第30輪 夢 追 宣 言
「よし、覚悟はできたか、ティーナ?」
「ええ、大丈夫よ!」
一夜明けて、私たちはティーナのお父さんから情報を聞くために、ギルドの前まで来ていた。…………のはいいけど、なぜか私、昨日の記憶が途中から無くなってるのよね。ミーニャとティーナに聞いてもちゃんと答えてくれないし。
「でも、別に来るのは私たち3人だけでも良かったのよ? ティーナが無理して来る必要は……って、それを言うのは野暮よね、ごめんなさい」
「ありがとうリミア。でも、やっぱり一度パパには面と向かって一言言ってから旅立たないと、いけない気がするから」
「大丈夫! 私もいるし、堂々と胸を張って旅立とうよ!」
ん、あれ? 今なぜかミーニャが視線をこっちに向けたような気がしたけど、気のせい?
「よし、じゃあ入るぞ!」
キリヤはギルドの扉を開ける。
「いらっしゃ…………ああ、昨日の兄ちゃんたちに…………まさかの俺の娘じゃねえか。ははは! ということは…………まさか本当にパーティに入れちまうとはな!」
「まあ、な。奥で話をしてもいいか?」
「もちろんだとも」
オーナーはティーナを一瞥して、奥の部屋に入っていく。
***
「それじゃ、約束通り情報の提供を…………」
「いや、先にティーナから話がある」
「ティーナ…………? ああ、あだ名をつけてもらったってわけだな。仲がよさそうでなによりだぜ。で、なんだティーナ、手短にしろよ。商談は後にも控えてる」
ミーニャがむっとした顔をするが、ティーナは首を振ってオーナーに目を向ける。
「パパ。あたしはこのパーティで魔王を倒す。そして、アイドルになる。そのためにあたしはここを旅立つ!」
オーナーの眉がぴくっと動く。
「おいおい。やっと冒険者として生きる決意をしたのかと思えば、なんだそりゃ? まだ諦めてなかったのかよ。魔王を倒せるような剣士なら、剣士として生きる方が幸せに決まってんじゃねえか。お前はアイドルより、剣士として生きた方が確実に市場価値が高い。お前はアイドルでは成功しない、やめとけ」
私とキリヤとミーニャはあくまで無言を貫く。これはティーナの戦いだから。…………ミーニャの我慢はそろそろもたない気がするけど。
「あたしに何が向いてるかとか、そんなことはどうでもいい! あたしはあたしのしたいことをする。今までの言い訳ばかりのあたしを乗り越えて! …………それを、魔王を倒すことによって証明するわ!」
オーナーは真顔でティーナを見つめる。
「…………まったく、昨日の今日で何があったんだか。そんなに目をキラキラさせやがって。…………まあ、別に構わないぜ。いつかお前は挫折する。そうして才能にしがみつく。それが遅いか早いかの違いだ」
「あたしは絶対挫折しない。…………あたしの夢を、受け止めてくれる人たちがいるから。言いたいことはそれだけ」
ティーナは笑顔で私たちの方に目を向けてから、椅子に座る。
「オーケー。聞くだけは聞いたぜ。路銀は持たせないから自分でなんとかしろよ…………それで、こいつが昨日兄ちゃんが立ち去り際に置いてったご所望リストの情報だ」
オーナーはキリヤの前に紙をバン、と置く。
「え? キリヤあんた、去り際にそんなことしてたの? 気づかなかった…………」
「ティーナを仲間に引き入れることは決めてたからな。昨日のうちに伝えていた方が手間が省けるだろう?」
「いや、そうだけど…………言いなさいよ!」
私はキリヤの腹をひじでぐりぐりする。
「う、もう腹はやめてくれ…………」
「魔王軍についてだが、この街から東に進んだ『ガラム村』という村に、魔王軍の幹部らしき魔物が出たという情報があった」
「幹部…………」
私はごくり、と唾を飲む。
「それと、大魔法使いレーニャ=クリアスターの居場所だが、悪いがこっちは手掛かりなしだ。まあ元々冒険者なんて転々と移動するもんだからな…………。で、なんでレーニャの情報なんて知ろうとしてるんだ? これはただの興味本位だから嫌なら話す必要はないが」
「私のお母さんだから。私はお母さんに会いたくてキリヤたちといっしょに旅をしてるんだよ」
ミーニャはオーナーの問いに自分で答える。
「! おいおいまじかよ! レーニャに娘がいたなんてなあ! 本当ならビックニュースだぜ! こんなところにスクープが埋まってたとはなあ!」
オーナーは私たちの目線に気づき、目を逸らす。
「冗談だよ。客の情報をそうほいほい渡すか。…………まあ、時と場合によるが」
…………少し待っても何も言わないので、時と場合によるのはそれは冗談じゃないらしい。
「だが、むしろこっちからお嬢ちゃんの情報を流した方が向こうが気づくんじゃねえか? とも思うがな」
「それは…………上手く言えないけど、ちがう気がするから。私は自分でお母さんに会いに行くよ」
「……そうかい」
「ミーニャの話はここまでだ。それじゃあ俺たちは行くが、何かあんたから言うことはあるか?」
「俺から? ま、情報でもモノでもいいもんが入ったならうちが買い取るぜ。それと、ほしいもんがあるならうちに来な。『商業ギルドとして』、取引してやる」
「そうか。…………それじゃあ、俺たちはいくぞ」
キリヤはティーナの顔色を窺いつつ、部屋を出る。私たちもそれに続く。
私はティーナの、少し寂しげな目が気になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます