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「ごちそうさまでした。どれも美味しかったです」

「晴ちゃんの口にも合ったんならよかった!」


すっかり空になったお皿を運びながら黄汰に告げると、流しに立った黄汰が受け取り、手際よく洗いながら答える。


「美味しいのと楽しいのとで、いつもより少し食べすぎちゃいました。特にサラダの野菜が瑞々しくて」

「そう言ってくれるとみんなで頑張って育てた甲斐があるよ」

「え、皆さんで作ってるんですか?」

「そう!お米とかナマモノは無理だけど、他はほとんどオレたちが育ててるよ。興味あるならこの後一緒に畑に行かない?ちょうどオレと水夙がお世話当番なんだ」

「ぜひ行ってみたいです」

「じゃあ決まり!ちょっと待ってて、すぐに洗い物終わらせるから。あ、服が汚れちゃうかもしれないから、作業着にでも着替えておいで。終わったらここ集合ね」

「わかりました」


一旦部屋へ引き返しウォークインクローゼットを開けると、手前の方に作業着が二着掛かっているのを見付けた。

着なれない服に少々もたつきながらも袖を通し、再びリビングに戻ると、既に準備の整った黄汰と水夙が待っていた。


「おぉ!印象変わる。そういう服もいいね。それではオレたちの畑まで一名様ご案内!」


二人に続いて長い廊下を歩くと、昨日入ってきたものとは別の扉の前に着いた。

広々とした玄関とは反対に小ぢんまりとしている。きっと裏口だろう。


「畑とか温室に行く時はこっちの方が近いんだ」

「温室もあるんですか」

「うん。植物っていろんな形があって面白いから集めてる。それに、温室の方が育てやすい野菜もあるし」

「水夙は食べるの好きだからね。毎度不思議に思うんだけど、あの大量の食べ物その体のどこに収まってんの」

「お腹」

「うー……ん、それはそうなんだろうけど。あ、ちなみに温室はきっと晴ちゃんが想像してるよりずーーーっと広いよ。そっちも案内したいところだけど、今は畑に行きます」


服同様、靴も貸してもらい外へ出ると、風に乗って土のにおいがした。

殺風景だった表の玄関側とは対照的に、こちらは様々な木が生い茂り、ちょっとした林のようになっている。

重なり合う木々の葉の間から漏れる陽の光と梢の音が心地好い。


「あ、あそこのサクランボ、いい感じに実がなってきてる。赤くなってたら今日のおやつに摘んでってたんだけどなー」


道端にあったサクランボの木を見付けた黄汰が、駆け寄りつつ手を伸ばす。


「赤くなっていたとしても、勝手に採るのはまずいですよ」

「だいじょぶだいじょぶ!これ水夙が植えたやつだから」

「え」

「というかここに植わってる木は全部オレたちが植えたんだ。最初は向こう側と同じ、だだっ広いだけの空間だったからね。何もないとこからここまでするの、結構頑張ったんだよ」


その言葉に驚いて、改めて周りを見てみる。

どこも程好く手入れされていて、黄汰の言った何もなかったという状態が想像出来ない。


「……皆さん、そういうお仕事をされてるんですか?」

「ぜーんぜん!趣味の一環みたいなもんだよ。時間は有り余ってるからね。見よう見まねと試行錯誤ってやつ。そしてそして!今見えてきたのが目的地です」


黄汰が指差した先、開けた場所に広々とした畑が見えた。

野菜に特別詳しいわけではなかったが、ぱっと見ただけでも様々な種類が植えられているのがわかった。

ちょっとした家庭菜園を想像していたのに、その規模を遥かに越えている。


「皆さんって、そういうお仕事をされてるんですか……?」

「いやいや全く。それともオレたち農業従事者に見える?」

「見えません」

「あはは、はっきり言うねぇ。実際違うんだけどさ。まぁ専業じゃないけど、たまにゲリラ販売はしてるよ。結構好評なんだ。ね、水夙。ってあれ、水夙?」


一緒に歩いていたはずの水夙はいつの間にか畑の方まで移動していて、手に持った籠を苺で山盛りにしていた。


「おーい!先行くなら一声掛けてよ。しかももうつまみ食いしてるし。でも今年も豊作だね。よかったよかった」

「甘くて美味しい。晴たちも食べる?」


水夙は口をもぐもぐ動かしながら、晴の方へ籠を差し出した。苺はどれも艶々と輝いていて、甘い香りを漂わせている。


「……じゃあ一つ頂きます」


大粒の苺を一つ摘まんで囓ると、途端に口いっぱいに甘さと香りが広がった。


「美味しい!すごく甘いです」

「でしょ。もっと食べる?」

「ストーップ!気持ちはわかるけど食べるのは後。先にやる事やってからね」


まだ食べようとしていた水夙を黄汰が制止して、晴も手伝って雑草を取ったり、今晩と明日の朝に食べる分の収穫をしたり、時々水夙とともに味見という名のつまみ食いをしたりして、楽しみつつも一通りの作業が終わった。


「こんなに広いと全部見て回るだけでもなかなか大変ですね」

「オレも最初はそう思ってたよ。今はもう慣れちゃって全然平気だけどね」

「規模は全然違いますけど、なんだか小学校の時にミニトマトを育てたのを思い出しました」

「へぇ、お家で育ててたの?」

「いえ、授業の一貫です。夏休みの観察の宿題にもなっていたので、ただでさえ荷物が多いのに、プランターを抱えながら歩いて帰ったんですよ」

「うわー大変そう。そんな事するんだ」

「重くて大変でした。でも毎日見ているうちになんだか愛着が湧いてきて、それがきっかけで苦手だったトマトが食べられるようになったんですよ」

「うんうん、自分で育てたものってちょっと特別な感じするよね!あ、そうだ。実は晴ちゃんにもう一つ見せたいものがあるんだ」


そこで一度言葉を区切った黄汰は、急に芝居がかった口調になって両手を大きく広げた。





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