第33輪 敵 対 勝 負 

「えっと、僕は異世界から来た勇者、ミナト。多分君も、僕と同じだよね?」


 ミナトはキリヤの方を向く。


「ああ。俺はキリヤだ。いつか勇者に会うとは思っていたが、こんな形とはな」


「僕も同じ気持ちだよ。それで、こっちの派手な髪の女の子がリン。それに、君たちに話しかけたのが僕のサポート役のローラ」


「サポート役……」


「ええ。それもあんたとは違う。私は王国のお墨付き………まあ、ありていに言えば資金援助だけど、を得ている。かけられた期待があんたとは違うのよ」


 私の呟きに姉さんが反応する。


「……どうせ家の力でしょ」


 私は姉さんを睨みつける。


「……く、あはは! 何を勘違いしているのかしら? これは私の実力よ? だって私は、ビショップだもの!」


「ビショップ…………! うそ……」


「? ビショップってなに?」


 ミーニャが頭に疑問符を浮かべる。


「ビショップは…………僧侶の上位職よ」


「そう! その反応を見る限りリミア。あなたはまだビショップになれていないようね。まったく、4年も時間があってその程度だもの。妹の才能の無さが姉として恥ずかしいわ」


「…………!」


 悔しいけどほんとのことだ。私はまだビショップになれてない。


「話が逸れたようだが、ミナト。お前たちの目的はティーナの引き抜き……ということで合っているか?」


 キリヤがミナトに尋ねる。


「ああ。僕たちは強力な4人目のメンバーを探していてね。彼女なら申し分ない実力を持っている。どうだい? もちろんこちらの実力を見たいというのなら見せよう」


「えっと…………」


 ティーナは困った表情をする。


「絶対だめ! ティーナは私たちと魔王を倒すの!」


「さっきからうるさいよそこの小っちゃい魔法使い! うちらのが強いんだからその子もうちらのパーティにいた方がいいに決まってるじゃん!」


 リンという子がミーニャにつっかかる。


「な! 背の高さそんなに変わらないのに! はい! これでティーナは私と一心同体だから連れていけませんー残念だったね!」


 ミーニャはティーナにひしっと抱きつく。


 バチバチと火花を散らす小っちゃい二人。あれ? でももしかして二人とも、私より大きい? どことは言わないけど。


「じゃあこうしましょう。私たち三人と、剣士の子を除いたそちらの三人。どちらが強いかはっきりさせましょう。勝った方が剣士の子を手に入れる」


 姉さんは不敵に笑う。


「な……!」


「もちろん勇者どうしの戦いはご法度。だから魔物を倒した数で勝負よ。私が持っている撒き餌を使えば魔物が寄ってくる。それをより多く倒した方が勝ち。簡単な勝負でしょ?」


「ようし、やってやろうよキリヤ、リミア! ティーナはぜったい渡さない!」


 ミーニャはふんす、と気合を入れる。


「待てミーニャ。そもそもティーナは俺たちのパーティのメンバーだ。そんな勝負を受けてやる理由がない。そもそも、どのパーティに入るかはティーナの自由意思の問題だからな」


 ミーニャははっとする。


「た、たしかに! 騙された!」


 …………確かにキリヤの言う通り、こんな勝負受ける必要はない。でも…………。


「あら。負けるのが怖いのかしら? そうよね。同じ勇者に負けるのは恥だものね。それにその腰にぶら下げた武器、今まで見たことないし。とても弱そうだものね」


 あっ。


 キリヤの身体がピクッと動く。


「すまない。よく聞こえなかったんだが、最後の方、なんて言った?」


「? 腰にぶら下げた変な武器が弱そうってところ?」


 キリヤの血管がぶち切れる音がした。


「俺のことはどうでもいい。だがチャクラムのことを悪く言う奴は何人たりとも許さん! おいお前ら、こいつら叩き潰すぞ!」


 キリヤの目がカッと開く。


 姉さんは一瞬驚いた顔をして、その後すぐに、にやりと笑う。


「キ、キリヤ! さっきと言ってることちがうよ! こんな勝負受ける必要ないんでしょっ!?」


 私はキリヤを止めようとするミーニャの肩に手を置く。


「ごめん、ミーニャ、ティーナ。私もこの勝負、受けたい。勝ちたいの、姉さんに……!」


「リミアまで!? ティ、ティーナ、どうしよう? 負けたらティーナは向こうのパーティに…………」


 私は真剣な顔でティーナを見つめる。


「……もう、しょうがないわね! ただし、やるなら絶対勝ってよね! あたしはこのパーティで魔王を倒したい。そう、思ってるから…………」


 ティーナは少し照れながら、私の背中を叩く。


「ティーナ…………ありがとう! 絶対、負けないから!」


「ふふ。話は決まったようね。それじゃあ一時間後、あの丘の頂上で私が撒き餌を使って、同時にスタートよ。それまでにお別れの挨拶でもしていることね! 行くわよミナト、リン」


 そう言うと三人は丘に向かって歩いていく。


「絶対、負けないんだから……!」


 私は姉の離れていく背中を、じっと見つめていた。

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