3


朱羽しゅう、無事!?」


突風と共に現れたのは黄色がかった髪の活発そうな青年で、赤髪の青年の姿を認めるなり詰め寄る勢いで声を掛けた。


「あぁ、よかった無事だね。さすが当初着地に失敗しまくってただけの事はある。受け身の取り方は完璧ってやつ?」

「余計なお世話だ。それより聞いてほしい事がある」

「でもなんで急に方向転換したんだろ。今までこんな事一度もなかったのに!オレどっかで変な事したかな。あ、それとも朱羽が何かした?」

黄汰こうた

「せっかく纏めてた荷物もバラバラに吹っ飛んじゃうし、着地地点も結構ずれたよなこれ」

「おい、黄汰」

「まずは全部集めるとするだろ。いや、それは帰りながらついでに回収すればいっか。んで次は中身の確認。あれ、確か割れ物あったような……。うわ、しかも紫音しおんに頼まれてたやつだ!割れてたらどうしよ!絶対に怒られる!」

「おい、聞けってば」

「もー、さっきから何?」


そう言って振り返った黄色い髪の青年の視線が真っ直ぐに晴と合わさる。


「……え。えっ、ちょ、なんっ」

「まずは落ち着け」

「いやいや落ち着いてられないでしょこれ!逆になんで朱羽はそんなに落ち着いてられるの!なんで!人がいる!どうして!」

「わからない」

「だって普通はここまで来られないはずじゃん!まさか巻き込んだ?いやでもそんな事は」

「だから……」

「どうしよやばいよ!もうなんで今日はこんなイレギュラーな事ばっかり起きるの。厄日?厄日なの?」

「まずは落ち着け!」

「うぎゃっ」


朱羽と呼ばれた青年の手刀を容赦なく食らったその人は、頭を押さえながらも改めて晴の方へ向き直る。涙目になっているあたり、あの手刀は相当痛そうだ。


「えぇーっと、何から話せばいいか……。混乱してるよね、わかる。オレらも混乱してる。取りあえずオレの事は黄汰って呼んで。あっちは朱羽。でも本当どうしてこんなんなってんだろね?」

「俺に振るな。何にせよ、こんなところに置いていくわけにもいかないだろ。俺たちが巻き込んだかもしれないなら尚更だ」

「それもそうだね。じゃあ一先ずうちに連れていこうか。みんなにもいろいろ説明しなきゃならないし、こういう説明は紫音の方が適任だし、もしかしたら何かわかるかもしれないし!そうと決まれば」


目の前で交わされる会話に一人話についていけていない晴に突然くるりと向き直ると、黄汰は聞いた。


「ねぇ、ジェットコースターとか好き?」



 * *



「きゃぁああああぁああああ!」


黄汰が最初に現れた時、あまりの移動の速さに目の錯覚か、そうでなければまさか瞬間移動でもしたのかと不思議に思っていたけれど、こういう事だったのかと身を以て感じた。だからと言って納得出来るかどうかはまた別の話だが。


あの質問の後、よくわからないままに頷いた晴の隣に立った黄汰に「振り落とされないようにしっかり握っててね」の言葉と共に手を差し出され、「何が」と聞く前に反対側へ立った朱羽にも無言で腕をそっと掴まれた。ますます混乱する晴を置いてけぼりにして、黄汰が何やら楽しげに旋律を口ずさむと、足元から体を包み込むような風が吹き上げ、頭の先まで薄い膜になった風に覆われた。


「じゃあ行っくよー!」


その言葉を合図に地面から爪先が離れ、一瞬の浮遊感の後、ものすごい追い風に背中を押される。


「えっ、えっ、きゃあぁーーーーーっ!!」


既視感デジャビュだ。この感覚にはすごく覚えがある。というより、ついさっきよく似た体験をしたばかりだ。その時は上から下だったけれども。


「どう、楽しい?」


隣から黄汰に問い掛けられても、晴にはとても答える余裕なんてない。その後も「目を開けてごらん」とか「もっとリラックスして大丈夫だよ」と緊張を解すように話し掛けてくれたものの、落ち着けるわけもなく、目的地に着いた時にはぐったりと疲れ果てていた。


「はい、到着。楽しくなって途中飛ばしすぎちゃったかも。大丈夫?」

「な、なんとか……。というか今のは一体何だったんですか」

「あー、あれは種も仕掛けもないマジック、みたいな?」

「それはもうほとんど魔法なのでは」

「まぁ細かい事は気にせず、取りあえずゆっくり休んで。オレたちの家にいらっしゃーい!」


顔を上げて見ると、とても大きな建物が目の前に建っていた。家と言うよりは絵本に出てきそうな西洋のお城と表現した方が近い気もする。そう言っても全く差し支えないくらいに大きくて立派な家だった。白を基調とした外観は、夜の暗闇に溶け込みながらもその輪郭を浮かび上がらせている。


促されるまま足を踏み入れた玄関ホールは天井が高く吹き抜けのようになっていて広々としていた。壁の一部には大きな窓が嵌められていて、星空がよく見える。物珍しさに観察していると、奥から淡い紫の髪を腰近くまで伸ばした柔らかい雰囲気の男の人が歩いてくるのが見えた。

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