第42輪 硝 子 ノ 村
「あたしはこの村で生まれてこの村で育ったんだ。村も、村のみんなも大好きなんだ!」
アキナさんは村の様子を眺めながら嬉しそうに話す。
「わかる! 私も故郷の村もそこにいるみんなも大好きだよ!」
ミーニャはにへへ、と歯をみせて笑う。
「そうかい。あんたも村の出身か。このガラム村はな、みんながお互いを大切にして、助け合って、そうして日々を過ごしてるんだ…………きれいなのはガラスだけじゃない。みんなの心もきれいなんだ!」
「たしかに、子どもたちも明るくていい子たちだったわ」
…………私の子どもの頃とはまったく違う。良くも悪くも。私がこの村に生まれていたら、と少しだけ想像してみる。過去には、戻りようがないけれど。
「あたしの夫もガラス職人なんだ。 少し見ていくかい?」
アキナさんはにっと笑う。
「いいの? やったー!」
ミーニャはいそいそとアキナさんについていく。
「はは! あんたうちの村の子どもたちにそっくりだね! まっすぐで元気だ!」
「えへへ、それほどでもー!」
……そこは照れるとこなのかしら? たぶん子ども扱いされてるんだと思うけど…………。
「今帰ったよ! 客を連れてきた!」
アキナさんは工房らしき建物に入ると、中にいた男の人に声をかける。優しそうな顔立ちをした男性。この人がアキナさんの旦那さんなんだろう。
「お帰りアキナ。お客さん? 珍しいね。僕はユウゴ。アキナの夫だ。よろしくね」
「俺はキリヤ。そしてリミアにミーニャにティーナだ。よろしくな」
「それにしても…………」
と、ユウゴさんは何かをまじまじと見つめる。
「君のその腰に付けている武器、すばらしいね! 武器自体もそうだし、手入れもしっかりされている。冒険者は物をあまり大切にしないと聞いたことがあるけど、どうやら僕の勘違いだったみたいだ」
まさかのチャクラムだった。そして私はちょっとだけ目を逸らす。
「……! そうか、ここにもチャクラムのすばらしさを理解できる人間がいたか! やはりまだまだこの世界も捨てたものじゃないな! どうだ、これからチャクラムの過去現在未来について語り合おうじゃないか!」
……また始まってしまった。これはドン引き…………。
「はは、そうだね。それじゃあ僕の作品も見ていってもらおうかな。なんなら君も試しに作ってみるかい?」
しなかった! 大人の対応ってやつなのかしら。まあ、自分の作品を愛する職人の対応ともとれるけど。
「ふっ、いいだろう。俺の器用さを思い知るがいい」
「あ! 私も! 私もやってみたい!」
キリヤとミーニャはユウゴさんと一緒に奥へ歩いていく。
「あんまり邪魔するんじゃないわよー!」
あ、今の私すごいお姉さんっぽかった!? ここにきて私のお姉さん力も上がってるってことね! これは魔王討伐も近いわ!
「平和、ね…………」
私がひとりでにテンションを上げていると、ティーナがぼそっと呟く。
「あ、ち、違うの。平和なのはとても良いことだし! この村に何もなかったならそれで…………」
「ティーナ…………まあ、たまには正しくない情報だってあるわよ。それに、この村の人がこうして何も問題なく生活してるなら、勇者のパーティとしては御の字だわ!」
「ええ、そうね…………」
ティーナは優しく微笑む。情報が間違っていたならそれはそれで喜ぶべきことだ。それに、ティーナがここにいる時点で私はオーナーには十分感謝している。…………まあ、性格はアレだけど。
「ねえ、あんたたち。宿がないなら今日はうちに泊まっていったらどうだい? 部屋も空いてるしね!」
アキナさんはからっとした笑顔で私たちに提案する。
「え、でも………いいんですか? 私たちはのじゅ……う…………」
野宿でも、と言いかけたけど、二日連続は避けたい気持ちが出てしまった。
「決まりだね!」
「あ、じゃあ宿代払います! あまり多くは払えませんけど…………」
「そんなのいいよ! あたしが好きで泊めるんだから!」
「でも、少しだけでも……!」
次断られたらお言葉に甘える。そしてタダで野宿とおさらばよ! 印象を良くしつつ宿を確保。みんな、私の
「そうか、それじゃあ宿代と言っちゃなんだけど…………」
あれ? 想定と違った? い、一体何を払えばいいのかしら…………。
「あたしたち……というか村のみんなを護衛してもらえるかい? もしかしたら、これからこの村に危機が訪れるかもしれないからね」
アキナさんはティーナの方を見てにっと笑う。
ティーナはぱあっとした顔になって元気いっぱいで返答する。
「はい! まかせてください!」
これが本物の大人かあ…………。私は少し自分が恥ずかしくなった。
***
「めっちゃ楽しかった!」
「あいつはチャクラムの良さをしっかりと理解していた! すばらしい村だな、ここは!」
私たちは夕飯までごちそうになって、談笑していた。
「ほんとにいたれりつくせりだったわね。ちゃんとお返ししないと! ってことでキリヤ、今夜は村の見張り、よろしくね!」
私は天使のような微笑みをキリヤに投げかける。
「お前…………。まあ、別にいいが」
キリヤはため息をつきながら立ち上がる。
まあ、仕方ないよね。私戦闘要員じゃないし。
「あ、じゃああたしも一緒に! もともとアキナさんはあたしに気を遣って言ってくれたから…………」
ティーナがガタっと立ち上がる。
「二人ともがんばってね! …………それじゃあ、リミアは私と一緒に寝ようね!」
「え? み、ミーニャちゃん。部屋は一つじゃないわよ。別々に寝ましょう?」
ミーニャは笑顔で私の腕を掴む。
「つっかまーえた! さあ、お部屋へレッツゴーだよ!」
「いやあああああああああ!!」
こうして夜は更けていく。この時私は、明日の朝にミーニャの蹴りで起こされると思っていた。でも、そうはならなかった。
異世界転生してきた勇者が異常なまでのチャクラム好きで気持ち悪いんだけど!? 柴王 @shibaossu753
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