第32輪 剣 士 勧 誘

 アイドルを目指す剣士・ティーナを仲間に向かえた私たちは、マグニアの街を出発し、「ガラム村」へと続く道なき道を進んでいた。


「ねえ、今さらなんだけど…………パーティの4人目、最後の一人があたしで良かったの? あたしとしては嬉しいんだけど、ほら、あたしは実戦経験とかあんまり無いから……」


 ティーナがそんな言葉をふと口にする。


「本当に今さらだな。もちろんお前のためにパーティに誘ったというところもあるが、それだけじゃない。お前の剣さばきは見事だった。ポテンシャルだけで言えば俺たちの中ではずば抜けているだろう」


「そ、そうなのね。あたし、他の冒険者が戦ってるとこをほとんど見たこと無いから、自分がどのくらい強いのかがイマイチわからなくて………」


「王国が資金を出してるってだけで、十分ティーナの強さの証明になるわよ。ベテラン僧侶で美少女の私ですらもらってないし。もらってるのは勇者のサポート役としての必要最低限の路銀だけ。美少女なのに………」


「そ、そうなのね………(美少女は王国が資金を出す理由になるのかしら………?)」


「! だったら、ティーナ一人で魔物と戦ってもう一度ティーナの戦いっぷりを見せてよ! ………ちょうど魔物が出てきたし!」


 ミーニャが指さす方向に大きないのししの魔物が姿を現す。


「ミーニャ………。そうね、もう一回見せてあげるわ! あたしの剣士としての力!」


ティーナは背中の大剣を引き抜いて、猪突猛進する魔物を見据える。


「やあっ!」


 かけ声とともに、ティーナは剣を思い切り振り抜く。


 すると魔物は呻き声とともに血を流しながら吹き飛ぶ。


「とどめよ!」


 ティーナは倒れた魔物にすかさず剣を突き刺してとどめをさす。


「どう? あたしもなかなかやるでしょ?」


「……あ、ああ」


「そうだね……」


「え、なにその反応? もしかしてこの魔物、一撃で倒せる弱いやつだった? ならもう一回……」


 キリヤとミーニャの反応を見て不安げな顔をするティーナ。いや、そうじゃなくて……。


「逆よ逆! 簡単に倒しすぎ! そんな簡単に倒せる魔物じゃないわよそれ!」


 私は困惑するティーナにツッコミを入れる。


「ああ……よかった……。やっぱり私は慧眼だったのね! ティーナ、あなたすごいわ! あなたがいれば魔王討伐も現実味が……」


「ええまったく、あなた達にはもったいない人材だわ!」


 私の話を遮って、聞き慣れない声が後方から聞こえてくる。……いや、この声はどこかで……。


「……!」


 後ろを振り返ると、冒険者らしき三人の姿があった。


 一人はキリヤと同じくらいの歳の長身の細身の男で、背中に弓矢を背負っている。もう一人は薄いピンク髪に緑色のメッシュを入れた派手髪の目つきの悪い女の子で、道衣を身につけている。


 そして、最後の一人。紫色の長い髪に特徴的な桃花眼とうかがん。外面だけは上品に聞こえるその声色は……。


「……姉さん」


「『お姉さま』と呼びなさい、リミア……相変わらず品の無い子だわ」


 姉さんは目の笑っていない笑みを私に投げかける。


「『姉さん』って……」


「リミアのお姉さん!?」


 ティーナとミーニャが驚きの声を上げる。


「『姉さん』って……」


「あの子はローラの妹ってこと!? うち聞いてないよ!」


 ……向こうもなんか驚いてるし…………。


「姉さん、今さら私に何の用?」


 私は少し身構えながら、姉さんに尋ねる。


「別に、4年前に家出したあんたに用なんて無いわ。用があるのはそこの剣士の子。単刀直入に言うわ。あなた、私たちと一緒に来ない?」


「え? あたし?」


 ティーナは自分を指さして首を傾げる。


「そう、あなた。さっきの戦いぶりは見ていたわ。あなたはそんなパーティに収まる器じゃない。あなたの目的は知らないけど、私たちと来れば、より早く魔王に辿り着ける。この、勇者ミナトのパーティに入れば、ね」


 姉さんはにぃ、と不敵な笑みを浮かべる。


「勇者……?」


 キリヤは長身の男に目を向ける。


「ス、ストップストーップ! だめだめ、ティーナは私たちと来るんだから!」


 ミーニャがティーナの前に立ちはだかる。


「……待て。情報の整理が追いつかないんだが」


 キリヤは頭に手を当てる。


「……仕方ないわね。ミナト、説明しなさい」


「え、僕がかい? 構わないけど……」


 ミナトと呼ばれた長身の男に全員の視線が集まる。

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