5

「お風呂、ありがとうございました。もう最高でした!」


体の芯からすっかり温まり、とても満たされた気持ちでリビングの扉を開けると、甘い香りが漂っていた。ソファには朱羽と紫音が座っており、黄汰はキッチンで何かをかき混ぜている。


「ご満足頂けたようで何よりです。体が冷えないうちに、お部屋でゆっくりお休みください」

「晴ちゃんはいこれ、ホットミルク蜂蜜入り。ちょうどさっき出来たとこだから飲んでいって」

「ありがとうございます」


白く湯気が揺らめくマグカップを受け取り一口飲む。好みの甘さで、心の内から解れてゆく感じがした。

まだ何かの作業を続けていたらしい黄汰は、冷蔵庫の扉を閉めながら「これで完了!」と体を伸ばす。


「何を作っていたんですか?」

「ふふー、それはまだ秘密。あ、一応聞いておくけど、晴ちゃん甘いもの好き?」

「はい、好きですよ」

「じゃあ明日楽しみにしてて!」


ホットミルクを飲み終わりカップを置くと、頃合いを見計らっていたらしい朱羽が立ち上がった。


「部屋は三階だ。案内する」


広い廊下は照明が点いていなくとも、大きな窓からの星明かりで充分すぎるほどに明るい。

玄関でもリビングでも感じたけれど、窓の多い家だな、と思う。

そのため空の様子がどこにいてもよく見える。

誰か雲や星空の観察が趣味の住人でもいるのかもしれない。

そんな事を考えながら歩いていたからか、危うく少し前を歩く背中にぶつかりそうになった。


「ここを使ってくれ。うちは広さも部屋数もあるんだが、ほとんどがそれぞれの趣味の部屋で、来客を想定していないから客間ってもんがないんだ。だからすぐに人を通せる場所がここしかなかった。元は個人の部屋で、長らく使われていないが掃除は定期的にしている。落ち着かないかもしれないが、中のものは自由に使ってもらって構わない。俺は隣の部屋だから、何かあったらいつでも呼んでくれ」

「わかりました。いろいろとありがとうございます。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


隣の部屋へ入る朱羽を見送ってから、晴も目の前の扉を開ける。

落ち着いた色合いで統一された内装、開放感のある高い天井、素朴で可愛い小物やインテリア、少しクラシカルな照明、どれも自分好みなものばかりで、初めて入る場所、まして見ず知らずの誰かの部屋だというのに不思議とリラックス出来た。


中でも目を引かれたのは壁の上部に大きく取り付けられた窓と、子どもの頃から憧れのあったロフトだ。

誘われるように登ってみると、意外に奥行きがあり、見るからに寝心地の良さそうな布団も敷かれていた。

そのままごろんと寝転ぶと、お日様の匂いに包まれる。ちょうど枕の真上に当たる位置には、スライド式の扉のようなものがあるのが見えた。

好奇心を覚え、手を伸ばして開けた途端、窓の外に広がる景色に目が釘付けになった。


「すごい、こっちも天然のプラネタリウムだ……」


濃紺の夜空に無数に煌めく星明かり。

昔、祖父母の家で見た流星群を思い出しながら、しばらく星空を眺めていた。

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