第41輪 陽 光 村 落

「こっちこっち!」


 私たちは子どもたちについて行き、村に足を踏み入れる。


「なんていうか、明るい感じの村だね! 私の故郷よりも、こう、キラキラしてるっていうか…………」


 ミーニャは村の感想を口にする。


「そりゃそうだよ。俺たちの村はガラスづくりで栄えてる村なんだ! 今日みたいに晴れてる日はガラスが日の光でキラキラ光ってきれいだろ!」


 一番年長と見られる少年がドヤ顔をする。


 辺りには少年の言う通り様々なガラスでできた食器などが並んでいる。人々の活気も相まって明るい雰囲気がつくり上げられている。


「たしかにきれいではあるな。…………チャクラムには負けるが」


 い、言うと思った……! でも、子どもの前だからか聞こえないように今回はぼそっと呟いた。キリヤって意外と子どもには甘いのかしら…………?


 そうこうしていると、子どもたちはぴたりと歩みを止める。そこには古びた、それでもとてもしっかりした造りの民家が建っていた。


「ここが長老の家! 長老! 長老と話したいって冒険者が来てるぞ!」


 少年が呼ぶと、ギシ、ギシ……と音をたてながら家の奥から誰かが出てくる。


「ほう。冒険者、とな…………」


 小さい体に白い髭をたくわえた老人は、じー、っとこちらを見つめる。


「いいじゃろう。入りなさい。お前たちはご苦労じゃったな。遊びにおいき」


 長老は、優しくもおごそかな声で私たちと子どもたちにそれぞれ話しかける。


「うん! じゃあなお兄ちゃん、お姉ちゃん!」


「ばいばーい!」


 子どもたちはすぐに元来た道を戻っていく。


「素直でいい子たちだねえ」


 ミーニャは笑顔でうんうんと頷く。


「村の自慢の子どもたちじゃからな。さあ、主らも中に入りなさい。話したいことがあるんじゃろう?」


「ああ。邪魔させてもらうぞ」


***


 長老の家は見た目こそ古びているものの、内装はとてもきれいだった。きらびやか、という意味じゃなくて、シンプルなきれいさ。貴族の家にはないきれいさだ。


「冒険者が来るとは。何年ぶりかのう。珍しいものじゃ」


「…………『マグニア』からもそう遠くないのに、人はあまり来ないのね」


 きれいな村なのにもったいないと、少し思った。


「もちろん、ガラスを用いた実用品や工芸品の商いで成り立っている村じゃから、商人とは付き合っているがの。それ以外はなかなかここまで来ようとするもの好きはいないの。だからこそ、主らがなぜこの村に来たのかが気になるのじゃ」


 長老は声色にこそ出さないけれど、きっと私たちのことをいぶかしんでる。急に得体のしれない冒険者が現れたんだから当然といえば当然だけど。


「そうだな。単刀直入に聞こう。この村に魔王軍の幹部、あるいは、それらしきものを見た覚えは無いか?」


「パパ……じゃなくて、マグニアのギルドでそういう情報を聞いたんだけど……!」


 長老は「はて」というふうに首を傾げる。


「この辺りは魔王軍、どころか魔物すらめったに出ないからのう。心当たりはまったくないが…………その情報は確かなものなのか?」


「! もちろん……たぶん本当の情報よ! だって! …………いや、ごめんなさい。でも、疑うわけじゃないけど、やっぱりあなたの言葉だけじゃ納得できないわ。村を見て回ってもいいかしら?」


「ティーナ…………」


 やっぱりティーナはなんだかんだいって、ギルド…………オーナーが好きなんだと思う。ティーナの声には熱がこもっていた。


「そうか。まあ、怪しい者たちではなさそうだしの。アキナ! この者たちを案内してやれ」


 長老が声をかけた方…………家の入り口に目を向けると、私よりもいくつか年上の黒髪の女の人が立っていた。


「りょーかい! あんたたち、ついてきな! あたしが村を案内してやる!」


 私たちは、長老にお礼を言ってアキナさんに村を案内してもらうことにした。

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