定められた役割、とでも言いましょうか」

「定められた役割?」

「はい。こちらは後ほどお話する予定だったのですが……」


紫音の言葉を遮ったのは、見事なまでに響いた水夙のお腹の音だった。


「お腹空いた」

「あ、オレも!昨日はちゃんとした夕飯食べ損なったからなー。今朝は今朝で紫音に文字通り叩き起こされたから全然寝足りないし。容赦なく背中を叩いてくるもんだからまだ背中がヒリヒリしてるよ」

「それは黄汰がなかなか起きないからでしょう。少しは橙也や蒼を見習ってください」

「あの二人は元々寝起きがいいから!それにオレ、昨日は寝るの遅かったし!」

「それを言うなら私と朱羽もですよ。言い訳するならもっとましな理由を考えてくださいね」

「ぐぅっ……。あーっと!そうだオレお腹空いてるんだった。早くご飯食べたいから準備してくるね!」

「あ、こら待ちなさい。……晴さんすみません、朝から騒がしくて」

「いえいえ!賑やかで楽しいです」

「賑やかどころか毎日騒々しいくらいですよ。ですがまずは朝食にしましょうか」



 * *



対面式のキッチンを備えた広々としたリビングは、外観と同じく白を基調とした内装になっており、大きな窓から差し込む光でより一層明るく感じられる。

そのリビングは現在、朝食の準備真っ只中にあった。


「はいスクランブルエッグ一丁!」

「うん」

「魚が焼けたよ」

「運ぶね」

「次、卵とじね!」

「わかった」

「ご飯盛っておいてくれる?」

「了解」


黄汰と橙也がキッチンに立ち、出来上がった料理を水夙と蒼が次々と運んでいく。

朱羽は少し離れたところでお茶の準備をしているようだった。

何か手伝おうとした晴だったが、見事な連携プレーが出来上がっていて、なかなか入り込める隙がない。


「私たちは座っていましょうか」

「……そうさせていただきます」


紫音に促されて空いている椅子の一つに座る。

目の前の大きなテーブルはあっという間に彩り豊かなお皿で埋め尽くされ、他の五人も座るとすぐに食事が始まった。


「いただきまーす!橙也のだし巻き卵、相変わらず柔らかくてうまいっ」

「ありがとう。焼き方に拘ってるんだ」

「今日のお茶は玄米茶?」

「あぁ、昨日目に入ったんで久しぶりに買ってみた。前に蒼が好きって言ってたとこのだ」

「朱羽、よく覚えてたね。なくなったらまたお願いするよ」


こんなに賑やかな朝食は久しぶりだった。

実家では食事の時間は極力揃って食べるようにしていたけれど、平日は特に時間が合わせづらく、一人で食べる事も多くあった。

だから今のこの時間がどこか新鮮にも感じる。


「今日は卵の料理多いね。お味噌汁にも卵入ってる」

「水夙、それは……っ」

「ふふ、それは昨日誰かさんが買い物帰りの途中に物を散撒きまして。ほとんどの卵の殻にヒビが入ってしまっていたので救済措置ですよ」

「だからそれはごめんて!でもほら、紫音に頼まれてたお皿は割れてなかったでしょ?」

「それはそれ、これはこれです」

「……ねぇ、なんか今日は一段とオレに厳しくない?」

「どうせ卵を使うなら、ボクはプリンも食べたかったな」

「水夙がそういうと思って、実は昨夜のうちに作っておきました!」

「ありがと、食べる」

「え、もうご飯食べ終わったの?相変わらず早いな。おかわりするのはいいけど、皆の分はちゃんと残しておいてね」

「わかった」

「あ、晴ちゃんもあとで食べて!オレ特製の

プリン・ア・ラ・モード作ったげるから!」


なるほど昨夜作っていたのはこれだったらしい。

ムードメーカーらしい黄汰がタイミングよく話を振ってくれる事もあって、晴も自然と輪に馴染む事が出来た。






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