第29輪 自 己 紹 介
「…………改めて、あたしはクリスティーナ、クリスティーナ=スタウトよ。よろしく」
パチパチパチ、と3人分の拍手が部屋に鳴り響く。
「でも、本当に良かったの? あたしも宿に泊めさせてもらうことになって…………」
「ええ。もともと私とミーニャの部屋は4人部屋しか空いてなかったのを取ったものだし、新しい仲間なら、じっくり話もしたいしね…………あなたこそ、ギルドに帰らなくて良かったの?」
「ああ…………あたしは別に大丈夫。今までも何回か家出みたいなことしてたけど、パパがあたしを探したことなんて無かったし」
「…………なんというか、つくづくといった感じだな。というか、なぜ4人用の広い部屋が使えるのに2人用の俺の部屋に集まる?」
「女子部屋は男子禁制だからに決まってるでしょ。部屋の前にスタンバるのも禁止ね」
「う……思い出したら腹痛が蘇ってきた。わかった、もう何も言わん」
「…………ぷっ、ははは!」
「ど、どうしたのクリスティーナ? 変なもの食べた?」
急に笑い出したクリスティーナにミーニャは心配そうな顔をする。
「…………いや、あたし、同年代の友達がずっといなかったから、こういうの楽しいな、って思って…………」
「私もクリスティーナと仲良くなれて嬉しいよ! …………ん、そういえば、クリスティーナってちょっと長くて呼びにくいね。あだ名みたいなの、考えようよ!」
名案ひらめいた! とばかりにミーニャは人差し指をピンと立てる。
「あたしもそうしてもらえると助かるわ。『クリスティーナ』に反応してこっちを見てきた誰かが、『あっ…………』ってなって何事も無かったかのように去っていく経験はもうあんまりしたくないから」
「……………………」
私たちはかける言葉も見つからず、ただそこはかとない笑顔を浮かべる。
「じ、じゃあ『クリス』! …………だと男の人っぽいから、後ろをとって『ティーナ』はどうかな?」
「『ティーナ』、『ティーナ』か…………。いい感じ、だと思うわ。響きもかわいいくて。……じゃあその、これからあたしのこと、『ティーナ』って呼んでくれるかしら?」
クリスティーナは照れくさそうに目を逸らしながら、私たちに確認する。
「ああ。よろしくな、ティーナ」
「よろしくね、ティーナ」
「ティーナ! ティーナ! ティーナ!」
「恥ずかしいから連呼するのはやめてもらえる?」
恥ずかしがりながらも嬉しそうにするティーナの顔を見たら、みんなきっとすぐ仲良くなれるだろうな、と思った。
「じゃあ、そろそろ俺たちの紹介に移ってもいいか? 俺はキリヤ。勇者でチャクラム使いだ。もう一度言う。チャクラム使いだ」
「キリヤね。チャクラム使い…………チャクラム使い…………。ああ! その腰にぶら下げてた武器! なんて名前か思い出せなかったけど、そうだ、チャクラムだわ!」
その瞬間、私とミーニャは不穏な雰囲気を感じ取る。
「何!? 知っている! 知っているのかチャクラムを! いや、普通知っていて当然なんだが、この世界には無知な人間が多すぎてな。武器屋か鍛冶屋以外でチャクラムを知っている奴に出会ったのはお前が初めてだ! ティーナ!」
「え? うう、ああ…………。小さい頃にギルドに来た冒険者が見たことない武器持ってたから、それなんて武器? って聞いたのを覚えてて…………、っていうか急にテンション上げてどうしたの!? ちょっと怖……」
「そうかそうか! いやー良かった! 新しい仲間がチャクラムを知っている奴で! どうだ? 今日は朝までチャクラムのすばらしさについて語り合おうじゃないか! お前には特別に俺のチャクラムを触らせてやろう!」
「え、怖い! 顔近い! 急にどうしたのよ!? さっきまでもっとクールな感じだったじゃない!」
「とうっ」
「ぐはっ!」
私はかかと落としでキリヤをダウンさせる。
「ごめんなさいねー。こいつチャクラムのことになると変態と化すっていうか、むしろこっちが素というかで大変なのよね。こんな勇者だけど我慢してくれると嬉しいわ」
「あ、あははー大丈夫よ。このくらい……」
ティーナの笑顔が明らかに不自然になってる! 私がなんとかしなくちゃ……!
「それじゃあ仕切り直して、私はリミア。王国に依頼された勇者のサポート役で、ジョブは僧侶よ。よろしくね」
「リミアね、よろしく。最初にあった時から思ってたけど、長い髪がきれいで大人っぽくて、大きいヘアピンがギャップ出してて、あたしの目指すアイドル像に近い感じがするのよね、リミアは。……あとちょっと何かが足りない気がするけど、何かしらね?」
心なしかティーナの目線が私の胸に向いてる気がするけど、気にしないでおこう。それにしてもこの子……。
「すごい褒め上手じゃない! ああ、久しぶりに感じたわ、この快感! キリヤもミーニャもあんまり褒めてくれないんだもの! さあティーナ、もっと褒めてちょうだい!」
「え? ……そ、そうね。親しみやすいお姉さんって感じがして素敵だと思うし……えっと、あ、杖! 杖もピカピカできれいだなって思うわ!」
「ああもう最高! そうよね、私はとっても優しくて綺麗なお姉さんよね! 杖を持った姿は敵も我を忘れてしまうほど魅力的で、他の冒険者の追随を許さないわよね!」
「…………あの、そこまでは言ってないんだけど…………」
「まったく、キリヤもミーニャも見習ってほしいわ! 私は褒められて伸びるタイプなんだから! そもそも私がいなかったらきっとキリヤも今頃どこかで野垂れ死んでただろうし、ミーニャやティーナがパーティに加わることも無かったんだから、もっと私を大切にしてほしいわよね。この旅のすべての因果律は私が握ってるんだから! あなたもそう思うわよねティーナ? さあ、もっと私のことを褒めて…………」
「ていっ」
「うっ!」
「…………だ、大丈夫なの? リミア動かなくなったけど」
「うん、ちょっと気絶させただけだから。もう、二人ともときどき変な人になるから困っちゃうよね!」
「…………まあでも、楽しそうなパーティで良かったわ。それに、ミーニャもいるし。…………あたしはミーニャの言葉が最後の一押しになって、このパーティに入ろうと思ったから」
「えへへ。断られちゃったらどうしようって思ったけど、こうしてティーナとお話できるようになって良かったよ。…………そうだ! お近づきのしるしにティーナに渡したいものがあるんだけど…………」
「? 何かしら?」
「はい! 『小っちゃくて強い爆弾』!」
「……ば、爆弾!?」
「うん! 最近私が改良して作ったんだけど、コンパクトなのにいい感じの威力が出るんだよ! たとえティーナがはぐれても、これを使えばすぐに会えるし! 遠慮しないで受けとって、どうぞ!」
「…………あ、ありがとう」
「(あたし、このパーティに入ってほんとに大丈夫だったのかしら…………)」
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