第37輪 対 決 決 着

「ぐっ…………はあ、はあ!」


「どうしたの、リミア!?」


 苦しそうな私を見て、ティーナが心配そうに声をかけてくる。


「どうしたもこうしたも、単なる魔力切れよ。私たちは二人ともずっと継続して味方にバフをかけ続けている……ここに来て私とあんたの差が出たわね、リミア!」


 姉さんはまだまだ余裕そうな顔で私に笑いかける。


 体に力が入らない。このままじゃ、私たちは…………。


「これであんたたちはお終いね。私たちは……いや、私はリミア、あんたに勝つ。 あんたの生き方を否定して、私の生き方が正しいと証明する!」


 ぼんやりとしてきた頭に、姉さんの言葉が響いてくる。


 そうだ。私はもう気づいたんだ。これは、私自身のための戦いじゃない。姉さんを救うための…………。


 4年前の姉さんの顔が思い出される。15年間も一緒に過ごしてきて、初めて見た、姉さんの素顔。


 姉さんは、きっと辛かったんだ。周りの期待にひたすら応え続ける日々が。自分が望まない自分になるための努力が。


 だから、私には殻の中に閉じこもっててほしかった。殻から飛び出した私は、姉さんからすれば裏切り者に見えたんだ。だから、恨むしかなかった。


 ここで私が負けたら、姉さんはきっとこの先一生、自分が決めたものじゃない、誰かに決められた人生を送ることになってしまう。


 それは、私が止めなければ。だから、私が勝たなきゃ……!


「……スキル、『無限の湧水』」


 私は、無意識のうちに私が知らないスキルを唱えていた。


 体が、力を取り戻していく。


「はああああ!」


 私は再びキリヤとミーニャにバフをかける。魔力の消費速度なんて、もう気にしない。


「なっ、この土壇場で新しいスキルを習得したっていうの!?」


 姉さんは驚いた顔で私を見る。


「いや、それでも私たちが有利なのは変わらない! このまま逃げ切ってやる!」


 すぐに姉さんは仲間の補助に集中する。


 私たちだけじゃない。この場にいるすべての人の思いが激しくぶつかり合う。


 …………そして、私たちの戦いは終わった。


***


 戦いを終えた私たちは、スタート地点に集まっていた。


 両パーティ……特に私と姉さんは緊張した顔で睨み合う。


「それじゃあ、それぞれの合計討伐数を発表し合おうか。キリヤ、そちらの討伐数を教えてくれるかい?」


「ああ。俺たちの合計討伐数は、92。そっちは?」


 その場の空気が張り詰める。


「僕たちの合計討伐数は……」


 ミナトの口元に全員の注目が集まる。


「89だ。そっちの勝ちだね」


 ミーニャとティーナの顔がみるみるうちに笑顔に変わる。


「いやったあ! 私たちの勝ちだ! ティーナ〜おかえり〜!」


「ただいま! …………まあ、みんななら勝つって信じてたけどね……」


 ティーナは抱きつくミーニャを受け止めつつ、私に笑顔を向ける。


 ティーナに笑顔を返しつつその後ろのキリヤに目を向けると、キリヤはゆっくり頷く。


 …………そうか。キリヤは初めから気づいてたんだ、私の姉さんに対する、本当の気持ち。


 私はキリヤに頷き返して、姉さんのところに歩み寄る。


「姉さん」


「そんな、私が負けるなんて……私の努力は、我慢は……私の、今までの時間は一体……」


 姉さんは虚ろな目で立ちすくんでいた。


「姉さん!」


「ひっ、リミア……」


 姉さんはさっきまでと打って変わって、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「来ないで! 私は、私はまだ負けて……。…………え?」


 私は姉さんを優しく抱きしめる。


「ごめんね姉さん。あの時、私の存在が姉さんの心の支えだったのね。私が、姉さんを一人にしちゃったのね」


「リ、ミア…………」


「でも、姉さんが一人で頑張る必要なんてない。姉さんは、姉さんの好きな様に生きればいいんだから」


「でも、お父さまやお母さまは…………」


「そんなのは二の次よ! それに姉さんはもう、新しい居場所を見つけたんじゃない?」


 私はミナトとリンの方を見る。二人は姉さんの方を見てただ笑顔を向ける。


「そっか。私はもう、私でいていいのね…………」


 姉さんは笑う。張り詰めた糸が、緩むように。


「リミア、ごめんなさい。私……」


「ストップ。私は大丈夫だから。ただ、姉さんが幸せに気づけたなら、よかったわ……!」


 精一杯の笑顔を作る。不器用な妹が、不器用な姉に見せられる精一杯の笑顔。


「そう…………。ありがとう、リミア…………」


 初めて感じた、姉さんの温もり。


 私たちのまわりを、一陣の風が通り抜けていった。

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