第38輪 好 敵 誕 生

「私たちはとりあえず、マグニアの街に戻ることにするわ。一度私たちだけでじっくり、いろいろ話し合いたいから」


「ええ。私たちは魔王軍幹部の情報のあった村に向かうわ」


「…………気をつけなさいよ、リミア」


 姉さんは私から目を少し逸らしながら照れくさそうに言う。


「ぷっ、あはは!」


「…………何よ?」


「姉さんってば、急に丸くなっちゃって!」


「ぐ……。も、もうあんたには優しくしないわよ! 魔王軍にズタボロにされなさい!」


 そっぽを向く姉さん。


「ごめんごめん! …………でも、もう一度こうして会えて、ちゃんと話せてよかったわ。時々、気がかりだったから…………」


 私は、姉さんの背中越しに語りかける。


「…………結局、私たちはただすれ違ってただけってことね…………。頑張りなさい、リミア。…………私の妹」


 振り返りざまに姉さんが不意打ちで見せた笑顔に思わず涙が出そうになるのを、ぐっと堪える。


「…………姉さんこそね。私だってすぐにビショップになってみせるんだから!」


 たわいもなく笑い合う私たちは、やっと本当の姉妹になれたような気がした。


***


「爆弾なんて使われてなかったらうちが勝ってた!」


 リンはミーニャにつっかかっていた。


「爆弾も実力のうち、だからね! 私の勝ちだよ! 爆弾にはバフもデバフもないしね! 一対多数ならとうぜん! 爆弾持ってる私のがリンちゃんより有利だよね!」


 それにミーニャはドヤ顔で応じる。


「ぐぬぬ…………。ていうか、さっきまではスルーしてたけど、『リンちゃん』って呼ぶのやめろ! それじゃまるで友達みたいじゃん!」


「え? ちがうの?」


「え?」


「そっかあ。せっかく仲良くなれたと思ったんだけどなあ。リンちゃんがちがうって言うなら、しかたないよね…………ごめんね。じゃあ私はティーナのとこに行ってくるね…………」


 ミーニャはリンに背を向けてとぼとぼ歩き始める。


「ちょ、ちょっと待った!」


「…………なに?」


「い、いや…………うちらは友達じゃ、ない…………けど! ライバル……! そう、ライバルだ! お互いを意識して高めあう、ライバル!」


「ライバル…………友達とはちがうの?」


 ミーニャは少し不満そうな顔でリンを見る。


「ちがう、けど…………ある意味友達以上の存在というか…………特別な存在っていうか…………」


 リンの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「友達以上…………そっか! 私とリンちゃんはライバル、なんだね! よくわかんないけど、いいね! ライバル! ライバル!」


 ミーニャはリンに抱きつく。


「く、くっつくな! ライバルは慣れ合わないんだ!」


「じゃあ私たちは慣れ合うライバルになろうよ!」


「ああもう、こいつめちゃくちゃだー!」


 こうしてミーニャに新たな友達、もといライバルが誕生した。


***


「お前最後の方、手抜いてただろ? ミーニャが爆弾を使うとはいえ、途中のリミアのダウンがあったうえで討伐数で勝てる雰囲気はしなかったからな」


 キリヤはミナトに詰め寄る。


「いや? 僕はラストスパートだからこそ、丁寧に仕留めようと努めてただけだよ」


 ミナトはキリヤに余裕をもった笑顔で返答する。


「それを、手を抜いてるとは言わないのか?」


「まったく、君はもう少し直球じゃない会話をできないのかい? …………まあ、僕は最初から気づいていた。気づいていて、途中まで迷っていた。ローラにとっての最善はなんだろうか、ってね」


「…………」


「どうやら、今回ローラを救えるのは僕じゃなくて妹さんだったみたいだからね。結果オーライというわけだ」


「…………僧侶であるリミアがビショップである姉より能力で劣っているのはもちろん、ミーニャは実力ではあの武闘家の女に、俺はお前に劣っている。勝負の中でそのことに気づいた」


「…………。そうか。それで、どうするんだい?」


 ミナトは笑顔のままキリヤに尋ねる。


「磨き上げる。技を、そして、チャクラムをな!」


「…………」


「チャクラムを、な!」


「わかったから……。いろいろ考えてるのかチャクラムのことしか考えてないのか、まったくよくわからない人間だ、君は…………」


「チャクラムを愛するのは自然の摂理だろう! むしろ俺はチャクラムに関心を持たないお前らがよくわからん!」


「…………そうかい。まあとにかく、僕たちも魔王討伐を目的としている以上は全力を尽くす。先に魔王を倒すのは僕たちだよ」


「まあ、俺はチャクラムと過ごせればそれでいいんだが…………どうやら俺の仲間はそうじゃないらしいからな。魔王を倒すのは俺たちだと言っておこう!」


 そして、キリヤとミナトは闘志を抱いて微笑み合った。

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