第35輪 勝 負 開 始
「ふふ。お別れの挨拶は済んだかしら?」
丘の頂上に着くと、姉さんは余裕そうな笑みを浮かべていた。
「そんなものは一言一句してないわ。ティーナは私たちの仲間よ。絶対に渡さない。姉さんには絶対に負けない!」
「あら。今まで一度でも、あんたが私に勝ったことなんてあったかしら? それじゃあ、さっそく始めるとしましょう。撒き餌の効果は30分。その間の討伐数で勝負よ。ようい…………始め」
姉さんが撒き餌を砕くとともに、周囲のあちこちに魔物が現れ始める。
それと同時にキリヤ、ミーニャ、ミナト、リンの4人が走り出し、私と姉さんはそれぞれ味方にバフをかける。
「キリヤ、リミア、ミーニャ、頑張りなさいよ! 未来のトップアイドルの応援受け取って負けるとか承知しないわよー!」
ティーナの声援に私は笑顔で応える。
「トップアイドル? あの子、アイドルなんて目指してるの?」
姉さんは眉をひそめる。
「そうよ。詳細は省くけど、ティーナはアイドルになるために魔王を倒そうとしてる!」
「意味がわからないわね。才能を捨てるために努力をするなんて」
「そうかしら? 私はティーナの生き方がすばらしいと思う。真に自分の幸せのために、考えて歩き出したんだから」
私の言葉を聞いた姉さんは、ギリっと歯を噛みしめる。
「あんたの場合は、ただ逃げだしただけでしょうがっ……!」
「…………ねえ、聞いていい? どうして姉さんは冒険者になったの?」
***
「せいっ!」
キリヤはチャクラムを投げてはキャッチしまた投げるを繰り返していた。
「今ので何匹目だ……? いや、カウントを確認してる暇があったら次を倒さなくては!」
「ずいぶん必死だね。剣士の子のためかい? それとも、ローラの妹さんのためかい? ふっ!」
魔物に矢を放ちつつミナトがキリヤに話しかける。
「チャクラムのために決まってるだろう! あの女がチャクラムを侮辱したことは許さん!」
「まったく、素直じゃないな。誰かのためじゃないとそんな顔はできないと思うけどね」
話を続けながらも二人は順調に魔物を倒していく。
「俺はいつだってチャクラムファーストだ。お前はどうなんだ? ティーナの獲得にそこまで乗り気なようには見えないが」
「……まあ、そうだね。無理やりパーティに入ってもらったところで、君たちが築いたような信頼が僕たちとあの子との間に築けるとは思わない。僕としてはこの勝負、たとえ勝っても剣士の子は君たちのパーティに留まらせるつもりだ」
「だとしたら、どうしてお前こそ必死になっている?」
「ローラは、見た目ほど悪い子じゃないんだ。もちろん、良い子だと言うつもりもないけどね。ローラにとって、剣士の子の引き抜きはきっと理由でしかない。妹さんと戦うためのね」
「…………聞いたのか? リミアとのことを」
「まあ、深くは話してくれなかったけどね。とにかくローラは、妹さんに勝つことで何かを変えようと必死になってる。だったら、その先はどうあれ僕は彼女の力になりたいんだ」
「惚れているのか?」
「さあ、どうだろうね? むしろ、君はリミアという子をどう思っているんだい?」
「ふん。俺が惚れるのは過去現在未来永劫チャクラムだけだ。…………だが、チャクラムのために勝つついでに、おまけであいつにプラスになる分には悪いことではないだろう」
「…………ふ、そうかい。はっ!」
ミナトが放った矢が、夕焼けの空に向かって飛んでいく。
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