第40輪 村 落 到 着

 私たちは爽やかな朝日を浴びながら、ガラム村に歩を進めていた。


「思ったより遠かったわね。『ガラム村』とかいう村。まさか街を出て一日で野宿することになるとは思ってなかったわよ」


 ティーナは眠そうにあくびをしながら腕を伸ばす。


「いやまあ、昨日あいつらと勝負なんてしていなければ夜頃には着いてたんだけどな。というかティーナ、お前こっちには来たこと無いのか? 故郷の街からそう遠くないが…………」


「ん? あたしは生まれてずっと街から遠出したことは無かったから…………初めての冒険って感じね!」


「…………その割には野宿は割と平気そうだったな」


「それはほら、家出した時とか…………ね」


「ああ…………」


 何とも言えない空気が流れる。


「ていうか、リミアちょっと元気なくない? いい天気なんだから元気出していこうよ! ね!」


 ミーニャは私の背中をばんばん叩く。


「うう、初めての野宿。思ってた通りあまり寝心地のいいものではなかったわ…………。ていうか違う! 私は野宿のせいで今元気がないんじゃなくて、ミーニャの寝相のせいで元気がないのよ!」


 私が寝付けなかった原因は主にそれだ。


「んー。でも、リミアが私と隣で寝たくないって言ったからしかたなくティーナをはさんで寝たのに、不思議だねえ」


 首を傾げるミーニャ。


「不思議もなにも、ミーニャがティーナを乗り越えて私を襲ってきたんじゃない! 覚えてないの!?」


「あはは、ぜんぜん覚えてないや。リミアへの『好き』が寝てる間に出ちゃったのかなあ?」


 ミーニャは顔を赤くして頭をかく。そんなかわいいものじゃなかったんだけど。


「全然嬉しくない! とにかく、もうミーニャとは一緒に寝ないからね!」


「がーん! やだやだ! 今度は頑張るから!」


「寝相に頑張るとかないでしょ!」


「…………え、待って? 黙って聞いてたけど、それってつまり、ミーニャはあたしのこと好きじゃないってこと? そうなの?」


「ティーナはティーナでめんどくさいし! ねえ、キリヤはどう思う?」


「? すまん、チャクラムと目で会話してたから聞いてなかった」


「こいつもこいつで……!」


「だが……」と、キリヤはチャクラムを腰に下げつつ続ける。


「そろそろ無駄話もお終いだな。村が近づいている。忘れたわけじゃないだろう? 魔王の幹部が待ち構えているかもしれない。ここからは最大限の注意を払わなくては」


 キリヤは真剣な雰囲気をまとう。


「たしかに…………仮に情報が本当だとしたら、すごい強敵が待ち構えてるかもしれないってことね…………」


「…………うちのギルドはがせの情報は渡さない。あんなパパだけど、そこにはちゃんとプライドがある。だから、まったくの嘘情報とは思えないわ…………」


 ティーナの言葉に、より雰囲気が重くなる。


「でも、逆に言えば魔王に近づくチャンスってことだよね! そっちの方がありがたいよ! ……それに、魔王に近づくってことは、お母さんにも近づくってことにもなるし…………」


「ミーニャ…………。そうね、ここはむしろ意気揚々と臨んでやろうじゃない!」


 私はぐっと拳を握りしめる。


「…………ん? あの辺りに人……っていうか、子どもがいるよ。たぶん村の子どもたち…………だよね?」


 ミーニャは人差し指で前方を指す。


「いや、相変わらずミーニャと私たちの間に視力の壁があって見えないけど…………。でも、子どもたちがいるってことはひとまず安心材料かしらね。さっそく話を…………」


「おーーーーい!!!」


 ミーニャはすでに子どもたちの元へ走っていた。


「早い!」


***


「まおうのかんぶ? そんなの見てないよ?」


 村の少女は小首を傾げる。


「他のみんなも?」


 他の子どもたちも同じような回答をする。


「うーん。やっぱりこの村に魔王の幹部が現れたっていうのは、嘘だったのかな?」


「で、でも、それじゃ情報が間違ってたってことに…………」


 ティーナは悲しげに目を伏せる。


「でもたしかに、村の外でこうして子どもたちが遊んでるくらい平和なんだから、そう考えるのが自然よね…………」


「だが、子どもたちの話だけで決めるのは少し、な。なあ君たち、俺たちを村の一番偉い人に会わせてくれないか?」


 キリヤはしゃがんで子どもたちに尋ねる。


「いちばんえらいひと…………長老だね。わかった! ついてきて!」


 私たちは、子どもたちの案内に従って村の入り口に歩いていく。子どもたちも村も、とても平和に見えた。…………少なくともこの時点では。

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